『図説ラテンアメリカ経済』

『図説ラテンアメリカ経済』

この本は、グラフや表を効果的に用いながらラテンアメリカの経済を解説した入門書として編まれている。 ラテンアメリカ経済に特徴的な、貧富の格差、市場の閉鎖性、低い生産性、といった問題を生み出した初期条件は、モノカルチャーの大土地所有農業や、 無理な輸入代替工業化であった。そのような構造的問題を抱えながら、結局ラテンアメリカ経済は1980年代に「失われた10年」 をもたらす対外債務危機とハイパーインフレーションで一度は破綻したが、近年BRICsの一角を占めるブラジルを先頭に安定的な成長を回復した。 本書は、その改革のプロセスと結果を多面的に検討している。

まず、マクロ政策ではインフレ・ターゲット政策の導入が重要な役割を果たしている。 ミクロ面では、貿易・投資の自由化、民営化、金融システム改革など、資源配分の効率性の改善を目指して実施された様々な自由化政策である。 振り返ると、ここにいたる改革の道程はトライアル&エラーの連続であった。エラーは、間違った政策が実施された場合、 実施過程で負担と利益を分配が社会的に公正でなかったために政策改革が途中放棄に追い込まれた場合、 政策改革が遂行されても所得分配を悪化させてしまった場合など、さまざまなケースがあった。ラテンアメリカのようにもともと格差の大きな社会では、 社会的公正は政策評価に重要な概念である。また政治化の腐敗や公務員の汚職が頻繁に起こる場合には、 市場経済への信頼性を強化するための経済・社会制度の改革が不可欠であることも、本書は視野に入れている。

このような観点から、企業や農民の経済自由化への適応、政府の役割の再定義、 貧困・格差問題や環境制約とのせめぎあいの問題などについても詳細に検討している。 最後の章では、日本とラテンアメリカの貿易・経済協力関係を振り返りながら、 世界経済の中で戦略的な重要性を増すラテンアメリカに日本企業が進出を成功させるためには、いっそう現地化をすすめることと、 長期的な視野を持つことが重要であることも指摘している。

(経済経営研究所教授・濱口伸明)