『The Future of the Patent System』

『The Future of the Patent System』

特許制度は時代の産業構造を背景として創られ、発展する存在であり、デジタル化の影響、経済のグローバル化、特許出願数の激増等大きな変革の中、特許制度の改革が大いに求められている。そして、特許制度の改革の検討にあたっては、特許制度の本質と、世界各国の現状に関する分析や論考が不可欠である。本書は、特許制度の先進3カ国(日米欧)および今後の経済発展が一層見込まれるインド、ブラジル、中国のそれぞれについて、各国の研究者および実務家が、特許制度の現状を踏まえつつ、その未来を見通すことを目的とした論文集である。

具体的には、まず第1章で、全体の総論として、近年の技術的・社会的変化の中で特許制度が直面する課題とその将来像を、法学的・経済学的観点から論じている。そこでは、「発明誘引による産業の発達」という特許制度の理念に沿う妥当な解決を目指して、個別事例に応じた司法判断や行政運営を行ってきたことが、却って特許制度の存在意義に対する疑問を表出させることに繋がったこと(島並)、「プロパテント政策」と呼ばれる一連の施策が、部分的にしか効果を生んでおらず、特許制度による「適正な保護」が求められていること(元橋)、特に部品産業において特許権が「無視」されており、特許の権利を「所有権のように」保護することが、産業の発達という特許制度の標榜する理念に反すること(Lemley)が明らかにされている。

それを受けた各論として、まず第2章は、欧州、米国、日本の主要三極それぞれにおいて、特許制度が現在直面している諸課題を克服するために、主に行政および司法の面からいかなる取り組みが講じられており、さらに今後どのようなビジョンが必要であるのかについて論じている。また第3章は、近年急速に経済発展を遂げた国々(インド、ブラジル、中国)に目を転じ、なお残る先進国との技術力の差や、国内における貧富の差を抱えつつ、これらの諸国が特許制度を通じてどのように産業のさらなる発達を目指そうとしているのか、そしてそのような動きが世界の特許制度にいかなる影響を及ぼすのかについて論じている。

本書は、2009年に刊行され、時宜を得たテーマと各国・地域の第一線の研究者・実務家で構成された執筆陣で話題となった和書『岐路に立つ特許制度』(知的財産研究所)の翻訳・アップデート版である。日本の法学者による編著が海外で刊行され、日本の法制度が本格的な国際研究の対象とされることは稀であることから、特許のみならず法制度一般の国際比較に関心をお持ちの方々にも広く手にとって頂きたい。

 

(法学研究科 教授・島並 良)

2013年1月15日