しぐさで読む美術史

美術は言葉によらずに意味や内容を伝えるための方法を発達させてきた。美術に登場するモチーフは一種の記号のように、ある意味内容を伝達したのである。前著『モチーフで読む美術史』『モチーフで読む美術史2』は、美術によく見られるモチーフがどのような意味をもっているかということを解説したものであったが、幸いにして多くの読者に迎えられ、中国、台湾、韓国でも翻訳出版されている。

今回同じちくま文庫から出版した『しぐさで読む美術史』では、西洋美術の中心をなしてきた人物のしぐさや身振り、ポーズや動作、あるいは喜怒哀楽に着目した。西洋美術は人体を中心とし、人体の動きによって意味を伝えてきたが、こうした人物のしぐさによって作品を読み解く楽しみを紹介するものである。

西洋人は身振りやジェスチュアが大きいが、これは異なる言語の入り乱れる地域ならではの習慣であった。日本は単一の言語体系の島国に生きていたので、身振り言語を必要とせず、それゆえに他人の身振りにすっかり鈍感になっている。そのため、西洋美術を見るときはことさらに身振りに注目する必要があるのだ。

また、人物のポーズというものは、美術家がいきなり考えつくものではなく、一定の型のようなものが存在していた。その多くは古代の彫刻に由来するもので、とくにヌードや英雄のポーズなどは、いくつかのパターンに分けられる。どんな作品でも必ず過去の作品と密接な関係をもっており、芸術家の天分や創意工夫などといったものはごくわずかな要素にすぎない。そのため美術鑑賞にとっては、個人の感性のみでなく、こうしたさまざまな伝統や約束事を知ること、つまり美術史の知識が不可欠なのだ。

文庫本にしてはカラー写真が多く、古今東西の美術作品を幅広く取り上げている。書店などで手にとってご覧いただければ幸いである。

 

(人文学研究科・教授 宮下規久朗)