神戸大学大学院農学研究科の杉浦真治准教授は、水田などに生息するマメガムシ※1は、カエルに捕食されたとしても消化管を生きて通過し、さらにカエルのお尻の穴 (総排出腔※2) から無事に脱出することを発見しました。

この研究成果は、2020年8月4日に、国際学術雑誌「Current Biology」に掲載されました。

ポイント

  • マメガムシはカエル類に飲み込まれても消化管を生きて通過。
  • カエル類のお尻の穴 (総排出腔) から脱出。
  • 総排出腔から排出された後もすぐに活動再開。
図1. 水田に生息するマメガムシ (a) とトノサマガエル (b)、マメガムシによるトノサマガエルの総排出腔からの脱出 (c)

研究の背景

昆虫は他の動物に捕食されないために様々な逃避・防衛行動をとることが知られています。中でも、捕食者に見つかる前や攻撃をされる前に逃避することが最も効率的です。そのため、捕食者との接触前の逃避行動がこれまで主に研究されてきました。

しかし、近年、捕食者に攻撃された後でも、捕食者体内から生きて脱出する行動が発見されています。このような行動には、捕食者の口から吐き出されることで脱出する場合と、捕食者の消化管を通して肛門や総排出腔から生きて排出される場合とがあります。特に後者は、排出されるまで消化管内で長時間耐える必要があります。そのため、できるだけ短時間で積極的に脱出するような行動が有利ですが、これまでそのような行動は知られていませんでした。

研究の内容

カエル類の多くは歯がなく、獲物となる昆虫や小動物を丸呑みすることが知られています。実験室下で様々な陸生・水生昆虫をカエル類に与えて、逃避・防衛行動を調査してきました。その結果、水田などに生息する甲虫の一種マメガムシ (図1a) が、トノサマガエル (図1b) に飲み込まれても、90%以上の個体がカエルのお尻の穴 (総排出腔) から生きて脱出することを発見しました (図1c:動画) 。さらに、その他のカエル4種 (トウキョウダルマガエル、ツチガエル、ヌマガエル、ニホンアマガエル) に対しても同様の行動が見られました (図2)。

加えて、トノサマガエルでは他の餌を飲み込んでから未消化物を排出するまで平均50時間 (最小24時間~最大148時間) かかりましたが、マメガムシが総排出腔から生きて排出される場合は平均1.6時間 (最小0.1~最大3.5時間) でした (図3)。また、カエル類の総排出腔は平時は括約筋によって閉まっており非常に小さいマメガムシが自力でこじ開けるのは困難と考えられます。つまり、マメガムシはカエルの消化管を生きて通過し、総排出腔から脱出するためにカエルを内部から刺激して排便を促している可能性あります (図4)。このような捕食者の排便を促進して総排出腔から生きて脱出する動物はこれまで知られていませんでした。

図2. マメガムシによるカエル5種からの脱出成功率
図3. マメガムシがトノサマガエルに捕食された後に排出されるまでの時間

マメガムシは15個体中14個体がカエルの総排出腔から生きて脱出し、1個体が死んで排出された。また、別のガムシ科の一種であるキベリヒラタガムシは捕食された13個体すべてが死んで排出された。

図4. マメガムシによるトノサマガエル体内からの脱出ルート

動画

[マメガムシはカエルに食べられてもお尻の穴から生きて脱出できる / A beetle species can escape from the vent of a frog](https://youtu.be/qbefo_vUzog)

用語解説

※1 マメガムシ
鞘翅 (コウチュウ) 目ガムシ科に属する小型種 (3.8–5.0 mm) で、成虫は水田などで水草などを摂食する。普段は水中を遊泳するが、水面に出て飛翔して移動することもある。
※2 総排出腔
未消化物、尿、卵、精子が排出される単一の穴。軟骨魚類、両生類、爬虫類、鳥類のほとんどにみられ、一部の哺乳類も有する。

研究助成

本研究は日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤C「有毒節足動物の捕食者体内における耐性機構:いかにカエルの消化液に耐えられるか?」(19K06073) の支援を受けて行われました。

論文情報

タイトル
Active escape of prey from predator vent via the digestive tract
DOI
10.1016/j.cub.2020.06.026
著者
Shinji Sugiura
掲載誌
Current Biology

研究者