新入生の皆さん、神戸大学へようこそ、そして、ご入学、誠におめでとうございます。また、保護者の皆様、ならびに、ご家族の皆様にも、心よりお祝い申し上げます。神戸大学長として、全構成員とともに、皆様をお迎えすることができ、大変嬉しく思っております。この3年以上にわたる新型コロナウイルス感染の流行により、通常とは違う環境で、苦難と緊張感を伴いながら受験勉強に励まれ、厳しい入学試験を乗り越えて、神戸大学への入学の日を、迎えられたことに対し、改めて心より敬意を表します。
新型コロナウイルスの感染の第8波は、少しずつ終息の兆しを見せ、国の感染対策もこの5月を機に大きく変わろうとしています。大学として今回の入学式は、ほぼコロナ前の形式で行うこととし、マスク着用も個人の判断に任せることにしました。ようやく皆さんの輝かしい希望に満ち溢れた笑顔を拝見しながら、入学式を挙行し、ご父兄の方々と共にお祝いできることを、大変うれしく思っている次第です。
この春、神戸大学には、学部に2,588名、大学院博士課程の前期課程に1,171名、後期課程に306名、法科大学院と経営学専門職学位課程に140名、編入・転入学生として124名、海外からも327名の皆さんが、入学されました。
また、この4月に医学と工学の連携により、新たに設置された医学研究科医療創成工学専攻には、博士課程前期課程15名、後期課程12名の方々を迎えることとなりました。
さて、この度、皆さんが入学された神戸大学は、自然溢れる六甲の山並みと光り輝く瀬戸内の海に囲まれた異国情緒豊かな港町神戸に位置し、1902年に創立した歴史と伝統のある、素晴らしい総合研究大学です。開学以来、「学理と実際の調和」という理念を掲げ、「真摯・自由・協同」の精神のもと、普遍的価値を有する「知」を創造するとともに、人間性豊かな指導的人材を養成することを、使命としてきました。
これまでに、本学における、多くの卒業生や教員が、教育、研究、社会貢献などの分野で活躍され、ノーベル生理学医学賞をはじめ、数多くの輝かしい業績を残してこられています。また、世界に貢献する次世代の優秀な研究者や教育者が、数多く育成されてきていることは、本学にとって大きな誇りであります。さらに、企業、行政、医療などにおける、要職にも多くの人材を輩出し、それぞれが多岐にわたる分野で活躍され、社会に多大なる貢献をされてきておられます。
本日も、神戸大学理学部のご卒業で、元 気象庁長官でいらっしゃいます橋田 俊彦(はしだ としひこ)様に『人と地球と 共に物語を紡ごう』という題目で、ご講演いただけることになっておりますので、楽しみにしてお待ちください。
今日、皆さんが入学された神戸大学は、10の学部と15の大学院、法学と経営学の二つの専門職大学院、経済経営研究所、医学部附属病院、さらに多くの教育研究に関わるセンター群と、複数の図書館で、構成されています。
キャンパスは、4つに分かれ、六甲台地区に、人文・人間科学系、社会科学系、および自然科学系の各部局、楠地区に医学研究科、医学部、および附属病院、名谷地区に保健学研究科、そして深江地区には、日本でも数少ない海を科学する海洋政策科学部、海事科学研究科があります。学術領域として、人文・人間科学系、社会科学系、自然科学系、および生命・医学系の4つがあり、それぞれの領域が優れた特色と強みを持ち、お互いに密な連携をして、新規性の高い独創的、学際的な教育・研究を行ってきており、国際的にも高い評価を得ています。また、皆さんが、今おられるポートアイランドの神戸医療産業都市地区にも、近年、統合研究拠点、神戸バイオテクノロジー研究・人材育成センター、国際がん医療・研究センター、バイオリソースセンター、統合型医療機器研究開発・創出拠点、神戸大学発のベンチャー企業など、大学の研究開発拠点が集積し、『デジタルバイオ&ライフサイエンス・リサーチパーク』として、神戸大学の新しい科学技術革新基盤を形成してきています。世界に誇れる最先端技術の研究・開発とともに、新しい価値を創造し、産官学連携により社会実装に取り組み、未来を拓く神戸大学発のスタートアップの育成にも努めてきています。また、兵庫県、神戸市をはじめとする地元自治体、スーパーコンピュータ「富岳」、Spring8、ニュースバルなどの先端研究機関、さらには、国内外の多くの大学、医療機関との連携を密にして俯瞰的、かつ長期的な視野に立って研究開発を推進し、デジタル未来社会を先導し、人類の豊かで幸せなくらしの向上に貢献してきています。
