小林経営協議会委員との対談 (2016年9月21日)

◇神戸大学は先頭を走れ!
   ――学問の多様性支える改革を

内田理事

国立大学法人の第3期中期目標・中期計画が今年度スタートしました。運営費交付金の削減と競争的資金重視の大学改革が、教育・研究環境にどのような影響を与えたのか、学問・科学の発展と社会貢献、人材育成を追求するために、神戸大学は何をしようとしているのか。武田廣学長とノーベル賞受賞者で本学経営協議会学外委員を務めている小林誠・高エネルギー加速器研究機構特別栄誉教授が、内田一徳・理事副学長(広報・社会連携担当)の司会で話し合いました。

◇ポスト削減で強まる閉塞感

内田理事
小林先生、今日はお忙しいところ、ありがとうございます。国立大学法人が抱えている問題、日本の研究環境、神戸大学の目指す方向などについて、武田廣学長と意見交換していただきたいと思います。
武田学長
国立大学を取り巻く環境は大きく変化し続けていますが、大学改革のグランドデザインを誰が決めているのかが、はっきりしません。
小林委員
何のために、何を目指している改革なのかが、見えてきませんね。
武田学長
現場の大学にとっては生き残りの問題になっています。手をつけるとしたら人件費しか残っていません。法人化後、神戸大学では80人余のポストが、予算が確保できないので使えなくなっています。
そうすると研究、教育のアクティビティはどうしても下がってしまいます。「もっと効率よくやりなさい」という論理なのでしょうが、大学人が「しんどい、しんどい」という悲鳴を上げる状況が続いています。
小林委員
研究も教育も人が基本です。人を減らしてどうなるのか、という問題ですよね
武田学長
しかも、減っているのが若手のポストに集中しています。若い研究者のポストがどんどん減って、大学としての新陳代謝が進まなくなっています。これは神戸大学だけではなく、全国の大学、研究機関も同じような状況だと思います。
内田理事
学生が、研究者としての夢を描けなくなっています。
小林委員
これは重大ですよね。若い人が、「研究者になりたい」と思わなくなります。実際に大学院、博士課程に進む人が減っています。
武田学長
私が学生、院生のころも博士号取得後の就職先がないというオーバードクター問題はありましたが、そんなに深刻には考えず、実際に何とかなっていました。しかし、今は構造的な問題があり、何年待ったらいいのか、先が読めません。若い人の閉塞感が非常に強まっていると思います。

◇運営費交付金削減で失われるゆとり

武田学長
そのためには社会がゆとりを持っていないと駄目ですよね。大学も、「面白いからやってみようか」というゆとりの部分が無くなっています。昔なら「学長面白基金」のようなものを作って、若手の研究にぽんとつけたり、すぐに成果の出ないものを抱えておくことが出来たと思いますが、今は世知辛くなって…。
小林委員
運営費交付金が減っているということは大問題です。長期的にみると、(大学の)財務構造を抜本的に考え直さないといけないでしょうね。国からの運営費交付金だけに頼っていていいのかということです。
武田学長
神戸大学の年間予算は約750億円で、そのうち3割ほど、200億円程が運営費交付金です。これが教員養成大学などでは8~9割に達し、ほとんどが人件費なので対応はなかなか難しい。「何のためにこの大学はあるのか」というところに立ち戻らないと、最終的な結論は出ないでしょう。

◇大学の役割明確化を

小林委員
そもそも大学の役割は何かということをキチンとしないと、社会の理解は得られないと思います。政治家も行政も経済界も、大学の役割についてゼロから考え直していただかないと、なかなか構造は変わらない。
確かに(企業の製品開発に貢献するなど)社会との関わりは重要ですが、それは大学の一面であって、本来は科学・学問を継承し発展させていくことが、まずあるはずです。その中から社会との関わりが生まれてくるということを押さえないと、(大学が)役に立つか、立たないかという面だけで見られてしまいます。
武田学長
小柴さん(昌俊・東京大学特別栄誉教授)が(2002年に)ノーベル賞を受賞したとき、「ニュートリノの検出は何の役に立ちますか?」と質問されて、「何の役にも立ちません」と言ってしまった(笑)。「人類の知的財産に貢献しています」などとフォローしてもらえたら良かったんですが…。総合大学は明日の役に立つことだけをやっているわけではありません。哲学とか、素粒子物理学などは、派生効果はあるが、それ自体が企業の利益につながるわけではありません。
小林委員
(哲学や素粒子物理学は)それ自体が知識の体系全体を太くしているんですよね。その中から、いろんな派生(効果)が出てくるわけで、そこを理解していないと、(基礎的な学問への)投資が無駄に見えてしまう。

