【Professor~神大の流儀~Vol.1】経営学研究科・金井壽宏教授(前編)

2017年11月02日

記念すべき教授インタビュー第一弾は、神戸大学大学院経営学研究科教授の金井壽宏先生にお話を伺いました。『働くひとのためのキャリア・デザイン』をはじめ、リーダーシップやモティベーションについて多くの著書・論文を発表されている金井教授は、神戸大学経営学部の先生方の中でも全国的に有名な教授の一人です。

しかし現在は大学院の教授をされているため、特に経営学部生にとっては知ってはいるが少し遠い存在、というイメージが強いのではないでしょうか。そんな神大生必見!!この度、金井教授は学生広報チームのインタビューの依頼を快く受け入れてくださり、たくさんお話を伺うことができました!金井教授が今、神大生に伝えたいこととは・・・?前編・後編に分けてお届けします。

—本日はよろしくお願いいたします。さっそくお聞きしたいのですが、金井先生は、具体的にどのような研究をしておられるのですか。

リーダーシップ、モティベーション、キャリアみたいな、組織の中での人間行動―「組織行動論」っていうんですけど、それを専門にしています。

今一番長く興味を持っているのは、うまくリーダーシップを発揮できる人が大勢の人々を導いていく上で、自分の芯というか、行動や考えがぶれないための、「軸」について、学者の理論を構築するのと両立するのですが、経営者や管理職で変革を起こす実践家のリーダーシップの実践的持論を、彼ら自身の言葉で聞き出し、あわせて、その持論の元となった彼らの経験や、彼らが薫陶を受けた若いときの上司や経営トップからの教訓も聞き出してきました。

例えば、ヤマト運輸で宅急便という新事業を創り出した小倉昌男さんという経営者は、論理的思考が大事だとか、明るい性格が大事だとか10個の経営リーダーの条件を『小倉昌男 経営学(1999, 日経BP社)』という本の中で書いておられます。わたしはリーダーシップの持論について10ヶ条を、自分の行動がぶれないようにするために言語化するだけでなく、自分の著書において語っているというのは、ものすごいことやと思います。その10ヶ条の持論について、小倉昌男さん自身が言行一致させる、つまり持論のとおり軸をしっかりもったリーダー行動をとるという自信がなければ、その持論を大勢の方々が読むことになる自著で披露することはできないでしょう。ヤマト運輸の経営者で、宅急便事業の生みの親が、自分の名前を書名に冠した『小倉昌男 経営学』は、当然、社員の多くの方、とりわけ管理職以上の方なら、まず、読まれることでしょう。ということは、行ったとおり実行する。つまり、有言実行のリーダーシップでこれからは通すぞ、と行っているのと一緒です。

わたしは、小倉さんとトップとしてリーダーシップをシェアしたナンバーツーの都築幹彦さんにインタビューをしましたが、小倉さんが言行一致していたことが、よくわかりました。

わたし自身は自分なりに、学会の会長とかをする上でもリーダーシップの軸がいると思ったから、偉い人がつくった理論を学ぶだけじゃなくて、「自分はこれでいく」っていう自身の考えを言語化した方が良いっていうことを本に書いていて。理論となるとちょっと大げさなんで、「軸」とか「勘所」って言うと分かりやすいですよね。

リーダーシップの持論を自分の言葉として言語化することが大事だと主張しているわたし自身が、自分の持論を言語化していないとしたら、紺屋の白袴ということになってしまいます。ですから、わたしはわたしで、学部やゼミの指導教員として、あるいは学会の会長として自分の行動がぶれないための基軸とするための、わたし自身のリーダーシップ持論を言語化しています。その内容はつぎの12ヶ条です。「描く」、「語る」、「聞く」、「試す」、「見本を示す」、「引っ張る」、「後押しする」、「ねじを巻く」、「ともにやり抜く」、「褒める」、「育てる」、「相談に乗る」っていう12個。

(※筆者注:それぞれの意味については、こちらをご覧ください。→金井先生のリーダーシップ持論12ヶ条とその説明)

もう少し、追加的に持論についてお話しましょう。まだ社会でリーダーとなっていない若い人でも、部活動のキャプテンやサークルのリーダーを経験して、若いときから、リーダーとしてぶれないような軸を自分なりに言語化されてきた方もおられることでしょう。例えば、リーダーである自分が悲観的になると、みんなも元気をなくすので、明るくいこう、とか。そして、実際に小倉昌男さんのようなすごい経営者が経営リーダーの条件10ヶ条のなかに「明るい性格」というのを入れているのを発見すれば、自分のその軸に、いっそう自信が持てるでしょう。

