類人猿ボノボは「おすそわけ」する?

2015年03月13日

2015年2月12日、英国の行動学の学術専門誌Behaviourの類人猿ボノボに関する特集号"Bonobo Cognition and Behaviour" (ボノボの認知と行動)がオンライン出版されました。神戸大学国際文化学研究科の山本真也准教授と米国Duke大学のBrian Hare博士の共同編集によるものです。

大きな果実(現地名:ボリンゴ)を食べる野生ボノボ。 ボノボはこの果実をよく分け合って食べる (コンゴ民主共和国ワンバ村にて山本真也撮影)

この特集号掲載論文12本のうち3本は日本の研究グループによるものです。古市剛史・京都大学霊長類研究所教授、Heungjin Ryu京大霊長研院生、山本神戸大学准教授がそれぞれ中心となって進めた研究成果です。 うち山本論文は、コンゴ民主共和国ワンバ村の野生ボノボにおける果実分配に焦点を当てています。食べ物を分け合って食べる行動は、協力社会の基盤にもなったと考えられていますが、チンパンジーの肉分配に比べるとボノボの果実分配はあまり注目されてきませんでした。しかし、果実を分け合うことには大きな意味があります。肉はなかなか手に入れることができない食物資源ですが、果実は大人であればだれでも探して見つけることができるものです。にもかかわらず、大人同士、とくにメス同士で大きな果実を分け合って食べる行動がボノボでは頻繁に見られることを論文では紹介しました。これは、食べ物そのものを目的とするわけではなく、ヒト社会のご近所同士でみられる「おすそ分け」のような儀礼的食物分配がボノボで見られる可能性を示しています。

ボノボはチンパンジーと同様ヒトに最も近い進化の隣人です。それにもかかわらず、"forgotten ape" (忘れられた類人猿)と呼ばれるなど、チンパンジーに比べると研究が遅れていました。野生ではコンゴ民主共和国にしか生息しておらず、野生・飼育下問わず個体数が非常に少ないこともその一つの要因です。しかし、この研究動向に大きな変化が起こりつつあり、近年ボノボに大きな注目が注がれています。

ボリンゴを大事そうに抱える野生ボノボのオトナオス(コンゴ民主共和国ワンバ村にて山本真也撮影)

特集号では、フィールド研究・実験研究の両方を含む世界最先端のボノボ研究を12本掲載しました。これらの研究成果はすべて、ヒトの「人間らしさ」に再考を迫るものです。これまで、チンパンジーとヒトとの比較から、ヒトの特徴が語られてきました。しかし、チンパンジーが持っていなくてボノボがみせる「人間らしい」行動が数多く見つかっています。例えば、繁殖に結びつかない性行動が頻繁にみられ、社会関係の強化につながっています。また、女性同士の結びつきが強く、食物分配といった協力行動でも中心的な役割を担い、子どもの社会的地位に対しても母親の影響が大きいのです。逆に、ヒト・チンパンジーで見られるのにボノボで見られない行動もあります。ヒトもチンパンジーも多くの道具使用をみせますが、野生ボノボでは食物獲得のための道具使用は知られていません。特集号はこれらの謎に対して、実証研究の立場からアプローチするものです。

日本はこのようなボノボ研究で世界を牽引する立場にあります。日本の研究チームはコンゴ民主共和国のワンバ村を野生ボノボ調査の主要拠点としていますが、ここは1973年から今に続く世界で最も歴史のある調査地です。2013年秋に、非侵襲的認知行動研究のためのボノボが米国の動物園から京都大学に導入され、日本初のボノボ認知研究が始動しました。山本准教授はそのどちらの研究チームにも参画しています。

山本准教授は、「人間性の進化を探るうえで非常に重要な位置を占めるボノボですが、現在絶滅の危機に瀕しています。人々の無知・無関心が彼らの絶滅へとつながっています。研究の世界ではすでに『忘れられた類人猿』といった汚名は払拭されています。残念ながら、一般の日本人が気楽に観察できるところにボノボはいません。せめてこれらの研究を通して、私たちに最も近い進化の隣人のことをよく知り、関心をもっていただければと願っています」と話しています。

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(国際文化学研究科、広報課)