[理学研究科] ハエが“美味しい匂い”のする食物にたかって好んで食べようとするわけは?

2014年06月11日

神戸大学理学研究科生物学専攻の尾崎まみこ教授、前田徹研究員は奈良女子大学、福岡大学との共同研究で、ハエが美味しい匂いのする食物にたかる原因は、ハエの脳内で味覚と嗅覚を司る感覚神経が互いに近接していて相互に作用しているためだと世界で初めて突き止めました。この研究成果は米国・欧州・日本の化学感覚3学会の公式国際ジャーナル「Chemical Senses」の最新号 (39号、2014年6月5日発行) にトップハイライト論文として掲載され、論文データ写真の一つが表紙を飾っています。またこの論文は「Chemical Senses」サイトでもチーフエディターの紹介付きで掲載されています。

動物は、味や匂いや触感により栄養物や毒物を評価、識別し、栄養物を摂取、毒物を回避しています。味覚と嗅覚の情報統合は、よりよい食物を的確に判別するために重要で、動物個体の生存、ひいては種の存続にとっても重大な問題です。しかし、その神経機構は、これまで明らかにされてきませんでした。例えば、ハエは食物を味わって食べるという“報酬”に、食物の“匂い”を結びつけて行動することができますが、別々の感覚器で捉えられる味覚と嗅覚の情報が脳の中で、どのように統合されるか、その神経機構は知られていません。ハエにおいては、口器の味覚感覚神経の中枢への連絡が、食道下神経節と呼ばれる味覚一次中枢へ向かうこと、また、嗅覚感覚神経の中枢への連絡が、哺乳類で嗅球と呼ばれている脳領域に相当する、触角葉と呼ばれる嗅覚一次中枢領域へ向かうことは既に知られていました。神戸大学尾崎研究室の前田らは、ハエの副嗅覚器に由来する触覚感覚神経と嗅覚感覚神経に蛍光色素を導入して可視化しそれらの神経の行方を追ったところ、一部が味覚の一次中枢として知られる食道下神経節へと到達することが認められました。しかも、副嗅覚器から伸びる一部の嗅覚感覚神経の終末は、口器から伸びている味覚感覚神経の投射と重なっており【図7】、ここにおいて、味覚感覚神経と嗅覚感覚神経がシナプスを介して相互に情報を交換している可能性が示されました。外界から与えられた味覚の情報は、末梢の感覚器で神経信号に変換され、味覚感覚神経を通って脳へと運ばれてきて、食道下神経節 (味覚一次中枢) で初期情報処理を受け、触感や匂いといった異種情報の神経信号を加味した神経情報へと変換されることが示唆されたものです。この仕組みを使うと、ハエに、マツタケの香りのする1-octen-3-ol (通称マツタケオール) の匂い (濃縮されると家畜の糞尿臭がするといわれる) を、主嗅覚器からではなく副嗅覚器から嗅がせると、ショ糖餌への摂食意欲が約3倍増すという、前田らが本論文中で紹介している実験結果をうまく説明することができます。

【図7】

この研究は、ハエが“(ハエにとって) おいしい匂い”のする食物にたかってこれを好んで摂取する仕組みを世界で初めて解明したことになります。そしてまた同時に、異種の感覚情報が脳の中でどのように統合・処理されて新たな知覚が生じるか、さらに、異種感覚の情報統合を経て生じた知覚が動物の行動選択へどのように反映されるかといった、人間を含む多くの動物に通じる普遍的な問題の解明へと発展するものとしても評価されます。

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(広報室)