特許法入門

特許法は、知的財産法の中でも取っつきにくい法分野だと言われます。たしかに、著作権法とは違って、権利の発生や維持に特許庁での複雑な手続きが絡みます。また、商標法のように身近なブランドが対象となるわけでもありません。何より、理科系のバックグラウンドを持たない多くの学生・実務家にとっては、発明の技術内容を理解できないことへの恐れが先立つようです。しかし、手元のスマートフォン1つをとってみても、部品やプログラムなどに数多くの発明が利用されています。我々の生活を取り囲む無数の優れた技術と、その創出を促す特許法は、天然資源に乏しく労働人口も減少して行くこれからの日本社会において、その重要性を失うことはありません。

本書は、そうした特許法について基本的な情報を提供することを目的とした入門書です。私たち執筆者は、5年前に『著作権法入門』を刊行し、幸い多くの支持を得ることができました。このたび、その姉妹版として本書を世に送ります。前書と同じく、初学者に適したオーソドックスな順序で基本から説き起こし、法改正や裁判例はもちろん学説についても最新情報を随所に盛り込みました。法学部・法科大学院での教科書として、そして企業や司法の場で特許法実務に携わる際のハンディーなガイドとしても、本書が活用されることを願っています。

旅行ガイドブックがそうであるように、本書だけで学問や実務の最前線を歩けるわけではもちろんありません。しかし、私たち執筆者は、本書で特許法学の名所旧跡を余さず紹介し、旅先としての魅力を伝えようと努めました。そして、特許法の魅力を伝える手段として私たちが取った執筆方針は、結局、前書『著作権法入門』と同じものでした。すなわち、制度の趣旨・目的や概念の定義をできるだけ明確に記述すること、そして実例や図表をふんだんに用いてそれらの具体的イメージを提供することです。そこには、年齢的にはすでに学会の中堅に差し掛かった私たち3名の、これまでの経験と成果が盛り込まれています。入門書という体裁を取りながら、本書が私たちの研究・教育活動における中間報告でもあるという前書の性質は、本書にも受け継がれています。

目次

第1章 特許法への招待
第1節 はじめに
第2節 正当化根拠と特徴
第3節 全体の見取り図
第2章 特許発明
第1節 はじめに
第2節 発明
第3節 特許要件
第4節 新しい技術分野
第3章 発明者
第1節 発明者
第2節 発明者の権利
第3節 冒認出願
第4節 職務発明
第4章 特許取得手続
第1節 はじめに
第2節 出願
第3節 審査
第4節 出願の変動
第5節 査定と登録
第5章 異議・審判・再審・審決取消訴訟
第1節 異議
第2節 審判
第3節 再審
第4節 審決等取消訴訟
第6章 特許権
第1節 特許権の発生
第2節 特許権の効力
第3節 特許権の消滅
第7章 権利の活用
第1節 実施権
第2節 譲渡
第3節 担保権
第4節 信託
第5節 共有に係る権利の活用
第8章 権利侵害
第1節 特許権の侵害
第2節 抗弁
第3節 民事救済
第4節 刑事罰

(法学研究科・教授 島並良)