2-アミノ酪酸による新たなグルタチオン代謝制御機構を発見 -錆びない体づくりの秘訣として期待-

2016年11月09日

神戸大学医学研究科立証検査医学分野の入野康宏特命助教・杜隆嗣特命准教授らは、同医学研究科循環器内科学分野の平田健一教授および神戸薬科大学薬品化学研究室の宮田興子教授らの研究グループと共同で、日常の食事中にも存在する2-アミノ酪酸(2-AB)がグルタチオン代謝の制御に深く関与しており、経口から摂取するだけで生体内のグルタチオンを効率的に増やすことができることを世界で初めて明らかにしました。
 グルタチオンは抗酸化作用や解毒作用を介して生命の維持に重要な役割を担っており、今回の発見が老化やがん、生活習慣病、動脈硬化、アルツハイマー病など酸化ストレスが関与する様々な疾患、さらには薬剤や毒物による臓器障害に対する新たな予防・診断・治療法の開発に貢献することが期待されます。
 この研究成果は、11月9日(日本時間)に英国科学雑誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されました。

研究の背景

グルタチオンは、細胞内の主要な抗酸化成分であり、また体外異物の解毒代謝に関与し、生命の維持に重要な役割を果たします。生体に酸化ストレスが加わるとグルタチオンは消費されるため、体内での変動をモニターすることができれば病気の早期診断につながります。しかしながら、血中のグルタチオン濃度は細胞内に比べ非常に低いため正確に測定することは難しく、またストレス下ではその合成も促進されるために必ずしも枯渇しているとは限らず、グルタチオン自体の測定ではその動態を正確にモニターすることが困難です。
 他方、生体内のグルタチオンを増加させることができれば、老化やがん、生活習慣病、動脈硬化、アルツハイマー病など酸化ストレスが関与する様々な疾患、さらには薬剤や毒物による臓器障害の予防・治療に大いに役立つことが期待されます。しかし、グルタチオンはそのまま内服しても、体内のグルタチオンの量にほとんど影響を及ぼさないと報告されています。
 2-アミノ酪酸(2-AB)は神経伝達物質として知られるGABAの構造異性体であり、グルタチオン合成の際に同時に産生されるオフタルミン酸の基質であることが報告されていますが、2-AB自体の代謝や生理作用についてはまったくわかっていませんでした。本研究では2-ABがグルタチオン代謝制御にもかかわっているのではないかという仮説のもと、2-ABがグルタチオン動態のマーカーとなりうるか、さらにはその合成を高める手段となりうるのか検討を行いました。

研究の内容

入野特命助教・杜特命准教授らは神戸大学医学研究科循環器内科学分野の平田健一教授らの研究グループと共同で、心不全に対する新たな診断・治療開発の手掛かりを模索すべく、心房中隔欠損症患者の血中代謝物をガスクロマトグラフィー質量分析計により網羅的に解析したところ、2-ABが健常人と比較して増加しており、治療により低下することを明らかにしました。しかしながら、2-ABがどのように代謝制御されているのか、またどのような生理作用を有しているのかについてはまったく不明でありました。そこでまず、神戸薬科大学薬品化学研究室の宮田興子教授らの研究室と共同で、生体内での2-ABの合成経路について検討したところ、グルタチオンの生理的機能を担う重要な構成アミノ酸であるシステインが産生される際の副産物であることをはじめて明らかにしました(図1)。また、ドキソルビシンという抗がん剤は副作用として心臓にダメージを与えますが、その際、代償にグルタチオンの合成が促進されると血中の2-ABも増加することを明らかにしました。次に2-ABの生理作用を調べたところ、細胞内のグルタチオンの合成を高めることが分かりました。さらに2-ABは経口摂取により血中ならびに心臓中のグルタチオン濃度を増加させ、ドキソルビシンによる心筋障害を軽減させました(図2)。

今後の展開

血中の2-AB濃度は体内のグルタチオンの動態を鋭敏に反映しており、酸化ストレスを早期に検出できる新たなバイオマーカーとなることが期待されます。
 またバイオマーカーとしてのみならず2-AB自身が経口摂取にて生体内のグルタチオンを効率よく増加させる抗酸化剤であることを明らかにしました(特許出願中)。2-ABは天然に存在するアミノ酸であり、日頃より摂取している食品中にも存在しています。今後はどのような食品に多く含まれているのか、どれくらいの量を摂取すればよいのか、さらには心臓以外の臓器でも抗酸化剤として有用か検証し、実際の臨床現場での応用にむけ機能性食品や治療薬の開発につなげていく予定です。


論文情報

タイトル
”2-Aminobutyric acid modulates glutathione homeostasis in the myocardium”
著者
Yasuhiro Irino1,2, Ryuji Toh1, Manabu Nagao3, Takeshige Mori3, Tomoyuki Honjo3, Masakazu Shinohara2,4, Shigeyasu Tsuda3, Hideto Nakajima3, Seimi Satomi-Kobayashi3, Toshiro Shinke3, Hidekazu Tanaka3, Tatsuro Ishida3, Okiko Miyata5, and Ken-ichi Hirata1, 3
1 Division of Evidence-Based Laboratory Medicine, Kobe University Graduate School of Medicine
2 The Integrated Center for Mass Spectrometry, Kobe University School of Medicine
3 Division of Cardiovascular Medicine, Kobe University School of Medicine
4 Division of Epidemiology, Kobe University School of Medicine
5 Medicinal Chemistry Laboratory, Kobe Pharmaceutical University
掲載誌
Scientific Reports

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(医学研究科、広報課)