この度、神戸大学大学院 国際協力研究科 極域協力研究センター(PCRC)は「北極を知るための国際法 ~北極域を持続的に利用するための国際ルールとは?~」のホームページを公開しました。このページは北極域にアクセスする日本のステークホールダーに向けて、北極域に適用される国際法について解説し、国際的なルールに沿った行動指針を提示することを目的として作成されました。
ポイント
- このホームページは、北極域における自然環境や先住民族の暮らしを守りながら、資源を開発したり北極海航路を利用したりするための国際法を、7つの項目(国際法・人々・LNG・航路・漁業・汚染・将来)に分けて解説しています。
- 北極域にアクセスするすべての日本のステークホールダーに向けて、遵守すべき北極域の国際法について解説し、それらを理解するためのポイントと行動指針を提示しています。
- 最近のウクライナ情勢を受けた北極沿岸国の反応や今後の国際協力への影響について、国際法の視点から解説を行っています。
研究の背景
北極域と日本のかかわり
北極圏(北緯66度33分以北の地域)とその周辺地域を含めて「北極域」といいます。南極が「大陸」なのに対して、北極圏の大部分は大陸に囲まれた「海」です。北極の海の大部分は夏場以外、凍っています。そのため、かつては北極の海を航行する船は多くはありませんでした。しかし、地球温暖化の影響で北極の海氷面積が減少していることや、砕氷船などの航行技術が開発されたことにより、北極海を通ってヨーロッパとアジアを結ぶ「北極海航路」の利用が拡大しています。日本はアジアにおいて最も北極海に近く、その航路の利活用や資源開発などにおいて経済的・商業的な機会を享受し得ることから、北極政策を我が国の重要な政策課題として位置づけています。日本の大手エネルギー企業や海運業界もロシアで行われている液化天然ガス(LNG)開発やその輸送手段に投資を行っています。遠い場所というイメージのある北極ですが、日本は北極に強い関心を有する非北極圏国の一つでもあります。
極域協力研究センター(PCRC)は、極域に関する国際法政策を専門に研究する研究機関として、また、我が国の北極域研究のナショナルフラッグシップ・プロジェクト「北極域研究加速プロジェクト」(ArCSⅡ)の実施機関として、北極域にアクセスするすべてのステークホールダー(研究者・政府機関・産業界・市民)に対して国際法(条約・国際文書)を遵守した行動指針を提示することを目的に「北極域を知るための国際法」というホームページを作成・公開しました。
掲載内容
北極域を持続的に利用するための国際ルールとは
日本を含む世界中の国々が北極域を持続的に利用するためには、北極域の自然環境を保護し、また、そこに住む先住民族の生活・文化を尊重しながら、資源を開発したり、北極海航路を利用したりするための国際的なルールが必要になります。そのようなルールは国家間の条約・協定のように国家を法的に拘束する国際法の場合もあれば、国連決議や国際会議の共同宣言のように非拘束的な合意(ソフト・ローとも呼ばれる)の形式を取ることもあります。それぞれの国際法の地理的な適用範囲にも、北極域内に適用することを目的として作成された地域的なルールもあれば、地球規模で適用されるグローバルな国際法であるがゆえに必然的に北極域にも適用されるルールの場合もあります。適用される地理的範囲や拘束力が異なる国際ルールが複合的に重なっているため、多くの人にとって国際法はわかりにくいものです。そのため、このホームページでは、北極域を持続的に利用するために知っておきたい国際法を7つのテーマに分けて、各テーマに関連する地域的及びグローバルな国際法や非拘束的合意について解説しています。
①「国際法」: 北極域と国際法、そして日本
②「人々」: 先住民族と人権・国際社会
③「LNG」: 北極LNG開発と国際法
④「航路」: 北極海航路の利用と国際法
⑤「漁業」: 中央北極海での将来的な漁業
⑥「汚染」: 北極海域でのプラスチック汚染
⑦「将来」: ウクライナ侵攻後の北極国際協力のゆくえ
北極域には、北極沿岸国側としても、北極域にアクセスして利用する側(非北極圏国)としても、守らなければならない国際法があります。その一方で、北極海航路や海洋汚染など、急激に進む北極域の環境変化に合せて国際ルールの作成が課題となっている分野も多く残されています。自然環境を維持しつつ、世界中の国や人々が利用できる地域として北極を守っていくためには、現在適用されているルールを知った上で、これからの国際的なルールのあり方について考えることが重要です。このホームページはそのための基本となる情報を提供するものです。
今後の展開
日本は2013年から北極評議会(AC)のオブザーバー国として参加し、北極域の環境に関する科学的知見の蓄積に貢献しつつ、北極評議会や北極圏国との二国間・多国間の取り組みに積極的に参加しながら、北極域におけるステークホールダーとしてのプレゼンスを高めようとしています。北極の資源開発や航路利用に関心を有する日本として、またその国民(企業・市民)として、北極特有の国際法を十分に意識して行動しなければなりません。このぺージは、日本および日本国民が今後も北極に関与していくうえで必要となる国際法の知識を得るための助けとなります。
謝辞
このページは、神戸大学大学院国際協力研究科極域協力研究センター(PCRC)が三井物産環境基金2019年度研究助成「国際法規範の実施による北極資源の持続可能な利用の実現」の助成を受けて実施した研究成果報告の一部として作成されました。