神戸大学

[農学研究科] ツェンコヴァ教授がScientific Reportsにて “Spectral pattern of urinary water as a biomarker of estrus in the giant panda” を発表しました

2012年11月27日

所属・職・氏名
経農学研究科・教授・ツェンコヴァ ルミアナ
論文タイトル
“ Spectral pattern of urinary water as a biomarker of estrus in the giant panda ”

DOI: 10.1038/srep00856

著者
Kodzue Kinoshita, Mari Miyazaki, Hiroyuki Morita, Maria Vassileva, Chunxiang Tang, Desheng Li, Osamu Ishikawa, Hiroshi Kusunoki, Roumiana Tsenkova
学会誌等
Scientific Reports
概要

本研究は雌のジャイアントパンダの尿から近赤外分光法という分析手法を用いて発情期の診断を行ったものです。

日本国内では150を超える動物園や水族館が存在し、数多くの希少種が飼育されていますが、その繁殖数は年々減少しており、生息域外保全が成功しているとは言い難い状況です。その原因としてあげられるのは、限られた雌の交配適期を迅速かつ確実に把握することが困難であり、最適なタイミングで自然または人工繁殖を行えていないということです。

近赤外分光法は物質に近赤外線を照射することで得られるスペクトルの情報から様々な分析を行う技術であり、簡易、迅速かつ非破壊で計測を行えることがその利点として挙げられます。しかし発情ホルモンのような微量物質をこの方法を用いて計測することはこれまで困難であるとされてきました。

しかし、本研究室ではこの手法を発展させ、アクアフォトミクスという新たな分析手法を用いることでこの課題を克服することに成功しました。この新手法は観測対象となる物質を直接計測するのではなく、その物質を取り巻く水分子の水素結合の変化に着目し、近赤外分光法を用いて水の吸収スペクトルを計測するものです。物質に何らかの変化があった場合、様々な相互作用が働くことで水構造に変化が起こり、特定の水分子の吸収スペクトルに変化が現れます。本研究においても発情ホルモンであるエストロゲンの増減が水の吸収スペクトルの変化として現れ、アクアフォトミクスを用いることによって発情期の診断が可能であるという結果が得られました。ヒトを含めた動物のホルモンモニタリングに近赤外分光法を用いて行った研究は本研究が初めてのことで、今後の発展が非常に期待されています。

今後この診断技術が確立されることで、近赤外分光法及びアクアフォトミクスが生息域外保全における希少種の個体管理において新しいツールとなることが大いに期待されます。

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