平凡社選書の一冊で絶版になっていた拙著『清盛以前』(1984年刊) の増補・改訂版です。 10世紀の末、藤原道長の執政の頃から、12世紀半ばの保元の乱の開始まで、約150年間の、 伊勢平氏の成立・展開・興隆を叙述した一種の年代記であり、同時に清盛の「祖父」「父」たる正盛・忠盛にかんする評伝です。
本書の前半では、主に伊勢平氏の祖・平維衡とその子らが、伊勢国を舞台に同族と闘乱を繰り返しながら、 在地に覇権を確立してゆくさまを描き、また都での軍事貴族としての暴力的で散文的な姿を明かにしています。
後半は、12世紀前半の正盛・忠盛を中心とした叙述で、「侍」身分から身を起こし、 白河・鳥羽院との結びつきを強めつつ、公卿の地位をうかがうにいたるまでの、 急上昇する平氏の姿を追っています。たんに年代記にとどまらず、正盛・忠盛等の人間像にも迫り、 また鳥羽院政期の院庁や宮廷世界を構造的にとらえることを試みました。
今回、清盛の妻 (重盛の母) についての衝撃的な新事実を発掘した掌編を増補し、 また旧版刊行後寄せられた批判に応えつつ新事実ももりこみ、やや生硬だった文章にも手を入れました。 保元の乱以前の平氏を論じた仕事として、その精細さ、問題提起の新鮮さ、実証と論述の水準の面で、 本書を越える仕事は現れないと自負しています。
(文学部教授・髙橋昌明)
