『最新重要判例200 労働法』

『最新重要判例200 労働法』

労働法を学ぶ際に、判例が重要な意味をもつのは、当然である。 学部の講義でも、判例の理解が不可欠であるし、法科大学院では、まさに判例が主役である。 ところが、この判例の学習のための適切な素材が、労働法においては、存在していないと思っていた。

判例教材の代表例は、有斐閣から出ている『労働判例百選』であるが、これは各事件を違う著者が担当するという点で、 統一感がないものである。昨年夏に、『労働判例百選』の改訂のための依頼がきたところで、 判例百選に対抗するための判例教材を出したいと考えるようになった。

実は以前に『就業規則からみた労働法』 (日本法令) を出したことがあった。 その本は、就業規則の規定が実際の裁判例において、どのような規定について、どのような解釈上の問題が生じて、 それについて裁判所がどのように判断をしているかをコンパクトにまとめたもの (その他にも、標準的な就業規則の規定をとりあげて解説もしている) であったが、 この本は、実は、実務家にとって判例教材として利用されていたということが後からわかった。 実務家にとっても、コンパクトな判例教材が必要であったのである。

どのようにして判例教材を作るか。 私が監修して、神戸労働法研究会の俊英の力を結集すれば、良い教材ができるのではないか、と思っていた。 自分たちで使いたいような教材を自分で作ろうというコンセプトである。そこで、いつものように、 弘文堂の”サクランボ” (拙著『労働法学習帳』 (弘文堂) のはしがきを参照) に問い合わせたところ、 『最新重要判例』シリーズがあるので、そのシリーズなら行けると言われた。有り難い返事であったが、悩ましかった。 第1に、このシリーズは、一人で書かなければならない。若い俊英を使うことができない。 第2に、すでにこのシリーズで出ていた刑法と商法は、 それぞれ前田雅英先生と弥永真生先生という私よりもはるかに格上の先生が執筆されていたからである。これは、いかにも辛い。

とはいえ、新しい判例教材を作りたいという気持ちは強かった。そこで、清水の舞台から飛び降りるつもりで、 このシリーズで書かせてもらうことにした。すでに『就業規則からみた労働法』の蓄積があったので、 個別法の部分は比較的スムーズに進んだが、団体法の部分はすべて書き下ろしで難航した。 その間に、野川忍先生の『労働判例インデックス』 (商事法務) が出版されて、先にやられたと、サクランボと一緒に、 少しだけ意気消沈したけれど・・・。気を取り直して、せめて『労働判例百選第8版』よりは早く出そうと思い、いろんな仕事の合間に、 これを最優先にし、なんとか10カ月ほどで213の判例を終えることができた。

さて、この本の最大の特徴であるが、 それは、1頁で、事案、判旨、解説がおさまっているところにある。コンパクトさ勝負である。もちろん、これには元々無理がある。 いま読み直しても、舌足らずのところが多い。修行の足りなさを痛感する次第である。 しかし、とりあえず、判例を理解するというときには、有用だとはいえよう。 ぜひ、判例理解のファースト・ステップにしてもらえればと思う。 判例全体を勉強するためには、菅野和夫・土田道夫・山川隆一・大内伸哉編『ケースブック労働法 (第5版) 』 (弘文堂) を使って欲しい。

個人的には、こういう本を書き上げることができた達成感は大きい。思い出深い本となるであろう。 読者諸賢の批判等を受けながら、改良版を出していければと思っている。 本書が、労働判例を学びたいと思っている人に、少しでも役に立てば、筆者としてこれにまさる喜びはない。

(大学院法学研究科教授・大内伸哉)