『戦後日本学力調査資料集 第Ⅲ期 全10巻』

『陶淵明 〈距離〉の発見』 

教育界では、2007年以来、全国学力・学習状況調査の是非を巡って揺れている。少し前、学力低下論の闘わされた頃、学力低下を否定する人々の一部にも、肯定する人々の一部にも、印象的な根拠なき学力論を展開する人が多く見られた。いわゆる「○○するべきである」「△△するべきではない」という、個人の思い込みに基づく、主観的な「べき」論である。

その時に、「子どもたちの教育に責任を持つ省庁が学力の上下動について、語るべき根拠となるデータを整えていないとはなにごとか」という議論が一部の論者たちから寄せられた。われわれ監修者を含む教育社会学もそうである。教育社会学はデータをもとにした実証的議論を学問的生命としているからである。もちろん、データ化できない、計ることのできない学力もある。しかし、だからといって計ることのできる学力を計らずに済ますというのでは、議論をすることすらできない。このような批判もあって、全国学力・学習状況調査は開始されたのである。

このような観点から、われわれは本資料集第Ⅰ期、第Ⅱ期合計14巻において、1950年代から1960年代に実施されたいわゆる「学テ」に関わる資料を復刻した。今回第Ⅲ期全10巻において復刻するのは、同時期に各機関によって行われた各種調査と分析結果である。国立教育研究所によるもの、日本教職員組合によるものなど様々な立場からの調査と分析結果が含まれている。これらのうちいくつかは教育学者、教育関係者にさえもよく知られていない、稀覯書の部類に入るものもある。調査が行われた時期の日本社会における政治的構図、すなわち左右対立がきわめて鮮明な構図が背景にあるのだが、今日、それを歴史的資料として冷静に学術的、客観的に振り返り、学力調査の先駆的なものとして客観的に評価する必要があると考える。多くの方のご意見、ご批判をお待ちしている。

(大学教育推進機構/国際協力研究科・教授 山内乾史)

2013年7月1日