【式辞】平成26年度 学位記授与式 (学士、修士他) 式辞

本日、学部を卒業される皆さん、大学院前期課程および専門職学位課程を修了される皆さん、卒業並びに修了、おめでとうございます。参列されているご家族の皆様にも、神戸大学全構成員を代表しまして心からお祝いを申し上げます。

先ほど、学部の卒業生2,715名、大学院修士・博士前期課程修了者1,202名並びに法学研究科の専門職学位課程修了者73名の方々に学士、修士及び法務博士の学位を授与しました。

さて、皆さんはこれまで大学という組織の中で教育を受け、研鑽を積んでこられました。そして、今から夢と希望を胸に秘め限りなき未来に飛び立とうとされています。しかしながら、その未来には、複雑で厳しい世界が待ち受けているものと思います。

本日は、私の今までの本学での経験の中で、特に注力してきたことと、印象に残った学生のお話をして皆さんへの“はなむけの言葉”とします。

私は、1994年に企業を退職し神戸大学工学部の教授に転身して、2009年に民間企業出身者として初めて神戸大学長に就任しました。そして、この3月末で6年間の任期を終えようとしています。私が学長になる前もその後も力を注いできたのは、連携や融合という考え方でした。産学連携だけでなく、自然科学系の先端研究者を集めて連携や融合によるシナジー効果によって成果を生み出すという発想から分野横断型組織として「自然科学系先端融合研究環」を設けて初代環長になりました。また、2011年には重点研究チームを集めた全学組織として「統合研究拠点」をポートアイランドに作り、その翌年には社会科学系の分野横断組織として社会科学系教育研究府も作りました。2013年には、本学の強みを発揮させるために文系と理系とが協働する「文理融合」という概念を打ち出して、全国の研究機関・大学とともに「研究大学」の指定も受けました。

最後の仕上げとして、2016年に開設予定の「科学技術イノベーション研究科 (仮称)」を推進してきました。本研究科は、理系の重点分野の研究成果を基盤として、文系の研究者や企業の研究者とともに一体となって取り組むことによって、世の中に多様な製品を生み出すなど、イノベーションの創出が大いに期待される新たな組織です。

「連携」や「融合」は、既成概念にとらわれない、インパクトのある成果を生み出す原動力となり得ますが、これは大学に限ったことではなく、企業など実社会においても同様のことが言えます。組織や国家間の枠組みを越えた連携を図り、ダイナミックな活動を実行して頂きたいと思います。

ところで、神戸大学に来てからの計21年間を振り返りますと、研究室で育てた数百人の後進の顔が浮かんで参ります。中でも記憶に残っているのは2人の学生です。その2人が卒業および修士論文指導を通じてブレークスルーし、大変素晴らしい成果を上げました。私はそのことを通じて「自分自身、科学の本質をまだまだ理解していなかったのだ」と大いに反省したものです。

皆さんは科学者でエッセイストでもある寺田寅彦さんのことをご存じと思います。寺田さんは「科学者とあたま」という随筆の中で次のように述べられています。

「いわゆる頭のいい人は、言わば足の早い旅人のようなものである。人のまだ行かない所へ行き着くこともできる代わりに、肝心なものを見落とす恐れがある。頭の悪い人、足ののろい人がずっとあとからおくれて来て、わけもなくその大事な宝物を拾っていく場合がある」と。

先に紹介した2人がまさにそうでした。もう少し詳しくお話しします。工学部では4回生になると各研究室に配属されますが、1998年に配属されたのが2人でした。うち1人は成績は良くなかったのですが、彼には「微水系の酵素反応」という研究テーマを与えました。「わずかな水」という、文字通り水を少ししか入れてはいけない実験です。こんこんと説明して実験に取りかからせたのですが、彼は水を多く入れ、私の説明とは逆のことをしました。「あえて先生の仰る通りにしなかったのですが、やはり失敗しました。」と、申し訳なさそうにデータを持ってきました。そのデータを見たとたん、私は仰天しました。失敗どころか大成功の実験データだったのです。彼は細かいデータの見方がまだよくわからず、失敗したと思い込んでいました。その研究成果の論文を「日本生物工学会」という専門学会の英文誌に提出させたところ学会の論文賞をも受賞しました。このおかげで、私のバイオディーゼル燃料の研究も飛躍的に発展しました。彼は学部卒業後に就職する予定だったのですが、これがきっかけとなり研究のおもしろさに目覚め、博士号まで取得しました。今は有力企業の研究者として頑張っています。

そして、もう1人の学生についてですが、彼は髪を金色に染めていて、「研究成果は期待できないだろう」と思わせるような学生でした。彼に与えた研究テーマは「放線菌による酵素生産技術」というテーマでした。私は一計を案じまして「君だけにこのテーマを与えるが、研究成果が出なかったら、この研究はやめる」と宣言しました。いわば崖っぷちに立たせたのです。そこからの彼の実験への取り組みは鬼気迫るものがありました。泊まり込みで実験を続け、とうとう素晴らしい成果を出したのです。そして、一緒に特許申請を行いました。

彼ら2人には、テーマを与えるときに「実験で想定したような結果が出なくて失敗しても応援するから心配するな」とも話しましたが、全く期待していなかった研究で大きな成果を上げてくれたのですから、私は大きな喜びを得ることができました。彼らは私を目覚めさせてくれた恩人で、私にとってレジェンドの学生です。物を創造する、クリエィティブであることは知識の多寡とは関係が無いのだということ、そして人を外見だけで判断してはいけないということに改めて気付かされました。

皆さんもこれまでに自分自身の生き方や考え方に影響を与えてくれたような人との出会いがあったかと思います。そして、これからもそのような出会いがあるでしょう。

これまで入学式や、卒業式の祝辞で学生の皆さんに、「社会に出たときに賢く立ち回るのでは無く、愚直に真正面から取り組むことが肝要だ」と挑戦の心構えを説いてきましたが、どうか「山に登るのならあえて難しいコースを選べ」という言葉も心に刻んで巣立ってください。皆さんのブレークスルーを心から期待して、“はなむけの言葉”とします。

平成27年3月25日
神戸大学長 福田 秀樹