神戸大学

食道の通過障害を起こす「食道アカラシア」の新治療法 (POEM) を関西で初めて導入しました

2016年09月05日

神戸大学医学部附属病院消化器内科では、2015年4月に食道アカラシアに対する内視鏡治療 (POEM) を関西で初めて導入しました。これまで約70例の食道アカラシア患者さんに同手術を施行し、良好な治療成績を得られています。現在、関西地域でPOEMが受けられるのは神戸大学医学部附属病院のみです。2016年4月より健康保険が適用され、金銭的にもこの治療が受けやすくなりました。

図1

食道アカラシアとは

食道アカラシアという病気は、食道の運動機能障害の一種で、食道と胃の接合部が弛緩しない、または強く収縮していることにより、食事が食道から胃内へ通過せず、食道内に滞留する疾患です (図1)。食べ物のつかえ感、嘔吐、胸痛、体重減少などが症状として現れます。食道アカラシアは10万人に1人程度で発症し、希少疾患ではありますが、子供から大人まで罹患する可能性があります。食道アカラシアは食事が食べられないことで、患者さんのクオリティ・オブ・ライフは著しく低下しています。

低侵襲で治療効果の高い内視鏡治療=POEM=

これまでは、食道アカラシアの治療は内服薬や風船で膨らませる方法 (バルーン拡張術) が行われていましたが、効果が不十分であったり、繰り返し治療を行わないといけない患者さんが多く見られました。また、外科手術はバルーンや内服薬に比べ高い治療効果が見られますが、侵襲性や、一部のアカラシア患者では効果が低いことなどが問題でした。

2008年に昭和大学江東豊洲病院の井上晴洋教授が、食道アカラシアに対する内視鏡治療 (経口内視鏡的筋層切開術:Peroral endoscopic myotomy (POEM)) を開発されました (図2)。この治療は、体表を切ることなくすべて胃カメラを用いて治療をするため、低侵襲であり、理論的にはどのようなアカラシア患者さんでも効果が期待できることから、日本だけなく世界中に普及しました。しかしながら、疾患の希少性や治療の専門性などから、日本では限られた施設でしか行われていません。神戸大学医学部附属病院では、2名の医師が昭和大学江東豊洲病院で十分な研修を積み、2015年4月よりPOEMを導入しています。2016年8月現在で70例のPOEMを経験し、大きな合併症なく、患者さんに大変満足していただいています。

図2

保険適用も。患者さんへの周知が課題

POEMは関西地域では神戸大学医学部附属病院でしか行われておらず、全国的にも8施設でしか行われていません。現在診療をしている上での問題点は、食道アカラシアという病気が周知されていないことと、POEMが神戸大学医学部附属病院で受けられることが十分に知られていないことです。食道アカラシア患者さんは、医療機関を受診しても担当医師が食道アカラシアの診療経験がないため、逆流性食道炎もしくは心因的なものと誤って診断され治療されている場合が多く見られます。また、POEMという治療を医師や患者さんが知っていても、近くの医療機関では受けられないと思い、あきらめている場合も見られます。

2016年4月からは保険収載され、金銭的にもこの治療を受けやすい環境になっています。POEMは低侵襲で高い治療効果が得られることから、非常に患者さんの満足度が高い治療です。

関西地域で、食道アカラシアで困っている患者さんがおられましたら、是非神戸大学医学部附属病院消化器内科へお問い合わせください。

関連リンク

(医学部附属病院、広報課)