DNAのメチル化が雑種強勢に重要であることを発見―収量性に優れた野菜の品種育成の効率化に期待-

2016年10月11日

神戸大学大学院農学研究科の大学院生・石倉園子さん、宮路直実さん、藤本龍准教授、安田剛志教授とオーストラリアのCSIROのElizabeth S. Dennis博士の研究グループは、DNAメチル化の維持に関わる遺伝子が、シロイヌナズナの雑種強勢に密接に関係していることを発見しました。この発見を、ハクサイやキャベツ等のアブラナ科野菜の研究に応用し、収量性に優れた品種育成の効率化へと結びつけることが期待されます。 この研究成果は10月8日(日本時間)に米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」にオンライン掲載されました。

雑種強勢とは、ある特定の組合せの両親を交雑した際に、雑種 (F1) 個体 (子供) が両親よりも優れた形質を示す現象です。雑種個体は、植物体が大きくなる、ストレスに強くなるなど農業上有用な特徴を持つため、現在、これら雑種強勢の特性を発揮するよう育成された一代雑種品種 (F1品種)が広く栽培されています。世界的には、トウモロコシ、イネ、ナタネ等が、日本国内では、ほとんどの野菜が一代雑種品種にあたります。この現象の発見は100年以上も前にさかのぼり、種の起原で有名なダーウィンの著書にも記載されています。1900年代初めのトウモロコシでの一代雑種品種の導入を皮切りに数々の農作物で導入され、収量が飛躍的に増加し、緑の革命にも匹敵する成果をあげました。しかし、未だ分子機構の解明には至っていません。

植物の形質 (見た目) は、DNAによって運命づけられ、A (アデニン)、T (チミン)、C (シトシン)、G (グアニン) の4つの塩基の組合せ (塩基配列) によることが分かっています。近年、一卵性双生児を見ても分かるように、塩基配列が同一であっても、形質に違いが見られることが明らかになってきています。このような塩基配列の変化を伴わない遺伝子の発現調節機構は、遺伝的 (ジェネティック)な制御に対して、エピジェネティック (後生遺伝的)な制御と呼ばれています。エピジェネティックな制御の一つとしてDNAのメチル化が挙げられ、真核生物では、シトシンにメチル基を付加もしくは除去することにより、塩基配列には変化を起こさずに、遺伝子発現が調節されています。また、DNAはヒストンと結合し、クロマチン構造を形成しています。DNAのメチル化やヒストンの化学修飾によるクロマチン構造の変化も遺伝子発現調節に関わっています。近年、雑種強勢には遺伝的な要因だけでなく、このエピジェネティックな制御が影響を与えているとの報告が相次いでいます。

ハクサイやキャベツと同じアブラナ科に属するモデル植物のシロイヌナズナでも、雑種強勢が見られ、C24系統とColombia-0 (Col) 系統を交雑したF1では、植物体が大きくなることが知られています (Fujimoto et al. 2012, PNAS 109: 7109-7114)(図1)。しかし、なぜ、F1でのみ、両親よりも優れた能力を発揮できるかは、未だ完全には理解されていません。

本研究では、DNAのメチル化に関わる代表的な遺伝子に変異が起こっているシロイヌナズナの変異体を用いて、雑種強勢が生じるかを確認することにより、それぞれの遺伝子とその遺伝子が制御するエピジェネティックな修飾が雑種強勢に関わるかを調査しました。

様々な遺伝子がDNAのメチル化を複合的に制御しています。そのうち、DNAメチル化の維持に関わるMET1 (Methyltransferase 1) や、新たにメチル化を付与するRdDM (RNA directed DNA methylation) に関わるPol IVの遺伝子の機能が喪失すると、DNAのメチル化状態に異常が見られますが、雑種強勢には影響が見られませんでした。しかし、クロマチン構造の変化を介してDNAメチル化を維持する役割を持つクロマチンリモデリング因子DDM1が機能喪失した変異体を交雑したF1では、DNAのメチル化状態に異常が見られ、雑種強勢のレベルが顕著に低下する現象が認められました (図2)。このことから、DDM1と雑種強勢との間には密接な関係があることが明らかになり、DDM1によって制御されるエピジェネティックな修飾状態 (DNAのメチル化) が、雑種強勢に重要であることが示されました。雑種強勢に関わる具体的な遺伝子はほとんど報告がありませんでしたが、本研究により、雑種強勢の鍵遺伝子の一つが明らかになりました。

現在、当研究チームでは、DDM1の機能喪失によるDNAメチル化状態の変化、およびそれにともなう遺伝子発現レベルの変化の網羅的な解析に向け準備を進めています。これにより、具体的に雑種強勢を制御する遺伝子の同定へと発展させていきたいと考えています。

シロイヌナズナは、アブラナ科植物と近縁の種であることから、本研究で得られた知見をハクサイ、キャベツ、ブロッコリー、ナタネ等のアブラナ科植物に活用することで、収量性の高い品種育成の効率化が期待されます。当研究チームでは、同時に、ハクサイを用いた雑種強勢の研究も進めています (図3)。


図1:シロイヌナズナのC24系統とCol系統の雑種で見られる雑種強勢。グラフは、播種後14日から32日までの植物体のロゼット直径を示しており、F1雑種 (緑) が生育初期から両親 (青・赤) よりも大きいことが分かります。
図2:シロイヌナズナのC24系統とCol系統の雑種と、ddm1の変異体の雑種の植物サイズの比較。DDM1が機能喪失している変異体の雑種 (青) は、DDM1が機能している雑種 (緑・赤) よりも顕著に小さくなることが明らかになりました。
図3:ハクサイの雑種強勢。Saeki et al. 2016 BMC Plant Biol. 16: 45に掲載している図を一部改変。


掲載雑誌

Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America

掲載論文

“Role of DNA methylation in hybrid vigor in Arabidopsis thaliana”

Takahiro Kawanabe*, Sonoko Ishikura*, Naomi Miyaji*, Taku Sasaki, LiMin Wu, Etsuko Itabashi, Satoko Takada, Motoki Shimizu, Takeshi Takasaki-Yasuda, Kenji Osabe, W. James Peacock, Elizabeth S. Dennis, and Ryo Fujimoto. * T.K., S.I., N.M. contributed equally to this work.

研究助成

科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 さきがけ (平成26年度国際強化支援策)
日本学術振興会、二国間交流事業 オープンパートナーシップ共同研究

関連リンク

(農学研究科、広報課)