【式辞】平成24年度 学位記授与式(学士、修士他) 式辞

学部を卒業される皆さん、そして大学院前期課程および専門職学位課程を修了される皆さん、卒業並びに修了おめでとうございます。また、ご家族の皆様方、誠におめでとうございます。神戸大学の全構成員を代表して心からお祝い申し上げます。

本日、学部学生の卒業生2,552名、大学院博士前期課程修了者1,183名並びに法学研究科および経営学研究科の専門職学位課程修了者77名、合わせて3,812名の方々に、それぞれ学士および修士の学位を授与いたしました。このように、本日多くの卒業生や課程修了者を輩出できましたことを学長として大変誇りに思っております。

さて、神戸大学の創立は、1902年(明治35年)にさかのぼります。兵庫県下で最初の高等教育機関として「神戸高等商業学校」が設置されたことが起点となっております。それ以降、開学以来、「学理と実際の調和」という理念を掲げ、普遍的価値を有する「知」を創造するとともに、人間性豊かな指導的人材を養成することを使命としてきました。そして、昨年5月15日の本学創立110周年の記念すべき日を迎えました。文部科学省、自治体、各国総領事館、国内外の大学、研究機関、企業・財団など各界から多くの関係者にご臨席いただき、EU大統領のヴァンロンプイ閣下からお祝いの映像メッセージも賜り、盛大に記念式典を執り行うことができました。

本学はこの110年の間に、教育、研究、社会貢献などの分野で数多くの輝かしい成果を創出し、本学教員並びに本学の出身者、関係者がノーベル賞や文化勲章など、輝かしい賞を受賞しています。昨年に限ってもノーベル賞授賞式に、本学に関係のある3人の方々が出席されました。本学医学部ご卒業の山中伸弥京都大学教授がノーベル生理学・医学賞を受賞され、本学の名誉博士でおられるヴァンロンプイEU大統領、そして同じく本学の名誉博士でおられるバローゾ欧州委員会委員長がEUを代表して平和賞を受賞されるなど本学にとっても大変名誉な受賞となりました。本学工学部電気電子工学科ご卒業の佐川真人(まさと)博士がネオジム磁石の開発で日本国際賞を受賞されるという素晴らしいニュースもありました。

現在、これらの輝かしい110年の歴史と伝統を踏まえ「世紀を超えて~神戸大学~」を合言葉に、本学が世界最高水準の教育研究機関としての地位を確立することを目指して、教職員が一体となって尽力しています。

今我々の住んでいる世界では、様々な地球規模の課題に直面しています。地球温暖化などによる環境問題はもとより、資源、エネルギー、食糧などの国際的な獲得競争が激化し、世界経済や政治を不安定にさせています。このような複雑で激変する世界を取り巻いている問題の多くは、一国だけで解決することはできず、世界各国が協調、協力して取り組まなければならないグローバルな課題となっています。

経済・ビジネス界では、グローバル化の進展によって経済環境が厳しさを増すなかで、優れた人材の国際的な獲得競争が熾烈となっています。人類社会が直面する課題を解決に導き、イノベーションによって社会に新たな価値を創造する。そのような人材がグローバル社会の柱となります。グローバル社会では、語学力・コミュニケーション能力、主体性・積極性、責任感や使命感だけでなく、異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティーを兼ね備えた資質が求められます。この資質に加えて、深い教養と高度な専門性を持ち「課題発見型リーダーシップ」を発揮できる人材の育成が急務となっています。

大学は、教育と研究を通じて、グローバル社会における学生の未来と社会の未来を創り出す極めて重要な責務を担っており、本学は、大学教育の質的変換のために数多くの施策を行ってまいりました。

グローバル教育を充実させるためには大学教員の質的向上が必要です。そのためには個々の教員のグローバル化を進めなければなりません。神戸大学は平成21年度から45歳以下の若手教員を毎年15名を約1年間海外に留学させています。留学することで、研究能力が向上するだけでなく、現地での慣習に触れることなどを通じて異文化理解が深まり、人的ネットワークも形成できます。これによって教員が、学生達に学ぶ意欲や広い世界に出てゆこうとする意欲を強くサポートできるグローバル教育に転換できるのです。