◇基礎研究も重視する改革を

武田学長
今、日本からノーベル賞受賞者が出ていますが、このペースがいつまで続くかというと…
小林委員
心配です。
武田学長
研究者が本当に仕事をする30歳代後半から40歳ぐらいの層が非常に薄くなっています。20年後に現在と同じペースでノーベル賞が日本に来るのか、非常に危機感を持っています。
小林委員
自由に夢、キュリオシティ(好奇心)を追う、その仕組みが大切です。いろいろなリソース(資源)が応用研究の周辺ばかりに集まるようだと、科学・学問の発展の力は弱くなってしまう。そこが一番心配です。科学の基本はキュリオシティにあり、それが一人ひとり違うから全体として大きくなるのですから。
武田学長
(注力する分野の)「選択と集中」と、いかにバランスをとるかが重要ですね。
小林委員
(大学改革は)バランスをどうとるかということが、本来、出発点にあるべきだと思うんですけど、そこをどれぐらい真剣に考えた上での改革なのかということが、問題だと思います。

◇大学の首を絞めるプロジェクト型資金

武田学長
(期間が限られた)プロジェクト型の競争的資金は、一定期間は(財政的に)潤って、研究成果も出ますが、終了後が問題です。人件費も確保出来なくなり、人(研究者)の行き先も考えなければなりません。大学にとっては、プロジェクト型の資金は、後でしんどくなってしまいます。
小林委員
グローバルCOEから始まって、一連のプログラム型の資金は同じ問題がありますね。プログラム型にはアイデンティティが必要で、いろんな条件がつけられ、それに縛られた形で大学が対応する。(長期間)続けばよいが、何年かでコロコロ変わり、それに振り回されます。根本的な仕組みとして問題があります。
内田理事
最近はそのプロジェクトを減らして、機能強化の方に(予算を)回そうとしているように見えますね。
小林委員
(機能強化は)研究の中身に基づかないで、表面的なことばかりですよ。

◇大学ランキングの功罪

武田学長
教育への投資が、日本はOECD加盟国・先進国の中で最下位です。大学ランキングも低下し、日本の大学は自信を失っています。一方、ヨーロッパでは大学ランキングなんて気にしなくていいと言われます。
小林委員
それはそうだと思いますよ。ただ、ランキングの中には本当に日本の大学に問題がある部分もありますから、そこを直していけば良い話です。ランキングそのものは気にしなくていい。

◇科学技術イノベーション研究科の挑戦

小林委員
社会との関わりでは、神戸大学は産学連携で成果をあげておられる。それは素晴らしい。
武田学長
稼げる分野で稼ぎ、それを大学の見識によって基礎的な学問分野に配分するスキームをつくる必要があります。神戸大学は出自が経営、経済系です。これまで企業の持つシーズ(事業の種子)の活用を指導してきた経営、経済系の先生に、もう少し大学の内側でも活動してもらおうと科学技術イノベーション研究科をつくりました。大学の中のシーズをおカネに変え、巡り巡って神戸大学の資金となり、学問の多様性を確保するための資金として使えるようになったらいいと考えています。

