神戸大学大学院医学研究科の勝沼沙矢香さん (博士課程) と富樫英助教らの研究グループは、鼻腔の奥で匂いを感じる嗅上皮で、異なる機能をもつ2種類の細胞がモザイク様に並ぶメカニズムを世界で初めて明らかにしました。今後、さまざまな組織が形成される際の細胞の運動や並び方を決定する共通原理として広く普及することが期待されます。この研究成果は2月29日、米国科学誌「The Journal of Cell Biology」に掲載されました。

全ての細胞は、同じ種類の細胞どうしを結びつける働きをもつ分子「カドヘリン」により結合しています。カドヘリンは細胞ごとに様々な種類があり、同じカドヘリンをもつ細胞は結合しますが、異なる場合は分離することが知られています。しかし嗅上皮の2種類の細胞、嗅細胞と支持細胞は、異なるカドヘリンを持っているにも関わらずモザイク状に混ざり合います。細胞が適切な位置に並ぶことは、感覚器の機能を発揮するために重要ですが、これまで具体的なメカニズムは不明でした。

研究グループは、細胞が市松模様に並ぶために必要な既知の分子「ネクチン」とカドヘリンの連携に着目。モザイクパターンが作られる過程を生物学と数理モデルを融合させた手法で解析しました。その結果、嗅細胞と支持細胞の間で異なるネクチンが結合した後、細胞の境界に多くのカドヘリンが集まっていること、さらにその量に違いが生じることで接着力の差を生み、モザイクパターンを形成することがわかりました。また、異なるカドヘリンと異なるネクチンをもつ2種類の細胞を作成し、両者を混ぜて培養したところ、嗅上皮のパターンに対応する、片方の細胞のみが混ざる、偏ったモザイクパターンを作成することができました。

富樫助教は、「生物にみられるさまざまな細胞の並び方も、細胞どうしのコミュニケーションによって巧みに調整されている。今回の研究により、生物に存在する根本的な仕組みを実証することができ、生き物の形を作る共通原理の理解が深まる」と期待を寄せています。

(左) 異なるカドヘリンをもつ細胞は分離する。
(中) 異なるネクチンをもつ細胞は互いにつよく接着し、互い違いに混ざり合うモザイクパターンになる。内耳がこれに該当する。
(右) 異なるカドヘリンとネクチンをもつ細胞は、片方だけが混ざるモザイクパターンになる。嗅上皮はこれに該当する。

細胞が整列する様子

掲載論文

タイトル
Synergistic action of nectins and cadherins generates the mosaic cellular pattern of the olfactory epithelium
DOI
10.1083/jcb.201509020
掲載誌
The Journal of Cell Biology

研究者