『戦後日本学力調査資料集 第 I 期 全5巻』

『戦後日本学力調査資料集 第 I 期 全5巻』

教育界では、2007年以来、全国学力・学習状況調査の是非を巡って揺れている。少し前、学力低下論の闘わされた頃、学力低下を否定する人々の一部にも、肯定する人々の一部にも、印象的な根拠なき学力論を展開する人が多く見られた。いわゆる「Ο Οするべきである」「△△するべきではない」という、個人の思い込みに基づく、主観的な「べき」論である。

その時に、「子どもたちの教育に責任を持つ省庁が学力の上下動について、語るべき根拠となるデータを整えていないとはなにごとか」という議論が一部の論者たちから寄せられた。われわれ監修者を含む教育社会学もそうである。教育社会学はデータをもとにした実証的議論を学問的生命としているからである。もちろん、データ化できない、計ることのできない学力もある。しかし、だからといって計ることのできる学力を計らずに済ますというのでは、議論をすることすらできない。このような批判もあって、全国学力・学習状況調査は開始されたのである。しかし、われわれは1956年に開始され1966年に終わった、一連の全国学力調査、いわゆる「学テ」をその先駆として見つめ直す必要があるのではないだろうか。特定のイデオロギーにとらわれて、学力調査に対する教条的な是非を唱えるのは簡単だが、現在、少なくとも50歳に満たない人々の間では、かつて「学テ」が行われたという歴史的事実は承知していても、実際どのような調査がどのように行われたのか、詳しい内容についてはほとんど知らないという人々が大半なのではないだろうか。

今回、ここに復刻するのは、1950年代後半から1960年代に、当時の文部省が中心となって行った全国的な学力調査、および当時の国立教育研究所や日本教職員組合などが行った全国的な学力調査である。これらは稀覯書ともいうべき、歴史的文献の仲間入りをしつつある。今回これらを復刻し、現行の全国学力・学習状況調査と合わせて、学力テストの可否を、個人の思い込みに基づく、主観的な「べき」論からではなく、学術的、客観的な分析にもとづく立場から、より高いステージでの学力論争を展開するよすがになれば幸いである。

(大学教育推進機構/大学院国際協力研究科教授・山内乾史)