神戸大学

相馬芳枝 特別顧問が世界化学年の女性化学賞を受賞

2011年06月17日

国立大学法人神戸大学

~ 2011 IUPAC Distinguished Women in Chemistry/Chemical Engineering ~

国連は2008年、キュリー夫人のノーベル化学賞受賞から100年目に当たる2011年を「世界化学年」(International Year of Chemistry: IYC 2011) とすることを決めました。2011年はまた、国際純正・応用化学連合 (IUPAC) が設立されて100年目にも当たります。

世界化学年事務局はシンポジウム等の祝典諸行事と並んで、化学の研究や普及で優れた業績をあげた世界の女性化学者を顕彰する賞を設けました。日本化学会から推薦されていた神戸大学の相馬芳枝・特別顧問は、このほど、16カ国23人のうちの1人に選ばれました。日本からは、相馬特別顧問だけです。

相馬特別顧問は1965年、神戸大学理学部化学科を卒業。通産省大阪工業技術試験所 (現産業技術総合研究所) に入所し、銅カルボニル触媒を代表とする新しいカチオン型金属カルボニル触媒を発見しました。これを用いることにより、従来高温・高圧を必要としていたオレフィンのカルボニル化反応を常温・常圧で実施可能にし、第三級カルボン酸の省エネルギー的合成法を確立しました※1。また1990年代には、地球の温室効果防止のために二酸化炭素の再資源化の研究に従事しました※2

これらの研究が評価されて、猿橋賞 (1986)、有機合成化学協会賞 (1989)、科学技術庁長官賞 (1993)、触媒学会賞 (2001)、日本化学会学術賞 (2001) 等を受賞。2008年に日本化学会フェローに選ばれたほか、ゴードンカンファレンス、ノーベルシンポジウム等で講演を重ねています。

相馬特別顧問はまた、男女共同参画の推進にも貢献。2002年には日本化学会の男女共同参画推進委員会を立ち上げ、初代委員長を務めました。さらに、理工系の68学協会が加盟する男女共同参画学協会連絡会の発足・運営に尽力し、第3期委員長を務めました。5年前からは「女子中高生のための関西科学塾」の実行委員長等を務め、科学や科学研究の魅力を語ったり、理系を目指す女子中高生を励ましたりしています。

8月初め、プエルトリコで開かれるIUPAC (国際純正・応用化学連合) 総会で表彰される予定です。

日本化学会の発表を受け、本学は6月17日、構内で記者会見を開き、相馬特別顧問と武田廣理事・副学長 (研究担当) が出席しました。


  • ※1 銅、銀カルボニル触媒の発見と第三級カルボン酸の常温常圧合成法の研究

    第三級カルボン酸は、耐熱、耐酸性に優れ、船底塗料や自動車用塗料の原料となるものであるが、従来、200℃、100気圧という高温・高圧下で合成されていた。相馬芳枝氏は公害防止の研究、特に一酸化炭素の分析の過程で、今まで知られていない銅カルボニル触媒が形成されていることを見つけた。この新しい銅カルボニル触媒を用いて、第三級カルボン酸の合成を行うと、常温・常圧で、高純度のものが製造され、設備費、操業費共に安くなり、省エネルギー的な合成法を確立することができた。後に、銀カルボニル、金カルボニル、白金カルボニル、パラジウムカルボニル、コバルトカルボニル等、一連のカチオン型金属カルボニル触媒を発見し、カチオン型金属カルボニル触媒の化学体系を確立した。

  • ※2 地球の温室効果防止のための二酸化炭素再資源化の研究

    地球の温室効果をもたらすものには、二酸化炭素、フロン、メタン、亜酸化窒素等があるが、中でも二酸化炭素の寄与率は最も大きい。そこで、相馬芳枝氏は、二酸化炭素を還元して、再度、燃料に変換する方法を研究した。すなわち、酸化銅、酸化亜鉛、酸化鉄、ゼオライト等の組み合わせにより活性の高い触媒を調製し、この触媒の存在下で、二酸化炭素を水素と反応させて、メタノール、メタン、プロパンガス、ガソリン等の燃料に変換する方法を確立した。この方法を実用化すれば、化成品原料として重要な石炭、石油を節約することができる。


相馬 芳枝(そうま・よしえ)

略歴

  • 1942 (昭和17) 年生まれ
  • 1965年 神戸大学理学部化学科卒業
  • 同年 大阪工業技術試験所 (現産業技術総合研究所) 入所
  • 1977年 工学博士 (京都大学)
  • 1978年 カルフォルニア大学アーバインにて博士研究員
  • 1993年 フランスCNRS客員教授
  • 1997年 神戸大学教授併任
  • 日本化学会理事 (2001-2003)
  • 2007年 神戸大学特別顧問、現在に至る
  • 大阪府在住

主な業績

  • 銅、銀カルボニル触媒の発見と第三級カルボン酸の常温常圧合成法の研究
  • 地球の温室効果防止のための二酸化炭素再資源化の研究

関連リンク

(広報室)