2024年01月05日
皆様、明けましておめでとうございます。
皆様方におかれましては穏やかな良き新年をお迎えになられたことと存じます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
世界においては、ウクライナやパレスチナでの戦争が続く中、日本においては新年早々、能登半島地震、航空機衝突事故が相次いで起こり、自然の過酷さ、防災安全対策の重要性を再認識させられる年初めとなりました。亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された方々に対し心からお見舞い申し上げます。
さて、今年は、令和4年4月から始まった第4期中期目標・中期計画期間の3年目となります。私にとりましては、学長に就任して早4年目の年となりました。
最初に、昨年末に通達のあった令和6年度の国からの予算配分のことをお話しします。令和6年度、国の運営費交付金は、総額10,784億円で総額としては昨年と同額でしたが、本学の運営費交付金の基幹経費分は、例年通り、ミッション実現加速化係数分、1.6%減で約2.5億円が削減されています。これ以外は、競争的配分となっておりミッション実現戦略分として昨年と同額4.8億円の配分がありましたが、共通指標に基づいた本学への配分額は、残念ながら令和4年度の1/4、5年度の1/2以下の2700万円となり、年々大学間競争が厳しくなってきています。この配分額は、国立大学法人グループ⑤(主として、卓越した成果を創出している海外大学と伍して、全学的に卓越した教育研究、社会実装を推進する取組を中核とする国立大学)に属する神戸大学、北大、東京農工大、千葉大、岡山大、広島大、金沢大からなる7大学が評価によって順位付けされ、+25%から-25%の割合で配分されています。したがって、皆さんの取り組み次第で部局への還元額は毎年変わってきます。今年は、博士課程の就職・進学状況や研究業績における低迷が配分額に影響しており、博士課程のキャリアパス、科研費等の獲得、論文業績など研究面においてより一層の努力が求められています。教育研究組織改革分では、昨年度からのDX推進拠点、未来医工学研究開発センター、国際膜研究拠点、先端バイオ工学研究センター、先端脱炭素技術産学連携拠点の5事業の継続に加えて、新たに2件、医工融合型教育、小中高大連携博士人材育成に向けた未来開拓人材育成システム構築事業が採択されました。令和5年度の補正予算では、光熱費等教育研究基盤維持費、医学部動物実験施設設備整備費、GIGAスクール構想に関する3件の予算が措置されました。法人運営活性化支援分の予算は、ほぼ前年と同額が措置されていますが、それぞれの部局の指標として設定している第4期KPIの達成度が第5期予算に大きく影響しますので、大学の継続的発展のため、KPIの達成にご協力をよろしくお願いします。
ご存じの通り、国の第6期科学技術イノベーション・基本計画においては、科学技術・イノベーション政策が、科学技術の振興のみならず、社会的価値を⽣み出す⼈⽂・社会科学の「知」と⾃然科学の「知」の融合による「総合知」により、⼈間や社会の総合的理解と課題解決に資する政策が打ち出されています。したがって、神戸大学としても様々な情報、時代の流れをしっかり掴み、従来の研究教育の枠組みを超えて、人文・人間科学系、社会科学系と自然科学系、生命・医学系の共創・協働により、社会から求められる、社会に役立つ総合知の創出が重要です。時代の流れに即した教育研究体制の改革を進めるとともに、学内の潜在的な卓越したすべての領域の研究教育資源を効率的に活用し、地域社会を含めた異分野で、共に創る、有機的な共創研究教育基盤の強化により、教職員が協働して、新規性、独創性のある、そして傑出した研究教育事業を創出・推進し、知の創造に努め社会に貢献するとともに継続的な強い経営基盤を作っていかねばなりません。
研究においては、学長就任当初から目指していた異分野共創卓越研究拠点としてのデジタルバイオ・ライフサイエンスリサーチパーク(DBLR)を形成し、バイオものづくり、膜工学、医工学、健康長寿、社会システムイノベーション研究拠点を中心とした大学成長のエンジンを確立するとともに、それを基盤として国立大学改革・研究基盤強化推進補助金による学内の経営改革促進事業(文部科学省)が令和4年度から着実に進んできています。また、昨年、これを基に神戸大学として申請した文部科学省『地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)』(総額55億、5年間)が全国12大学、国立大学9校のうちの1校として、採択されました。本事業では、バイオものづくり研究と卓越人材の育成を強化して、デジタルバイオ・ライフサイエンスリサーチパークにおける先端研究の拡充につなげ、全学に横展開し、10年後には大学として総事業費1000億(令和5年、879億)を超えるグローバル・イノベーションキャンパスを目指しています。すでに、バイオものづくり共創研究拠点の施設が神戸大学統合研究拠点の北側に建設中です。また、昨年、膜工学領域で経済産業省『地域の中核大学等のインキュベーション・産学融合拠点整備事業』補助金と産学連携により、産官学連携本部棟の北側にバイオメディカルメンブレン研究棟の建設、医工学領域では内閣府『地方大学・地域産業創生交付金事業』からの補助金で国際がん医療研究センターに隣接したメドテックイノベーションセンターの建設が始まっています。これら研究施設を充実させるとともに国内外から優秀な人材を結集させ、国際的な先端研究のさらなる活性化とイノベーション創出を進め、持続的なエコシステムを築きます。
