2021年04月06日

神戸大学にご入学され、2年生となられた皆さん、また、動画配信で、ご視聴いただいております保護者の皆様、改めまして神戸大学、ご入学おめでとうございます。神戸大学の全構成員を代表して、ご入学のお祝いを申し上げます。昨年来より、新型コロナウイルス感染が猛威を振い、社会生活が大きく変化し、多くの生命が脅かされ、また、失われているなか、皆さん方は、入学式もないまま大学生活の第一歩を踏み出され、戸惑いと不安の多い1年間を、過ごされたことかと思います。本来であれば、昨年の今頃に、新入生であった皆さん全員と保護者、来賓の方々が一堂に会し、入学式を行なっていたはずですが、新型コロナウイルスの世界的流行のため、中止せざるを得ませんでした。皆さんと同様、大学教職員も大変残念な思いでありました。

この度、令和2年度入学生の皆さんに対して、1年遅れで、また、このような学生の方々のみの形ではありますが、本日、入学式を挙行することができ、大変うれしく思っております。教職員一同、改めて歓迎の意を表します。

昨年の春、神戸大学には学部に2,604名、大学院博士課程の前期課程に1,185名、後期課程に313名、法科大学院と経営学専門職学位課程に146名、編入・転入学生として132名の皆さんが入学されました。

昨年の今頃は、この神戸の地においても、最初の緊急事態宣言が発令され、大学に入学してもキャンパスに、足を踏み入れることすらできない状況でした。大学として、皆さんの学びに支障が出ないよう、最大限、最善の方策を考え、オンラインやオンデマンド型講義の実施、経済的に困窮している学生への基金の給付、保健管理センターによる電話やオンラインでのメンタルヘルスケア等、コロナ禍で制限された状況の中、様々な対策を講じて参りました。

一方で、学生の皆さん方が、大学からの指示に従って、個々に節度ある行動を取って学生生活を、過ごしてきてくれたことにより、神戸大学生、ならびに神戸大学に関わるクラスターの発生は、幸いにもこれまでは起こっておりません。この春からは、専門課程が始まるにあたり、大学としても新型コロナウイルス感染の状況を見ながら、本来の学生生活を、できる限り取り戻せるように対応していきたいと考えています。

さて、入学してすでに1年が経過し、神戸の街にも慣れ、神戸大学への理解も少しずつ深まってきているかと思います。

神戸大学は、明治35年(1902年)に創立され、令和4年(2022年)には、創立120周年を迎える歴史と伝統のある、素晴らしい総合研究大学です。開学以来、「学理と実際の調和」という理念を掲げ、普遍的価値を有する「知」を創造するとともに、人間性豊かな指導的人材を養成することを、使命としてきました。

これまで、本学における、多くの卒業生や教員が、教育、研究、社会貢献などの分野で、数多くの輝かしい成果を、創出されるとともに、世界中で、次世代の優秀な研究者や教育者を、数多く育成されてきていることは、本学にとって大きな誇りであります。平成24年には、本学医学部ご卒業の、山中伸弥 京都大学教授が、iPS細胞の発見という、世界的に輝かしい業績を挙げられ、ノーベル生理学・医学賞を受賞されたことは、ご存じのことかと存じます。また、本学は、企業の要職にも多くの人材を輩出し、それぞれが多岐にわたる分野で活躍され、社会に多大なる貢献をされてきておられます。

この歴史と伝統のある神戸大学は、今日、文系と理系のバランスの取れた、文理融合卓越研究大学へと、発展して参りましたが、今後は、さらに、文理の枠を超えた異分野共創型の、先端的卓越研究教育グローバル拠点として、新しい価値を創造し、応用・具現化する『知』を創る、有能な『人材』を創る、秀でた『環境』を創るの「3創」を実現し、世界トップクラスの、研究総合大学を目指して、社会に貢献して参ります。

本学は、10の学部と15の大学院、法学と経営学の二つの専門職大学院、経済経営研究所、先端融合研究環、医学部附属病院、さらに多くの教育研究に携わるセンター群と、複数の図書館で、構成されています。

