学生の皆さんへ -第2クォーターを終えるにあたって-

2020年08月12日

神戸大学長
武田 廣


昨年11月に中国・武漢で発見された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は瞬く間に世界中に拡がり、今もなお、感染者2000万人を超える勢いで拡大し続けています。

本学では、3月以来、卒業式、入学式をはじめあらゆる行事を中止にするとともに、すべての授業を遠隔授業に切り替え、さらに課外活動やキャンパスへの入構を禁止しました。第2クォーターに入り、一部の実験、実習等につき例外的に対面での実施を可とし、少しだけ活動制限を緩和しましたが、講義については未だ遠隔授業のまま進められています。

いずれも学生の皆さんの健康と生命を守ることを第一に考えた措置ですが、その一方で、行き交う学生の姿を失ったキャンパスの情景を見るにつけ、胸が締め付けられる思いをしています。特に1年生の皆さんは、入学試験以来正式には一度も大学に足を踏み入れておらず、その不安や不満はいかばかりかとたいへん心配しています。

保護者の皆さんからも、小中高校では対面での授業を再開しているのに、なぜ大学だけが遠隔授業を続けるのか、というご質問(ご意見)をいただきました。理由はいくつかあります。大まかに言えば、大学は高校までと比べものにならないくらい多くのそして多様な学生が行き来する空間であり、1年生や2年生の皆さんが集う鶴甲第一キャンパスだけでも5000人が一堂に会することを考えると、対面授業を再開することは危険であると判断せざるを得ないのです。

実は、私自身、皆さんと同様の経験をしています。私が入学した50年ほど前の大学では、紛争の嵐が吹き荒れており、入学しても授業がほとんど行われず、大学も封鎖され、登校すらできない日が続いたのです。ですから、皆さんの無念な思い、焦燥感は、私には痛いほど理解できるのです。しかし、あえてお願いしたいのは、今のこの時期を、「我々は歴史を生きている」という覚悟で、自ら納得のいくように過ごしていただきたいということです。私も、ぽっかりとあいた時間を埋めるように、読みたいと思った本を手あたり次第読んだことを覚えています。しかし、それが、後年、様々な場面で非常に役立ちました。アイザック・ニュートンが、17世紀のロンドンでペストが流行した時、故郷に疎開した間に、微分積分学、分光学、そして万有引力の法則という三大業績を考えついたという話は、「ニュートンの創造的休暇」としてよく知られています。どうか今のこの時間を大切にし、自身の中に潜む様々な能力や可能性を自ら引き出す努力をしていただきたいと願っています。

さて、大学としても、現在のこの状況を前に、漫然と手をこまねいているわけにはいきません。不安定な感染状況がしばらくは続くことをふまえてもなお、「アフターコロナ」の時代を創造していくべき皆さんの勉学環境を今のまま留めておくことが、最善の策だとは考えておりません。大学とは、教員と学生が共に切磋琢磨しながら真理を発見する場であり、そこでは、人と人が直接向き合い、自由闊達に議論を展開していくことが不可欠だと捉えているからです。とりわけ、「未知なる危機」と対峙していくために学問の発展が強く求められているこの状況下では、様々な手段を講じつつ、学生の皆さんが互いに知的好奇心を刺激し合える場を設けていくことが、大学の務めだと認識しています。秋に向け、少しでも対面での授業を増やしていけるよう検討を重ねていきます。

今週、第2クォーターが終わります。この4ヶ月余の間、常に感染防止を心がけ、慣れない授業形態に必死についてきていただいた皆さんに、心から感謝いたします。そして、最後になりますが、長い夏休みを前に、あらためてお願いがあります。言うまでもなく、感染の防止に向けた方策を引き続きとっていただきたいということです。夏休みだからといって、少しでも気を緩めれば、皆さん自身が感染するリスクが高まるだけでなく、周囲の方々の生活にも大きな影響が出かねません。しかも、皆さんの夏休み中の行動如何によって、第3クォーター以降の授業の在り方を左右する可能性もあります。その点を十分に自覚し、どうか節度ある行動をとっていただくことを、学長として呼びかけます。

そして、このように困難な状況の下にあっても、皆さんの一人ひとりが、健康であり続け、溌剌として学問を切り拓いていくことを強く期待しています。




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