【式辞】平成24年度(3月期) 博士学位記授与式 式辞

皆さん、博士学位の取得おめでとうございます。神戸大学の全構成員を代表して、お祝いを申し上げます。ご家族の皆様におかれましては、喜びも一塩のことでしょう。そして、指導に当たられた教員の方々や職員の皆様には、多大な尽力に感謝と御礼を申し上げます。

今回、課程博士221名、論文博士21名の合計242名、内、海外からの留学生52名の方々が博士学位を取得されました。学位取得者数は毎年約300名に達し、内、留学生が占める割合も20%程度となっております。

近年、このように多くの博士学位の授与者を輩出するとともに、高い国際性を示すことができることは、神戸大学が国際的にも研究大学として活動している証と考えます。

博士の学位は創造性、新規性そして論理性など総合的にまとめられた独自性のある学位論文を基本として評価、授与されるものです。皆さんは自ら課題を発見し、課題の解決、あるいは実現のための手段・方法を探るにあたって独創的な発想を持って試行錯誤されてきたと思います。

皆さんは、日夜研究活動に没頭され、長年のご努力・ご苦労の甲斐あって、見事、厳しい学位審査に合格され、本日神戸大学の学位を授与されることとなりました。博士号を取得された人材とそうでない人材の違いはどこにあるのか?私は、次のように考えます。

博士号を授与された人材は、基礎学力は言うに及ばず、深い教養と高度な専門性を持っています。さらに大きな要素は、「課題発見能力」と「セレンディピティ」を発揮できる能力が備わっているか否かだと思います。「セレンディピティ」とは、何かに向かって一生懸命努力をし続けた結果、探しているものとは別の価値あるものを見つける能力・才能を指す言葉です。思いがけない発見や発明はこの「セレンディピティ」によって生まれてきます。常に、現状に満足することなく、「これでいいのか」と自問自答することにより新たな課題を見出し、試行錯誤を繰り返しながら課題を解決に導く。このような過程の中でセレンディピティは培われます。この能力こそが、博士号を取得された人が身に着けておられる大きな武器と言えます。

先日、一般社団法人日本機械工業連合会主催のシンポジウム「理数系学力の強化とモノづくり人材」に参加させていただきました。この中で、「日本の国際競争力を回復し、経済成長を成し遂げるためには、製造業の競争力を決定する理数系の技術者・研究者の育成が重要。それなのに基礎学力の低下や柔軟性の欠如など、若手研究者の能力低下は危機的状況にある」と企業関係者や大学の研究者の方々から指摘がありました。特に、博士号を取得された方は、狭い分野にこだわり、融通が利かない、とも言われました。近年の学問分野においては、専門分野の高度化・細分化や学際分野の発展による多様化などによって、大学の研究が狭い範囲に限定され、実社会において要求される柔軟な思考や他分野における研究や技術に対する感性が鈍くなっているかも知れません。自分が得意とする狭い領域の範囲でしか能力を発揮できず、全体像を把握し何が重要な課題であるのかを見極めることができません。結果として、期待される活躍ができないことになります。

しかしながら、私は、このような指摘は当てはまらず、むしろ逆であると考えます。 先程述べましたように、本学の「高い文化的な香り」が漂う雰囲気の中で、世界最先端の 融合研究を推進する学際性を兼ね備えた恵まれた教育研究の場で博士号を取得された皆さんは、より一段と高度な視点から、柔軟性を持って複雑な課題に十分対応できると信じるからです。

さて、一昨年3月11日に発生した東日本大震災から2年の歳月が過ぎました。現在でも未だ復旧・復興への道のりは厳しく、福島原子力発電所の惨状を考えましても、解決には程遠い状況にあります。世界に目を向ければ、我々は様々な地球規模の課題に直面しています。地球温暖化などによる環境問題はもとより、資源、エネルギー、食糧などの国際的な獲得競争が激化し、これらが世界経済や政治を不安定にさせています。このような世界を取り巻く複雑で激変する状況において、問題の多くは、一国だけで解決することはできず、世界各国が協調、協力して取り組まなければならないグローバルな課題となっています。経済・ビジネス界においては、グローバル化の進展により厳しさを増す中で、人類社会が直面する課題を解決に導いたり、イノベーションにより社会に新たな価値を創造しグローバル社会で活躍できる人材が不可欠であることは言うまでもありません。このようなグローバル社会においてこそ、世界で多様な仕事を遂行してゆくには、研究者・技術者に留まらず、経営者、政治家などあらゆる職種や分野において、博士学位のライセンスが一層必要とされます。

皆さんには、複雑なグローバルな課題に思いきってチャレンジしていただきたいと思います。我々人類と自然との共生と調和を基本に据えた「明日の新たな世界」を切り開いていただけることを祈念して、博士学位取得のお祝いの言葉といたします。

平成25年3月25日
神戸大学長 福田 秀樹