また、次世代の優秀な若手の研究アイデアを社会に活かしていくために若手研究者や学生等の起業家精神を養うことも重要であり、アントレプレナーシップセンターをさらに充実させ、若い人たちのチャレンジを応援します。大学の資金を活用したGAPファンドや昨年、設立した民間資金100%の神戸大学ファンド(KUC)を充実させ、知を価値化する大学発スタートアップの創出を加速化、支援いたします。また、産官学連携を推進し、基盤的な研究機能の拡充や世界トップレベル研究拠点の形成を支援していくために、地元神戸市、兵庫県との太いパイプラインのさらなる強化を進めます。昨年、神戸市内の大学で大学都市神戸産官学プラットフォームを設立しており、これを活用し地元企業、自治体、他大学、そして神戸医療産業都市との連携をさらに強めて参ります。
教育活動、人材育成においては、大学としてこれから取り組むべき課題は山積みですが、まずは、低迷した国際化の強化です。教育未来創造会議「未来を創造する若者の留学促進イニシアティブ<J-MIRAI>」における提言では、2033年までに派遣50万(高校生を除くと38万人)、受け入れ40万人、外国人留学生の国内就職率60%を目標にしています。神戸大学としても国際活動の加速に向けて新たな助成金の獲得、基金の活用、海外同窓会との連携の強化などを念頭に、学生の海外派遣支援、留学生の受け入れ促進、さらにはグローバルなキャリアパスの充実に努めて参りたいと思います。コロナで低迷していた海外からの留学生は、コロナ前の水準にほぼ回復してきていますが、海外派遣学生の数は、まだまだです。留学を断念する理由の第一は、経済的理由であると思います。大学の基金を含め様々な支援を活用し学生にも国際的な視野に立って活躍してもらうためにできるだけ多くのひとに海外留学を経験してもらいたいと思っています。コロナ感染の影響がなくなってきた今年は、国際化に向けて全力で取り組んで参ります。
部局での教育環境については、ほぼ対面授業となりましたが、4つのキャンパスとポートアイランドの拠点からなる神戸大学において、オンライン環境を引き続き充実させ、学生にとって利便性の良い、時空間を超えた、質の高い教育体制の整備を進めます。
学部教育カリキュラムにおいては、令和7年4月には共通教育、語学教育改革が行われる予定ですが、各部局として最終的に育成すべき専門性の高い人材像を念頭に共通教育、語学教育のあり方を議論するとともに、教養部解体時に合意した全学的な協力の下で共通教育を行うという方針のもとで改革に取り組んでもらいたいと思います。
また、研究大学として博士人材の減少は、大きな課題であり、神戸大学としても優秀な博士人材育成に向けて経済的支援、キャリア支援、カリキュラム改革、入試改革、大学院改革等、様々な取り組みが必要です。経済的支援として大学フェローシップ制度、次世代研究者挑戦的研究プログラムがすでに施行されていますが、令和6年度からの新たな枠組みである大学の国際化によるソーシャルインパクト創出支援事業の補助金に申請しており、より多くの博士学生の方が支援を受けることができるよう頑張りたいと思います。また、修士課程から博士課程に進学する学生への修士からの経済的支援や早期学位取得制度などにも取り組み、博士課程への進学を促し優秀な博士人材の育成を強化して参ります。さらに、みらい開拓人材育成センターを中心に高大接続も含めた、神戸大学として特色のある一貫した卓越教育プログラムによる研究者育成制度、博士人材のキャリアパスについての優れたロールモデルの構築を考えていきます。また、大学としてカリキュラム改革に取り組み、博士課程教育においても幅広い学びができる多様性のある異分野共創教育を充実させ、様々な局面において柔軟性のある専門的な研究能力、課題解決能力を涵養して参ります。さらに、時代を見据え社会に求められる優秀な実践的人材を育成し、社会に貢献できる研究大学へと進化するために大学連携、大学院改革、新教育領域の創出は必須と考えており、積極的に改革を進めて参ります。昨年4月から始まった医学工学領域の共創研究教育のための医療創成工学専攻、さらに令和7年度に向け高度情報専門人材育成に向けたシステム情報学研究科の改革が進んでいます。昨年、システム情報学研究科として『大学・高専機能強化支援事業』補助金(文部科学省)においてハイレベル枠、全国7校のうちの1校として採択され、今後、学部設置も含めシステム情報学研究科の機能強化を進めるとともに大学として支援して参ります。また、令和6年度からは、経営学研究科においても人文・社会科学系ネットワーク型大学院構築事業(文部科学省)が開始されますが、人文・社会科学系としてのさらなる新しい改革を期待しています。今後も様々な部局で、学生に求められる、社会に評価される大学院改革を推進し、大学として支援して参ります。