◇寄付文化の確立を

小林委員
広い意味の大学の基盤に民間からのサポートが得られるようになったらいいですね。
武田学長
今、同窓会を強化しようとしています。(企業で活躍している)そうそうたるメンバーが神戸大学を卒業しています。最近は企業も説明責任があり、母校だから寄付するというわけにはいきませんが、卒業生として母校を支援したいというムードはありますね。
小林委員
寄付が、社会的にちゃんと評価される仕組み、文化になる必要がありますね。日本の大学は、欧米の大学に比べて民間からの資金が少ないですから。基本的な寄付文化が育ってほしいと思いますね。
内田理事
有力私大のように、OBの人脈の強さが社会に浸透し、良い学生が集まり、良い学生を育てていくサイクルが確立すれば、大学全体が底上げされ、神戸大学が目指す「国内5位」が見えてくるのではないでしょうか。
小林委員
神戸大学に一番チャンスが有るのでは。
武田学長
企業から見ると、「欧米の大学は提案してくるが、日本の大学はじっと待っている」そうです。日本の国立大学は法人化したといっても中途半端で、独力で稼ぐ才覚もまだありません。今はある意味の猶予期間で、今のうちに資金を稼ぐ技量を身に付けておくことが大きな命題だと思います。

◇社会の変化を踏まえた改革を

小林委員
神戸大学は先頭を走れ、と。学問、科学は進んでいますが、一方で社会的課題も大きくなっています。既存のディシプリンで(社会的問題への)対応が難しくなっているわけで、そこに対応して(学問を)変えていく、そういうものを社会に提案していくことが必要です。
武田学長
大学は社会、産業界の要請に応えて人材を社会に出してく役割がありますが、一方で入学の段階では学生(受験生)のニーズも見ていく必要があります。例えば、学部名を変えると「内容がわかりにくい」などと言われ、どうも学生は保守的な感じがします。
小林委員
だからと言って、(現状に)とどまっていたらいけないでしょう。むしろ積極的に大学の個性を打ち出すことが大事で、そういうものを示して、大学に入ってくる人たちが選べるようにしなければ。各大学が同じではないというのが良いのではないですか。
武田学長
学内では、自分のとこだけ授業料を上げさせてくれという学部があります。自信があるから、「それだけの教育をするから、上げさせてくれ」と。しかし、それをやると大学全体として学生1人にどれだけ投入されているかさらけ出し、文系と理系で本来授業料は違うはずだとか、様々な議論に持ち込まれ、痛し痒しのところもあります。これは日本の大学全体の問題ですね。

◇学問のきっかけを与える場

小林委員
大学に入って、何かをやろう、学問をやろうという動機は様々ですよ。目的を持って大学に入ってきてほしいが、少なくとも大学にいる間に目標を見つけてしっかりやる、そういう場を提供しているのが大学だと思います。また、大学として研究を伸ばしていく、学問全体への責任もあります。そういう意味で大学の基本は昔から変わっていないと思いますが、環境が変わってなかなかその通りには行かない状況になっています。あまり明るいことは言えませんが、どう対応するかというところに大学の個性が出てくるのだと思います。
武田学長
学長になっていろいろ考えましたが、私自身の学生時代を振り返っても、学部の4年間で何かのきっかけを与えられたら、大学としては成功ではないかと思います。知識は、本人がやる気になれば学びますよ。学部段階では右往左往して迷っていますから、何かきっかけを与えられたら…。
小林委員
専門知識を学ぶ中で、こういう新しいものがあるということを見つけて欲しいですね。専門知識、科学・学問の広がりを知ることで、自分の方向性を見つける、そうあって欲しい気がします。

◇文理融合の力で貢献を

小林委員
神戸大学は人社系の基盤がありながら、理系も持っているユニークな立場にあり、産業界とのつながりも強い。それを特色として、新しい大学のあり方のモデルケースになることを考えて頑張っていただきたい。
武田学長
神戸大学は「文理融合」を掲げていますが、文理融合という言葉は言い古されていましたから、最初は勇気が必要でした。しかし、現在の地球的課題をみると、理系の技術だけでも、文系のノウハウだけでも解決できません。環境問題で、人間の意識を変えていくのは人文系の問題ですし、技術的な側面は理系の課題です。最近注目されているビッグデータも、どういうデータを扱うかは人文系の発想が必要です。このように文理が融合した共同作業がないと、大きな課題が解決しない時代になっています。そこに貢献するのが神戸大学の責務だと考えています。

(総務部広報課)