神戸大学医学部附属病院 整形外科の黒田良祐教授、松本知之講師、新倉隆宏講師ら研究グループが行っている研究が、2017年10月26日にnature誌のオンライン記事で紹介されました。

 紹介された研究成果は、2013年12月4日に米国科学誌「STEM CELLS Translational Medicine」に掲載されたものです。

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紹介された研究について

研究の背景

 多くの場合、骨折は、保存的治療(ギプス・シーネ等による外固定)や観血的骨接合術(外科手術による整復と強固な固定)を行うことで、骨癒合が得られて治癒します。しかし骨折患者の5-10%は治療後6-8ヶ月を経過しても骨癒合が得られず、後遺症として偽関節(骨折部の治癒が遷延または停止した状態)に陥ります。偽関節に陥った際は、原因を調べ対策を講じますが、治療を行い骨癒合が得られたとしても、治癒に至るまでの期間は長く、患者の生活に多大なる支障を来たします。なかでも、開放骨折や大きな手術後に多くみられる血行不全を病態とする偽関節は治療に難渋します。血管柄付き骨移植術が効果を表しますが、この手術は術者の熟練を要し、患者の体への負担も大きく、理想の治療とは言いがたいのが現状です。したがって、新たな治療法の確立は、社会的・医学的急務といえます。

 一方、血管学研究の分野においては、1997年、血管の再生を可能とする幹細胞(血管内皮前駆細胞(EPC))の存在が報告され、ヒト末梢血中のCD34陽性細胞として存在することが証明されました。以後EPC移植による血管再生治療の研究が進み、現在では下肢虚血・冠動脈疾患等の循環器疾患患者に対する治療として定着しつつあります。末梢血EPCによる血管再生が可能となった現在、以前よりも骨再生における血管形成の重要性が指摘されるようになっていました。

 そこで本研究グループは、末梢血CD34陽性細胞が血管再生を通じて骨再生を促進すると仮説を立て、これを検証しました。健康成人より得られた末梢血CD34陽性細胞をヌードラット難治性骨折モデルへ移植したところ、CD34陽性細胞が血管内皮細胞に分化するだけでなく、骨芽細胞にも分化すること、また、in vitro※1における実験でもCD34陽性細胞が骨芽細胞に直接分化することが確認できました。これらの実験結果により、CD34陽性細胞が血管の幹細胞としてだけでなく、骨の幹細胞としても機能しており、血管再生を通じた骨折治癒に加え、骨再生も可能であることを確認しました。この結果により、難治性骨折治療の新たな選択肢の一つとして、末梢血CD34陽性細胞移植が有用であることが示唆されました。

研究の内容

 これらの基礎研究成果を踏まえ、従来の観血的骨接合術・骨移植術に抵抗性の難治性骨折(非感染性偽関節)患者を対象に、先端医療センター病院と共同で、対象患者本人の同意の下、「難治性骨折(偽関節)患者を対象とした、自家末梢血CD34 陽性細胞移植による骨・血管再生療法に関する第Ⅰ・Ⅱ相試験」を実施しました。

 まず5日間の顆粒球コロニー刺激因(G-CSF)の皮下注射によりCD34陽性細胞を末梢血中に動員させ、アフェレーシスによる単核球細胞を採取した後にCD34陽性細胞を磁気分離しました。治療は6日目に偽関節手術(自家骨移植に加え、必要に応じて内固定の改善を行う)とともに 5 x 105個/kgの自家末梢血CD34陽性細胞をアテロコラーゲンを担体として移植するものです(図)。主要評価項目として安全性および術後12週のX線学的骨折治癒の有無としました。偽関節患者7症例(大腿骨2例、脛骨5例)に対して上記臨床試験を適応したところ、術後平均12.6週には臨床的骨癒合が得られ、術後平均16.1週でX線学的骨癒合が得られました。主要エンドポイントである術後12週でのX線学的骨癒合率は71.4%であったのに対し、ヒストリカルコントロールとして設定した同施設内の骨移植を併用して治療を行った大腿骨あるいは脛骨偽関節患者11症例では治癒率は18.1%であり、本治療の有効性が示唆されました。

研究のその後

 上記の臨床試験により、偽関節患者に対する本治療の有効性・安全性が示唆されました。今後、最終目的である医療技術としての定着・普及を目指すため、現在、多施設共同医師主導治験を実施中です。偽関節に対する新しい治療法、骨の再生医療である末梢血CD34陽性細胞移植は、既に動物実験・初期臨床試験で高い有効性・安全性が示唆されており、今後の幅広い臨床適用においても高い効果が期待されます。

用語解説

  • ※1 in vitro: 試験管内などの人工的に構成された環境下

記事内 紹介論文情報

・タイトル
Local Transplantation of Granulocyte Colony Stimulating Factor-Mobilized CD34+ Cells for Patients With Femoral and Tibial Nonunion: Pilot Clinical Trial
doi: 10.5966/sctm.2013-0106

・著者
Kuroda Ryosuke, Matsumoto Tomoyuki, Niikura Takahiro, Kawakami Yohei, Fukui Tomoaki, Lee Sang Yang, Mifune Yutaka, Kawamata Shin, Fukushima Masanori, Asahara Takayuki, Kawamoto Atsuhiko, Kurosaka Masahiro

・掲載誌
STEM CELLS Translational Medicine

関連リンク

  • 神戸大学医学部附属病院
  • 難治骨折診 | 神戸大学医学部整形外科
  • 公益財団法人 先端医療復興財団