4月からの大学における皆さんへの授業は、コロナ前とほぼ変わらない形式で行えるようになっていますが、今回のコロナ感染を契機に、大学教育においてデジタル化が急速に進んできました。多くが、Z世代である皆さんのニーズに合うよう質の高い、柔軟なデジタル教育に向けての取り組みを進め、メタバースも視野に入れ時空を超える理想的なハイブリッドキャンパスを目指して、斬新で魅力的な学習・実習機会を提供できるよう取り組んでいきたいと思っています。皆さんが、学びたいときに、学びたいことを、学びたい人のもとで学ぶことができるよう環境を整えてまいります。さらに、大学として皆さんが、海外との交流により多様な価値観を身につけ、世界規模の課題に取り組めるよう海外派遣を推奨するとともに、大学においてグローバルな教育研究環境を整え、国際教育の質を保証して参りたいと思います。支障をきたしていた海外留学・派遣や留学生の受け入れも今年度からさらに回復するものと期待しており、キャンパスにもコロナ前以上のグローバルな活気が戻ってくるものと期待しています。
また、昨今、あらゆる分野で情報科学・分析科学に基づく知識やデジタル技術を活かし、様々な領域を繋いで新しい価値を創造し、未知の世界をデザインして、課題解決に挑戦する能力を養うことが、非常に重要になってきています。しかしながら、日本は、2022年のデジタル競争力ランキングでは、残念ながら、世界63か国・地域中29位で過去最低順位を更新しています。日本におけるデジタル人材の育成は、喫緊課題であり、神戸大学でも、基礎教養としてのデジタル・データサイエンス・AI教育を重視するとともに、文理の枠を超え、科学、技術、人文・社会科学のネットワークを形成して、より一層、総合的、複合的な思考力、創造力を養うための異分野共創型教育を推進し、それぞれの専門領域において多様性のある優秀な人材の育成に取り組んで参ります。大学教育の質は、未来を映す鏡であり、大学教育改革を継続的に推進し、次世代社会の期待に応えられるよう、教育の質向上に取り組んで参ります。
皆さんは、これから大学において、自らが選んだ自己の専門分野の学びを深め、自己研鑽に励まれることと思いますが、決して自分の領域だけにこだわらず、多岐にわたる先端研究や教育に触れる機会を持ち、広い視野と幅広い知識を身につけ、物事を俯瞰して自分の研究を深め、傑出した新しい技術や価値を創造し、社会に貢献できる人材に成長して頂きたいと思います。
そのためには、自ら切磋琢磨し、時代の潮目を読みながら、未来を思考する鋭い感性、判断力と思考力、そして自主的な実行力を高めてください。そして、これからの学生生活において、できる限り、様々な環境に身を置き、活動し、出会いを大切にして、多様な人とのコミュニケーション能力をしっかりと養い、自分とは異なる価値観を持った、様々な人の考えや行動を受け入れ、自らの道を切り拓いていってほしいと思います。その過程において、自分ひとりの力で対処できない難題に直面したとしても、また、逆境に置かれたとしても、出会いで得た人たちの力や知恵をかりて、解決していくことは、皆さんに人間的な成長を与えてくれると思います。苦境・逆境という状況をネガティブなものと、単純に判断するのではなく、自分にとって「大切な機会」であると考え、自分の人生にいかしていってください。
昨年末に、神戸大学の在校生、教職員、卒業生、保護者の方々などのステークホルダーが、それぞれの領域の垣根を越えて交流し結束を高め、One Kobe Familyとして一丸となり、神戸大学や皆さんの成長を相互に支援していく全学の同窓会組織として、神戸大学校友会を設立しました。今日から皆さんは、校友会の一員です。神戸大学の発展には、今日、入学された皆さんを含めこれまでの多くの卒業生の方々が、愛校心と誇りをもって結束することが大きな力となることを、どうか心にとめておいてください。
さあ、これから、皆さんにとって大きな魅力的な冒険が始まります。
大学が位置する神戸の街も、都心・三宮再整備が始まっており、2030年には神戸空港も国際化され、国際都市神戸、大学都市神戸として、発展してきています。
この恵まれた立地を背景に素晴らしい教育・研究環境を備えた神戸大学で、大きな夢をもって後悔のない学生生活を、過ごしてください。夢を見れば見るほど、人生は輝きます。そして、大きな志は、きっと人間を偉大にします。
神戸大学は、愛情と優しさをもって君に寄り添い、君とともに未来を創ります。
どうか、これからの学生生活において健康に留意され、ひとりひとりが輝く素晴らしい学生生活となることを、そして、一日も早いコロナ感染の収息を祈念し、私のお祝いの式辞とさせていただきます。
令和5年4月4日
神戸大学長 藤澤 正人