グローバル人材育成のためのプログラムも充実させなければなりません。本学では、文系・理系のほとんどの学部や大学院研究科で独自あるいは連携によるプログラムを開設し積極的に取り組んでいます。海外の大学と協定を締結し、本学の学生を海外に派遣させるプログラムやオックスフォード大学からの留学生12名を毎年受け入れるプログラムを展開しています。文部科学省からは「大学の世界展開力強化事業」の指定を受け、高度専門家の育成も進めています。

海外の大学や研究機関とは連携を強化し、学術交流や教員・学生の派遣などを通じて教育研究分野におけるグローバル化を図っています。海外とのネットワークの構築を国際化戦略の一環として積極的に推進しており、EU(欧州連合)地域の拠点としてベルギーのブリュッセルに、また東アジアやASEAN地域の拠点として中国の北京にそれぞれ海外事務所を開設しています。留学生OBを中心とした同窓会組織もアジアと欧州地域の11ヶ国に設置しています。

皆さんは、このような環境の下で学業を修められてこられました。グローバル社会で活躍できる実力が十分備わっておられると確信しています。

ここで私が皆さんにお願いしたいことが3つあります。一つ目は、課題解決のために進むべき道を選択する際に、「より困難な道を選択していただきたい」ということです。

山に登るつもりで考えてください。目指す山頂への道が数多くあるときに、皆さんはどの道を選びますか?私は、間違いなく一番困難な道を選びます。多くの課題が目の前に立ちはだかり、つらくて厳しいかもしれません。でも大きな困難を乗り越えた時には、努力に相当するだけの大きな喜びが得られます。私は19年前、企業研究者から大学教授に転身しました。研究環境の違いなどに戸惑いもありましたが、多くの方に助けられて今の私があります。

人は難しいことを乗り越えた時、大きく成長します。やさしい道は容易に達成できるかもしれませんが、得られる成果も小さく、満足感や感動も生まれてきません。これからの皆さんの人生は、このような登山と同じようなものだと思います。自分で自分の限界を決めつけないで、まずは何でもチャレンジしてはどうでしょうか。意外な自分の才能を見出せるかもしれません。そのためにも、常に「ああすればどうか」、「こうすればどうだろう」と考える癖を身につけてほしものです。必ずや創造的なアイデアが生まれてくるでしょう。

より困難な道を選択してみようという姿勢が重要です。失敗を恐れず、生涯チャレンジし続ける人間であってください。必ず大きな感動が得られると思います。 

二つ目は、私が常日頃心がけていることです。本物を知る努力を怠ってはいけません。現在のような情報革命の時代では、インターネットや電子メールなど多くの電子媒体が普及し、誰もが世界中の人々と会話や通信ができ、ニュースなどあらゆる情報も瞬時に入手できるようになっています。簡単に多くの情報を得られますが、情報を的確に判断し取捨選択しなければ、膨大な情報の中に埋没してしまいます。

私事ですが、1982年から2年半、英国の大学に留学した経験があります。留学先の大学では、ノーベル賞受賞者ら著名な研究者が使用していた実験室、実験器具や実験装置などがそのまま展示されていました。このような実物を目の当たりにして大きな感動を覚えた記憶が今も鮮明に残っています。これは何も科学の分野だけに限られたものではありません。芸術や文化など他の分野でも同じことです。絵画や彫刻などの作品も素晴らしい本物に接して初めて感動を覚えるもので、書物や写真・映像などを見ただけでは感動は得られません。そのような体験を経て初めて、本物を知り、本物と偽物とを見分ける目を養うことができます。情報化時代では、多くの情報の真偽、重要性などを的確に判断しなければなりません。本物をよく見て、自らの目や耳で違いを識別する努力をしていただきたいと思います。

三つ目は、「国際人としての活躍をしていただきたい」ということです。複雑で急変しつつあるグローバルな社会において、本学でグローバル教育を学修された皆さんへの期待が高まっていると思います。

今後は、皆さんが様々な分野において、多くの課題を解決に導き、未来を支える国際人として活躍されることを祈念して、平成二十四年度の学位授与式の式辞と致します。

平成25年3月26日
神戸大学長 福田 秀樹