学術領域としては、人文・人間科学系、社会科学系、自然科学系、および生命・医学系の4つに分かれています。そして、キャンパスは、六甲台地区に、人文・人間科学系、社会科学系および自然科学系の各部局、楠地区に医学研究科、医学部および附属病院、名谷地区に保健学研究科、そして深江地区には、海事科学部と本年度からの海洋政策科学部と海事科学研究科があります。それぞれの領域において優れた特色と強みを持ち、さらに領域の枠を超えて密な連携を構築して、新規性の高い独創的、学際的な教育・研究が行われており、国際的にも高い評価を得ています。また、ポートアイランド地区にも、「統合研究拠点」があり、西隣のスーパーコンピュータ「富岳」とも連携して、計算科学等の最先端の研究を推進しています。さらに、平成29年4月に開設された、医学部附属「国際がん医療・研究センター」では、「神戸医療産業都市」と連携して、神戸未来医療構想を掲げ、様々な先進的医療にかかわる研究・開発を進めてきており、昨年12月には、神戸大学と企業との連携により研究開発された、国産初の、手術支援ロボット「hinotori」を用いた世界初の手術が、実施されました。

神戸は、古くから世界に開かれた港町であり、開港後150年以上の歴史があり、この国際色豊かな神戸に位置する本学は、創立当初から、ボーダーレスな社会に対応できるよう研究教育において、国際力の強化に取り組むとともに、多様な学生が学びやすい、人に優しく開かれた環境、すなわち、ダイバーシティを推進する、グローバル&インクルーシブキャンパスを目指しています。さらに、180を超える、海外大学等との連携協定を結び、それらの大学・研究機関との、共同研究・教育を推進し、国際的な交流を深めてきています。また、皆さんが、国際的な交流を積極的に図れるよう、欧米、アジア、およびオセアニアに、海外オフィスを設立するとともに、海外同窓会などの海外交流ネットワークを、13カ国にわたって構築しています。

今日、世界に目を向ければ、昨年来の、新型コロナウイルス感染のような地球規模の問題が、数多く起こっています。地震、局地的豪雨などの災害、地球温暖化に関わる気候問題、脱炭素社会を目指した環境・エネルギー問題、発展途上国における貧困、飢餓、食料問題、人種やジェンダーなどの人権問題、核兵器に関わる平和問題、混沌とする国際政治問題、超高齢社会における健康、福祉問題など、我々が取り組むべき課題は、枚挙にいとまがなく、これらはすべて、世界全体が協調し、取り組んでいくべき国際的課題であります。神戸大学としても、これらの世界的規模の課題解決に向けた先端的国際共同研究・教育に、皆さんとともに積極的に取り組んで参りたいと思っています。

また、世界において、サイバー空間での情報共有や、デジタル化が進んでいくなかで、今や、すべての皆さんにとってICTリテラシーの涵養は、必須です。本学においては、データサイエンス、計算社会科学に関する教育、研究基盤を強化し、AI、ビッグデータ、IoT、情報セキュリティ等の、技術革新に向けた先端研究を推進して、その分野における有能な人材を、育成してきています。

昨年度は、教える側も学ぶ側も、様々な制限を受け、教育研究において新たなチャレンジに向き合わされた一年でした。コロナ感染危機を契機に、社会環境や働き方にも変化がみられ、デジタル化が、急速に進もうとしています。働く環境は、テレワーク、オンライン会議が浸透し、休暇をリゾートで取りながら働くワーケーションをはじめとした多様で柔軟な働き方が、広まってきています。大学の研究教育体制においても、オンライン化が進み、現状を考えれば、コロナ感染以前とまったく同じ体制に戻るようなことは、まず、ないでしょう。今後は、日本でも対面、オンライン、オンデマンド授業を組み合わせるハイブリッド教育により、今より一層密度の高い、柔軟なデジタル教育に向けての取り組みが、広まってくるものと思います。神戸大学においても、オンライン教育の価値と、対面でのコミュニティ形成の教育における意義をしっかり考えながら、時空間に制約のない、時空を超える大学を目指して、大学教育におけるデジタル改革に、取り組んで参ります。まだまだ、コロナ感染がどのように収束していくかは、いまだ不透明でありますが、皆さんの就学環境が、安全に、かつ快適なものになるよう、そして大学としても最大限、教育研究環境を整え、教育の質を保証し、皆さんとともにこの難局を乗り越え頑張って参りたいと思います。

