美術の力-表現の原点を辿る

本書は、私が『産経新聞』夕刊に毎月連載している「欲望の美術史」の2015年から17年の記事を中心に、さらに『朝日新聞』『日本経済新聞』『芸術新潮』など、別の媒体に載った記事や書き下ろし原稿を加えたものである。いずれも大幅に加筆修正し、時事的な要素を抑えて美術をめぐる普遍的な問題につなげようとした。いくつかのテーマは、『欲望の美術史』『美術の誘惑』(いずれも光文社新書)や『裏側からみた美術史』(日経プレミアシリーズ)にも書いたことのあるものだが、やや視点を変えている。

(以下、あとがきより)
いったい美術にどれほどの力があるのだろうか。心に余裕のある平和な者には美しく有意義なものであっても、この世に絶望した終わった者にも何か作用することがあるのだろうか。正直なところ、私はそんな疑念から逃れられず、仕事だと割り切って惰性で細々と美術史という学問に携わっているにすぎない。ただ、かつてのように宗教や美術の力を信じたいという気持ちが絶えることはなく、今でも少しでもよい美術作品を求めては重い腰を上げて出かけている。もはや心から感動できることはないのだが、作品の良し悪しはかえって敏感に感じるようになった気がするし、今後もこうした求道と巡礼を続けるしかないと思っている。本書の何編かにはそんな思いを吐露している。

目次

  1. 【まえがき】 美術と巡礼
  2. 【第1章】 イタリア美術の力
    • 古代壁画の衝撃
    • ティツィアーノとヴェネツィア
    • フィレンツェの美女たち
    • アルチンボルト、異端と正統のあいだ
    • カラヴァッジョの新出作品
    • よみがえった巨匠グエルチーノ
    • モランディ芸術の静けさ
  3. 【第2章】 日本美術の粋
    • 「娯」と美術
    • 金刀比羅宮の美術
    • 春画と公共性
    • 月岡芳年と庶民の欲望
    • 河鍋暁斎の魅力
  4. 【第3章】 知られざる日本近代美術
    • 日本の近代美術を読み直す
    • 公募展の活力
    • クレパスと日本の近代美術
    • 藤田嗣治の闇
    • 戦中と戦後の風景
    • 高島野十郎の光
  5. 【第4章】 美術家と美術館
    • モチーフとしぐさ
    • キリストを迎える手
    • デトロイト美術館と日本の美術館
    • 故宮博物館と台湾
    • 神の視点と人間の視点
    • 森村泰昌と美術史
  6. 【第5章】 信仰と美術
    • 宗教改革と美術
    • 長崎の殉教
    • 悲しみのマリア
    • 踏絵と信仰
    • 祈りの空間
    • 聖地のエクス・ヴォート
  7. 【第6章】 美術の原点
    • ヴェルフリ アール・ブリュットの原点
    • 死刑囚の絵画
    • 来世のヴィジョン
    • 津軽の供養人形
  8. 【あとがき】 美術の力

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(神戸大学大学院人文学研究科・教授 宮下規久朗)