肝臓の線維化を改善するホルモンの同定に成功
-非アルコール性脂肪性肝炎・肝硬変の治療応用の可能性-

2016年10月11日

神戸大学大学院医学研究科糖尿病内分泌内科学の高橋裕准教授、西沢衡医学研究員らの研究グループは、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH※1)・肝硬変における肝臓の線維化を改善するホルモンを同定し、そのしくみを明らかにすることに成功しました。NASHは日本においても増加し続けていますが、線維化の抑制が生命予後の改善に重要であることから、今後、NASH、肝硬変への治療応用が期待されます。この研究成果は、10月10日の午後6時(日本時間)に、「Scientific Reports誌」にオンライン掲載されました。

NASHは、脂肪肝が悪化したもので、肥満や糖尿病を背景に、肝臓で脂肪沈着、炎症、線維化を引き起こす疾患です。その一部は、線維化が進展して肝硬変や肝癌を引き起こし、生命予後が悪化します。脂肪肝、NASHはメタボリック症候群の肝臓の表現型といわれており、NASHだけで現在300~400万人の患者さんの存在が推測されていますが、日本においても肥満、糖尿病の増加と共に増加する一方であり、公衆衛生上も重要な問題になっています。一般の肝硬変も含めて、線維化が生命予後の悪化と強く関連していることから、線維化を抑制、改善する薬剤の開発が喫緊の課題ですが、現状の薬剤ではごく限られた効果しか期待できません。

当研究グループではこれまで、成人で成長ホルモン(GH※2)が分泌されない患者さん(成人GH分泌不全症)において脂肪肝、NASHが非常に多いこと、そして主にGHによって産生されるインスリン様増殖因子-I(IGF-I※3, アイジーエフワン)が足らないことが原因であること、GHの投与が成人GH分泌不全症のNASHを改善すること、成人GH分泌不全症のモデル動物ではGH, IGF-Iが有効であることを見出し報告してきました。

今回そのような状況において、当研究グループはIGF-Iの一般のNASH、肝硬変への臨床応用の可能性を明らかにするために、動物モデルでの有効性を調べ、その著明な線維化改善効果を見出しました。当研究グループはまず、肥満NASHモデルマウスを用いてIGF-Iの効果を調べました。その結果、1ヶ月間の投与によって、NASHの特徴である脂肪沈着、炎症、線維化に対して劇的な改善を認めました。さらに進展した肝硬変モデルマウスにおいても線維化改善効果を認めました。その作用機序を調べたところ、IGF-Iは線維化の進展において重要な役割を果たしている肝臓の星細胞に対して、細胞老化を引き起こすことにより活性を抑制し、線維化を防止していることを見出しました。またIGF-IはNASHの原因のひとつである肝細胞のミトコンドリア機能低下や酸化ストレス亢進状態を改善するとともに脂肪沈着や炎症を改善しました。

現在、NASHの線維化や進展を押さえる薬剤は非常に限られています。今回の結果からIGF-Iが線維化を改善し、NASHや肝硬変の患者さんの生命予後や合併症を改善する可能性が示唆されました。またIGF-Iは肝硬変モデルにも有効であったことから、NASHだけではなくウイルス性肝炎などが原因で引き起こされた肝硬変にも有用である可能性があります。そしてIGF-Iのユニークな機序が明らかになったことより、他の薬剤との組み合わせによって線維化を改善する画期的な治療法に結びつくことが期待されます。

用語解説

※1:NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)
アルコール多飲がないにもかかわらず、アルコール性肝炎と同じように、脂肪沈着、炎症、線維化を認める疾患。肥満、糖尿病、脂質異常症などを背景に発症する。
※2:GH(成長ホルモン)
脳下垂体から分泌されIGF-I分泌を介して成長を促進するホルモン
※3:IGF-I(アイジーエフワン、インスリン様増殖因子—I)
主に肝臓で作られ、成長を促進する増殖因子、ホルモン。神経細胞の生存を促進したり、インスリン作用を促進するなど様々な作用がある。

掲載雑誌

Scientific Reports

掲載論文

“IGF-I induces senescence of hepatic stellate cells and limits fibrosis in a p53-dependent manner”

Hitoshi Nishizawa, Genzo Iguchi, Hidenori Fukuoka, Michiko Takahashi, Kentaro Suda, Hironori Bando, Ryusaku Matsumoto, Kenichi Yoshida, Yukiko Odake, Wataru Ogawa, Yutaka Takahashi

関連リンク

(医学研究科、広報課)