さらに、博士課程修了後において次世代を支える優秀な若手研究者、若手教員が、研究に専念できるような環境を引き続き整えていきたいと思います。現在、開始している若手の研究者の雇用支援制度や優秀な若手教員が輝く卓越教員制度を継続して参ります。とくに、ダイバーシティ推進の観点から女性の教員雇用や昇進支援を加速し、全学における若手や女性の研究者の活躍を応援したいと思います。また、リカレント教育事業もリカレント教育推進室を中心に充実してきており、昨年から成長分野における即戦力人材輩出に向けたリカレント教育推進事業(文部科学省)により数理・データサイエンスセンター、保健学研究科、科学技術イノベーション研究科において、さらに大学の助成金でも様々な取り組みが行われてきており、今後も大学の重要な社会貢献事業として支援し推進して参ります。
大学の運営支援体制においては、今後も大学のビジョンの明確化と実現に向けた一貫性ある執行部ガバナンス体制を強化するとともに経営戦略に役立つIR体制の確立、教育・研究・業務におけるDXの推進、教育研究経営支援人材の育成、広報活動に全力で取り組みます。IR体制については、大学運営の方針決定に重要な情報分析機能が脆弱であり体系化されておらず、整備・強化が必要です。DX改革については、これまで残念ながら、DX・情報統括本部において目に見える十分な改革が進んできていませんが、これからの大学にはDX改革は重要であり、より一層取り組みを進めて参りたいと思います。また、教育・研究・産官学連携を支える優秀な支援人材の確保は重要であり、UEA、URAなど、専門的人材の育成体制とキャリアアップの整備、拡充に取り組みます。また、政策研究支援部や事務組織においては、部署連携の強化、中長期の視点に基づいた人と環境づくりを第一に考え、個々の能力を最大限に引き出せる人事戦略を進めます。経営体制については、もはや教員や事務組織のみから経営陣を育成し、構成するだけは今の国立大学経営を効率的に行うことは難しくなっています。先ほどの経営改革促進事業(文部科学省)の助成金も活用し外部の様々な分野から多様な卓越専門人材を招聘し、競争的環境の中で活力に富み個性豊かな魅力ある大学をつくり、戦略的、長期的に財の循環を拡大する仕組みを強化し、安定した経営を確立して自律的に発展し、社会を変革し貢献できる大学にならないといけません。頑張る人の専門性とモチベーションを高める組織にしたいと思います。広報においては、大学のブランディングに向けHPの刷新が進んでいますが、より強力な広報戦略を立案し実行して参ります。
さらに、これからの大学運営においては、自由な資金を増やすためにファンドレイジングの強化とともに資金運用のポートフォリオのさらなる多様化が重要です。すでに、資金の委託運用を開始しており、信用格付け(R&I AA+、JCR AAA:東大と同じ)も昨年、再認定されました。今後、大学独自の大型の教育・研究事業を推進していくためには、大学債の発行も視野に入れ、大学の競争力強化に取り組んで参ります。
また、労働環境に関して、令和6年4月から医師の働き方改革が施行されます。附属病院における先端医療・研究の推進とともに医師の労働環境の改善に注力いたします。
最後に、神戸大学は知と人を創る異分野共創研究教育グローバル拠点を目指しています。大学への国からの非競争的な予算配分は、今後も増えることはありません。厳しい状況になってきている運営交付金に加えて競争的な資金である科学研究費、共同研究費、助成金、寄附金などの外部資金をしっかりと獲得していくことが、これからの大学運営において継続的、かつ重要な課題であることは間違いありません。自らが研究費を外部から獲得するという強い気持ちをもって教育研究を活性化していくことが大事です。外部資金の獲得は、大学独自の新事業の創出や事業の継続には必須であり、大学における財の循環の源泉です。構成員、それぞれが大学改革を意識し、一丸になって共創と協働を進め、立ち止まることなく変革し続けるという精神が大学の発展には大切です。神戸大学の外部資金は、皆さんのご尽力により現在、順調に増加しており、令和2年135億、3年 150億、4年160億、5年は10月末で170億まで伸びてきており、200億も十分視野に入ってきています。すでに、令和6年度の国の補正予算、概算要求予算も決まり、全学、部局一丸となって汗を流して予算確保に取り組んでいきたいと思います。
大学運営・経営は、年々厳しくなっていますが、KU VISION 2030を皆さんと共有し、VISION達成に向けて学問の府として自由な教育研究環境をしっかり確保するとともに基礎・応用科学研究における様々な新しい成長基盤を大学の潜在的な力を結集して創出し、持続可能で地域に根ざし、世界に誇れる研究大学として発展して参りましょう。
今年、一年平和な年でありますように、そして皆様方のご支援・ご協力により神戸大学がさらに発展することを願って気持ち新たに頑張って参りたいと思います。
令和6年1月5日
神戸大学長 藤澤 正人