『インド経済のマクロ分析』

『インド経済のマクロ分析』

インド経済の最も優れた専門家たちにとっても、1990年代以降のインド経済全体の評価と展望を行うことが困難であった。 本書は、インドのマクロ経済に焦点を絞ることによって、インド経済の評価と展望をグローバリゼーションとの関連で試みようとしている。 本書の内容は、(1)長期の経済成長と(2)短中期の経済変動の分析に大別できる。(1)長期の経済成長については、 経済成長において総要素生産性(TFP)の改善が果たす役割や市場経済の発達が含意する諸問題を議論している。 (2)短中期の経済変動については、政策トリレンマ論を重視した分析を行っている。この理論からみると、2000年前後から2002年にかけて、 インドは資本自由化・変動相場制度・自立的な金融政策という政策選択肢を大枠において採用するようになった。 こうした整合的なマクロ経済政策の採用が、近年における高度経済成長の重要な要因である。

本書では、(1)標準的な動学マクロ経済理論をインド経済に応用すること、 (2)インド政治経済の分野での経験的証拠を重視してパネル分析や時系列分析を駆使することによって理論仮説を検証すること、 などの現代経済学の方法論を堅持したうえで、成長・金融・財政・貿易の4側面からインドのマクロ経済にアプローチしている。 すなわち、マクロ経済に分析の焦点を絞っていることと現代経済学の方法論を堅持していることが、現代インド経済の先行研究にはない本書の重要な特徴となっている。

さらに、本書の序章「インド経済をどうみるか」は、 グローバリゼーションがもたらすインド経済のダイナミクスを本書の各章の内容を踏まえたうえでコンパクトに要約しており、 これまで十分にはなされなかったインド経済全体の評価と展望を与えている。本書は、発展途上国研究の領域において、 現代インド経済を分析したものとして、さらには、現代開発経済学の応用研究として一定以上の意義を持っているように思われる。

(経済経営研究所准教授・佐藤隆広)