ウマの高い社会的認知能力の実証 ―ウマは困ったとき、ヒトに対して視覚的・触覚的に助けを求める―

2016年12月09日

神戸大学大学院国際文化学研究科のリングホーファー萌奈美学術研究員と山本真也准教授は、ウマが自身で解決できない課題に直面した際に、視覚・触覚的信号を用いてヒトの注意をひいて助けを求めることを明らかにしました。さらに、課題に関するヒトの知識状態に応じて、ヒトへの要求行動を変えることも示唆されました。本研究成果は、動物のコミュニケーションの発達・進化に関する重要な知見となると共に、ヒトと動物のよりよい関係を構築するための有用な情報を提供します。
 この研究成果は、国際学術誌「Animal Cognition」で掲載されるのに先立ち、2016年11月24日付オンライン速報版で公表されました。

研究の背景

動物にとって、他個体の状態を理解してエサ場や捕食者の情報を得ることは、自身が生存していくために有益だと考えられています。このような他者を理解する認知能力は、ヒトと進化的に近縁であるチンパンジーにおいて特に長けていることが分かっています。これまで、チンパンジーが同種他個体の注意状態(「見ている」・「見ていない」)を理解し、この注意状態から知識状態(「知っている」・「知らない」)を理解できることが示唆されてきました。近年、ヒトと社会的に密接に関わる伴侶動物についても、ヒトとのコミュニケーションにおいて、高い社会的認知能力を持つことが明らかとなってきています。最も研究が盛んに行われているイヌでは、ヒトの様々なジェスチャーや表情、ヒトが置かれた状態の理解に長けることが分かってきています。このような能力は、家畜化の過程で身についたものではないかと考えられています。

ウマは約6000年前に家畜化されてから現在に至るまで、様々な側面でヒト社会に貢献してきました。ヒト社会におけるウマの役割は、運搬・移動といった使役から伴侶動物としての役割まで多岐にわたり、心身の健康に及ぼす乗馬の効用が近年は特に注目されています。ウマがヒトと現在のような協力関係を築くようになったのには、ウマのヒトに対する社会的認知能力の高さが関連している可能性が考えられます。しかし、ウマに関する社会的認知能力の科学的検証はあまり進んでいません。

研究の内容

本研究では、ウマには届かずヒトが届く場所にエサを隠すという課題を用いて、ウマからヒトへの働きかけの発現を促し、これを指標としてヒトとのコミュニケーションにおけるウマの社会的認知能力を検証しました。実験は、神戸大学馬術部の放牧場にて、馬術部のウマ8頭とその飼育担当者である学生の協力のもと実施しました。

実験1では、まずウマが届かない場所にあるバケツにエサ(ニンジン)を隠します。その後、この状況を知らない飼育担当者が来た時、飼育担当者に対してウマがどのような行動を起こすかを観察しました。その結果、ウマは担当者の近くに留まり、飼育担当者を見つめる、触る・押すといった行動を起こしました。この行動は、エサを隠さずに実験を行なった場合よりも有意に多く生じました。この結果から、ウマは自身では解決できない課題に直面した場合、ヒトに視覚的(見る)・触覚的(触る・押す)シグナルを送ることが明らかとなりました。私たちは、これらの行動をウマからヒトへの要求行動と解釈しています。

この結果をふまえ、実験2では、飼育担当者の知識状態(隠されたエサの存在を知っているか否か)に応じて、ウマの要求行動が変わるかどうかを検証しました。結果、エサを隠す過程を飼育担当者が見ていなかった場合に、見ていた場合よりもシグナルを送ることが分かりました。この結果から、エサの存在に関する飼育担当者の知識状態に応じて、ウマが要求行動を変えられることが示されました。

2つの実験結果から、ウマからヒトに向けたコミュニケーションである、要求行動の詳細が明らかとなりました。さらに、ヒトの知識状態に応じて要求行動を柔軟に変えることができるという、高い社会的認知能力を持つ可能性が見出されました。

今後の展開

本研究によって、ヒトとのコミュニケーションにおいて、ウマがより高い社会的認知能力を持つことが示されました。これは、家畜化の過程でヒトと密接な関係を築いてきた動物だからこそ身に付けた特殊な認知能力である可能性があります。ウマのどのような特性がヒトとの密接な関係作りに寄与しているかを探るため、今後はウマ同士のコミュニケーションとも比較しながら、ヒトとのコミュニケーションにおけるウマの社会的認知能力をさらに詳しく解明することを目指しています。

ヒトと密接な関係にある動物種が持つ認知能力の理解を深め、それを霊長類などヒトと進化的に近縁な動物種が持つ認知能力と比較することで、伴侶動物におけるコミュニケーションの特性やその発達・進化過程を探ることができます。家畜化が動物の認知能力に与えた影響を理解することにも繋がります。ひいては、ヒトと動物とのより良い関係を実現する上でも有益な情報をもたらすと期待できます。

図1:ウマの要求行動:放牧場の外に立つ飼育担当者をa) 軽く押す、b) 見つめる。奥の2つの銀色バケツの一方にエサが隠されている。自分でそのエサが取れないとき、ウマはヒトに触覚的・視覚的シグナルを送る。


図2:馬術部の飼育担当者と触れ合うウマ

論文情報

タイトル
”Domestic horses send signals to humans when they face with an unsolvable task.”
和訳:ウマは解決不可能な課題に直面した際、ヒトにシグナルを送る
著者
Monamie Ringhofer, Shinya Yamamoto
掲載誌
Animal Cognition

(国際文化学研究科、広報課)