インドネシア生鳥市場従業員の高病原性鳥インフルエンザH5N1ウイルスに対する抗体保有調査-多数の不顕性感染者が存在-

2016年10月24日

神戸大学大学院医学研究科附属感染症センターの清水一史客員教授と森 康子教授/センター長らの研究グループは、感染症研究国際展開戦略プログラム (J-GRID)の支援で設立/運営されているインドネシア神戸大学国際共同研究拠点(アイルランガ大学熱帯病研究所内)での研究により、インドネシア生鳥市場従業員における高病原性鳥インフルエンザH5N1ウイルスの高頻度感染を血清疫学的に証明しました。この研究で得られた知見は、今後の新型インフルエンザ対策策定に科学的根拠を与えるものです。 この研究成果は10月7日に「The Journal of Infectious Diseases」に掲載されました。

インドネシアでは高病原性鳥インフルエンザH5N1ウイルス(※1)が家禽や野鳥で風土病的に流行しており、また、散発的にヒトに感染し、世界で最も多く死亡者を出しています。過去のインフルエンザパンデミックの内、1957年のアジアかぜと1968年の香港かぜは季節性インフルエンザウイルスと鳥ウイルスの混合感染により発生したことが明らかにされており、インドネシアにおいて同様な機構で新たなパンデミックウイルス(新型ウイルス)が発生する可能性が高いと考えられています。しかもH5N1ウイルス感染のインドネシアでの死亡率は84%と高率であり、その強毒性を引き継ぐことが危惧されてきました。
 しかしながら、この致死率は、呼吸器疾患が重症化し医療機関を受診した患者あたりのものです。発症を伴わない不顕性感染者を含む母集団を対象とする研究はこれまでになく、真の感染者当りの発症率や致死率は明らかにされていません。  

当研究グループはインドネシアの生鳥市場の一つを定点に定め、鳥ウイルス濃厚暴露集団である市場従業員のインフルエンザウイルス感染に関する疫学研究を行っていますが、最近2014年2月に採取した101名の血清の84%に2013年に家禽から分離した高病原性鳥インフルエンザH5N1ウイルスAv154株に対して特異的な赤血球凝集抑制(HI)抗体(※2)を検出しました。抗体価を2012年、2015年、及び2016年採取の血清と比較したが、2014年の抗体価の平均は2012年に比べて約3倍に上昇し、その後年々半減していきました。Av154ウイルスはクレード2.3.2.1のユーラシア系統のウイルスで、インドネシアでは2012年の12月から分離され始めたウイルスです。生鳥市場従業員は2013年の約1年間のうちに感染したことが示唆されました。
 しかしながら、これらの抗体陽性者は全員健康であり、重篤な呼吸器疾患の既往歴もありませんでした。家禽では致死的なこのウイルス感染は、ヒトでは軽症あるいは無症状であったことが示されました。
 また、H5N1ウイルスに対する抗体陽性の85名中4名の咽頭拭い液から季節性インフルエンザの遺伝子を検出しました。H5N1ウイルスの遺伝子は検出できなかったので同時感染は未証明でありますが、生鳥市場で鳥インフルエンザと季節性インフルエンザの混合感染が起こり得ること、さらには遺伝子交雑により新型ウイルスが発生する可能性があることが示唆されました。

インドネシア生鳥市場で鳥インフルエンザウイルスのヒト感染が高頻度で起こることから、季節性インフルエンザウイルスとの混合感染が起こり、遺伝子交雑により新型ウイルスが発生する可能性が高いことが示されました。生鳥市場従業員における監視により新型ウイルスの発生を早期に検出し、世界の新型インフルエンザ対策に資することができます。
 一方、鳥での高病原性が必ずしもヒトに受け継がれるものではないことを示しましたが、これは新型インフルエンザ対策を策定する上で考慮すべき重要な新知見です。

用語解説

※1:高病原性鳥インフルエンザH5N1ウイルス
ニワトリでほぼ100%の致死率を示す鳥A型インフルエンザ(H5N1)亜型ウイルス
※2:赤血球凝集抑制(HI)抗体
インフルエンザウイルス粒子が持つ赤血球凝集活性を抑制する血清中の抗体。感染によりウイルス特異的な抗体産生が誘導される。

研究助成

本研究は文部科学省及び国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)による感染症研究国際展開戦略プログラム(J-GRID)の支援を受けた。

論文情報

タイトル
” Seroevidence for High Prevalence of Subclinical Infection with Avian Influenza A(H5N1) Virus among Workers in a Live Poultry Market in Indonesia”
著者
Kazufumi Shimizu,1,6 Laksmi Wulandari,1,2 Emmanuel D Poetranto,1,5 Retno A Setyoningrum,1,3 Resti Yudhawati,1,2 Amelia Sholikhah,1,3 Aldise M Nastri,1 Anna L Poetranto,1 Adithya Y R Candra,1 Edith F Puruhito,1 Yusuke Takahara,1,6 Yoshiaki Yamagishi,1,6 Masaoki Yamaoka,1,6 Hak Hotta,6 Takako Ustumi,1,6 Maria I Lusida,1 Soetjipto,1 Yohko K Shimizu,1,6 Gatot Soegiarto,1,4 Yasuko Mori6

1Indonesia-Japan Collaborative Research Center for Emerging and Re-emerging Infectious Diseases, Institute of Tropical Disease, and 2Department of Pulmonology, 3Department of Pediatrics, and 4Department of Internal Medicine, Faculty of Medicine, and 5Department of Clinical Science, Faculty of Veterinary Medicine, Airlangga University, Surabaya, 60115 Indonesia; 6Center for Infectious Diseases, Kobe University Graduate School of Medicine, Kobe, 650-0017 Japan
掲載誌
The Journal of Infectious Diseases.(2016)
DOI
10.1093/infdis/jiw478
First published online: October 7, 2016

関連リンク

(医学研究科、広報課)