また、まだリーダーをやらなくても、良い働き方や生き方をしたいと思うと「軸」がいると思う人もおられるでしょうが、そのとおりだと思います。生き方の基軸というようなものでしょうか。まだそういうものを持てていない人は、何かきっかけがあったら良いと思います。例えば、有名なものだと、スティーブン・コヴィーの「7つの習慣」や、スポーツをやっている人だったら、監督だった人やコーチだった人がどんな言葉を残してるかというのを参考するというのが良いと思います。

次に、モティベーションについてお話したいと思います。モティベーションについては、人間は浮き沈みというのがあるから、やる気が落ち込むことはある。だけど持ちなおす力の方が大事だと思っていて。そういった、働く人はなんで働くのかということに興味があります。リーダーシップの持論と同様に、モティベーションについても、やる気が落ち込んだときには、どういう行動をとるべきか、どういう発想を持つべきかについて、自分なりのモティベーションの持論を持っている人もいるでしょう。
 例えば、やる気が出なくなったら、まずは、誰か人に会うと言う方は結構多いです。どういう人に会うかについても、一方では、いつ行っても、「君ならできる」と励ましてくれる人のところに行く方もいれば、他方では、「まだまだ、そんな甘いことではだめだ」と喝を入れてくれる人のところにあえていくことによって、自分を鼓舞する方もいます。そんな風にして、モティベーションにも持論を持つようになれば、自分のやる気を自己調整できるようになります。

実際に、自分のリーダーシップの持論を言語化してみたいと望む方は、わたしの『リーダーシップ入門』(日経新書)を、自分なりのモティベーションの自己調整をしたいと思われる方は、『働くみんなのモティベーション論』(日経ビジネス人文庫)をご覧ください。

次に、キャリアについては、これは長い人生ともオーバーラップするものですから、その全体像を構想することはできません。また、人生は長すぎて全て思い通りにすることもできません。しかし、幸い、長い人生の間に、大きな節目は、3つか、多くても4つ、5つぐらいに収まります。そんな大きな節目だけは、しっかり自分で自分のキャリアの方向性、めざす方向を、意識してデザイン・舵取りしよう、といった立場をわたしは取っていますし、上記の文庫本はそのような視点で書かれています。

また、マサチューセッツ工科大学のエドガー・シャインという教授が、キャリアを考える上で、どんな場面でもこれだけは犠牲にしたくないことや、大事なものがある。それに気がつきだしたら、キャリアの拠り所だという意味で、それを「キャリア・アンカー」と呼びました。アンカーは、船の錨のことなんですけど、要はこれも、リーダーシップの持論ではないですが、キャリアを歩む上での「軸」みたいなものだとお考えください。

一方で、偶然に任せた方がよいという考えがあって、「planned happenstance」という言葉もあるぐらいです。この言葉の意味は、「計画された偶然性」という意味合いで、自分のキャリアについて、だいたいのめざす方向や基本的な考えが見えてきたら、あとは、とにかく行動重視で、いろんな偶然も活かしながら、歩むのがいいという考えで、ジョン・クランボルツという学者が提示した理論がこの考えの大元です。 キャリアの節目だけは、どういう舵取りをすべきか、自分でしっかり選び取り、その都度、キャリアの拠り所がみえてきたら、その基軸を大切にしながら、いろんな偶然、いろんな出会いを、自分のキャリア展開に活かしていけばよいという風に考えれば、シャインの学説と、クランボルツの学説とは、うまく補完的に両立させることもできることでしょう。

ちなみに、自分の生き方とか働き方とか、長期的にどういう人生送るかという「軸」の参考に、自分が凄いなと思う人へのインタビューはすごくオススメですね。僕は、本当にすごい人が、どうやってそこまで来たのか、20人へのインタビューで67個の経験を聞いて、『仕事で「一皮むける」』(光文社新書)という本を書いたこともあり、こういう本を作れたことはとても良かったと思っています。いまも広く読まれていますよ。



ここまで、金井先生の研究内容についてお聞きしました。後編は、金井先生が経営学を志したきっかけや、私生活のことなどについてお聞きします。

後編はこちら→【Professor~神大の流儀~Vol.1】経営学研究科・金井壽宏教授(後編)

(学生広報チーム・広報課)