[医学研究科] 腸管出血性大腸菌O157の病原タンパク質のフレキシブルな構造の詳細を解明

2013年9月10日

本学、医学研究科構造生物学分野 特命助教 濵田大三、近畿大学医学部 教授 坂田育弘、助教 濵口満英、大阪府立母子保健総合医療センター免疫部門 部長 柳原格、奈良先端科学技術大学院大学 教授 片岡幹雄、准教授 上久保裕生、産業技術総合研究所 主任研究員 萩原義久らによる共同研究グループが、腸管出血性大腸菌O157の病原タンパク質であるEspBのフレキシブルな全体構造の詳細を明らかにしました。本研究成果は、2013年8月21日付で、オンライン科学誌PLOS ONE 1 に発表されました。

研究の内容

腸管出血性大腸菌O157 (以下、O157) は、複数の病原タンパク質を用いて、ヒトの腸管上皮細胞に強固に定着し、ベロ毒素を産出することにより、時には死を招くほどの重篤な症状を招きます。O157が生産するEspBは、ヒトなどの宿主細胞の持つ、αカテニンというタンパク質に結合することで、この「強固な定着」が起きる際に、生ずるアクチン線維のバンドリングを促すタンパク質です 2 。先行研究により、このタンパク質の一部が、緩く巻きあがったαへリックス構造と言う、部分構造を形成していることが既に明らかにされています 3 。が、他の大部分が、フラフラとした立体構造を形成している「天然変性タンパク質 * 」であるため、X線結晶構造解析や核磁気共鳴といった高分解能技術による詳細な立体構造解析が困難でした。

濵田らの研究グループは、EspBを分断した断片を複数調製し、様々な分光学的・熱力学的研究手法を用いて、その立体構造を解析し、これらの断片的な情報をパズルのピースとし、実際のジグソーパズルを解くように、それらを組み合わせることで、フラフラとしたEspB全長の低分解能構造が、明らかにされました。その結果、EspBの30番目~70番目のアミノ酸領域が、比較的安定で且つ伸びた状態のαへリックス構造をとり、それ以外の領域は、一時的に、αへリックス構造を形成するものの、比較的ランダムな紐状構造を形成していることが、示唆されました。さらに、30番目~70番目のαへリックス領域は、全長タンパク質と同程度の強さで、EspBの結合相手である宿主細胞由来のαカテニンと結合することでアクチン線維のバンドリングが促進されることが、分かりました。

この研究手法は、通常のタンパク質が、アミノ酸配列上、遠距離にある原子間の相互作用によりしっかりとした立体構造を維持しているのに対して、天然変性タンパク質の場合、そのような遠距離の相互作用が存在しため、断片化を行っても、元の全長構造に近い構造を各断片が保持しているという天然変性タンパク質、特有の性質を利用したものです。

今後の展望

この研究により得られたEspBの構造に関する知見は、O157による「強固な定着」の詳細なメカニズムの解明やEspBをターゲットとした治療薬の開発などに、今後、利用できるものと期待されます。

また、多くの細菌・ウイルス由来の病原タンパク質は、EspBと同様なフレキシブルな構造を形成しており 4 、今回、本研究で用いられた断片化による構造解析を根気よく進めることにより、これらの病原タンパク質の構造情報や関連する疾患の発症メカニズムの解明、治療薬の開発が、進むものと期待されます。

参考文献

  • 1 Hamaguchi M. et al. PLOS ONE. 2013 Aug 14;8(8):e71618. doi: 10.1371/journal.pone.0071618. (http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0071618)
  • 2 Hamaguchi M. et al. FEBS J. 2008 Dec;275(24):6260-7. doi: 10.1111/j.1742-4658.2008.06750.x.
  • 3 Hamada D. et al. FEBS J. 2005 Feb;272(3):756-68.
  • 4 Hamada D et al. FEBS J. 2010 Jun;277(11):2409-15. doi: 10.1111/j.1742-4658.2010.07655.x.

備考

本研究は、○文部科学省 グローバルCOEプログラム「統合的膜生物学の国際教育研究拠点」、○文部科学省科研費 新学術領域研究 (揺らぎが機能を決める生命分子の科学)、○日本学術振興会科研費 基盤研究 (C)、○(財)金原一郎記念医学医療振興財団 第25回基礎医学医療研究助成金、のサポートにより得られた成果です。

用語説明

* 天然変性タンパク質

通常のタンパク質が密に詰まった堅い構造を形成するのに対して、広がった構造を持つタンパク質の総称。ちょうど、通常のタンパク質が、ほどけた状態である「変性状態」に相当する構造を、天然の条件下で、形成しているため、このような名前が付けられた。通常のタンパク質の構造がほどけ、機能を喪失することを通常「変性」と呼ぶのに対し、「天然変性タンパク質」の場合、ほどけた構造のままでも、基本的な機能は保持されているとされる。このような混同を避けるため、英語表記では「変性」という用語に対して、UnfoldedやDisorderという言葉を用いる。天然変性一般的に、真核生物の遺伝子には天然変性タンパク質が30%程度、含まれているのに対して、原核生物の場合、天然変性タンパク質は数%に満たないと言われているが、腸管出血性大腸菌などの病原性のグラム陰性菌などの特殊なタンパク質分泌装置を持った細菌やウイルスの遺伝子上には、病原性に関わる天然変性タンパク質が、比較的多くコードされていることが、示唆されている。

(医学研究科)