最後に、神戸大学生の皆さんに、私から、いくつかのメッセージを贈ります。

これからの人生において、偶然、あるいは突然、どのように社会が変化していくかは、誰も予想できません。新しい技術が、世の中を変えていく一方で、世の中が変わることによって新しい知見が得られ、新技術が普及する場合もあります。新型コロナ感染などで揺れ動いている今、世の中は予測困難なVUCAの時代、すなわち、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の時代と、言われています。これからの学生生活において、社会や環境の、様々な変化を柔軟に、かつ鋭く見極める洞察力と、臨機応変に対応できる適応力を、しっかりと養ってください。そして、自己の専門分野を究めるとともに、多岐にわたる先端研究に触れる機会を持ち、広い視野で物事を俯瞰して、高いレベルで価値を、創造、発想できる力を養ってください。日頃のふとした好奇心、インスピレーションを大切にして、探求、思考、創造し、やりたいと思ったことを、実行に移していく行動力を、鍛えてください。チャンスがあれば、それがどんなに小さなものであっても、逃さずチャレンジしてみてください。

また、思い切って多様な環境に身を置き、幅広い視野で、様々な考え方や価値観を学んでください。神戸大学の、多様性、国際性、柔軟性、そして卓越性を備えたキャンパスにおいて、様々な価値観をもった仲間と交流し、海外にも目を向け、国際的に通用する幅広い知識を養い、多様な感性を思う存分磨いてください。

昨年来より、社会生活を大きく変えた新型コロナウイルスが、ワクチン接種により徐々に収束し、通常の日常生活に早く戻ってくることを、私も皆さん同様、切に願っているところです。いつかその日が来れば、是非、キャンパスでこそ得られる人との偶然の出会い、つながりを大切にして、充実した学生生活を、過ごしてください。このコロナ禍のなかで、多くの人が、人と人とのつながりが、人間にとっていかに大事であるかを、身に染みて感じていることと思います。人は、様々な人との偶然の出会いの中で、成長していけるものであると思っています。人とのコミュニケーション能力をしっかりと養い、信頼し、信頼される人間関係を構築し、学生生活で出会った素晴らしい良き友との交流を、大切にして頂きたいと思います。

 

最後に、かの有名なウォルトディズニーの、言葉をご紹介いたします。夢をかなえる秘訣は、4つの「C」。それは「Curiosity(好奇心)」「Confidence(自信)」「Courage(勇気)」、そして「Constancy」(継続)である。中でも一番大切なのは、「Confidence(自信)」、自分を信じるということだ。

 

神戸大学生の皆さん。

神戸大学生としての、自信と誇りをもって、堅忍不抜の志と大きな夢を抱き、刻々と変化していく、これからのデジタル社会を多様な形で支え、新しい価値創造を先導して、社会に貢献し、日本のみならず、世界の未来を切り拓く、人間性豊かな、グローバル人材になっていただきたいと思います。

私は、この春から学長を拝命し、これから、皆さんと、歩みをともにすることになります。

我々、すべての教職員も、みなさんの可能性を、最大限に伸ばすことができるよう教育、研究の質を高め、皆さんひとりひとりに寄り添って、ともに頑張っていきたいと思います。

皆さんの未来は、希望に満ち溢れています。この恵まれた教育・研究環境を備えた、素晴らしい神戸大学で、健康に留意し、有意義な、そして、悔いのない学生生活を、送られることを祈念して、私のお祝いの式辞とさせていただきます。

 

令和3年4月6日 神戸大学長 藤澤 正人