「ボランティア元年」といわれた阪神・淡路大震災があった1995年、神戸大学でも学生たちが主体的に被災者を支援するボランティアグループを立ち上げました。あれから27年。東日本大震災、熊本地震など相次ぐ激甚災害の場に活動を広げながら、コロナ禍という逆風にも耐え、先輩から後輩へボランティア活動のバトンが受け継がれています。
こうした学生ボランティアの課題や将来像を探ろうと、神戸大学地域連携推進本部は2022年10月中旬、神戸で初めて開催された全国的な防災イベント「防災推進国民大会(ぼうさいこくたい)2022」に合わせ、学生や地域住民、ボランティア関係者が参加するシンポジウムを開きました。学生ボランティアの先駆けでもある神戸大学の学生たちは何を悩み、地域やボランティア関係者らは何を期待しているのでしょうか。シンポジウムから見えた学生ボランティアの現状と今後について報告します。
阪神・淡路大震災の1週間後に発足
学生や教職員によるボランティア活動をサポートする神戸大学地域連携推進本部ボランティア支援部門には現在、14の学生ボランティア団体が登録しています。そのうち、被災者支援など災害関連のボランティア団体は4団体あり、約200人の学生が参加しています。
最も歴史が古いのは「学生震災救援隊 (救援隊)」です。阪神・淡路大震災の発生から1週間後の1995年1月23日、神戸大学の避難所にいた学生を中心に発足しました。公的支援が届かない場所の被災者への支援に始まり、仮設住宅や災害復興住宅でのお茶会の開催などコミュニティづくりや高齢者の孤立化を防ぐお手伝いをしています。現在は4グループに分かれ、震災後から続く「灘チャレンジ」と称する地域おこしイベントや、HAT神戸の復興住宅でのお茶会の開催、被災地へのボランティア派遣などを行っています。
「総合ボランティアセンター (総ボラ)」も阪神・淡路大震災の年の5月、被災者支援からスタートしました。地域のニーズに応じて活動の内容が広がり、現在は8グループが、手話サークルや障がいのある人たちとの交流活動、災害復興住宅でのお茶会、児童館に通う子どもたちとの交流などを行っています。一部のグループは、学生震災救援隊にも所属し一緒に活動しています。
2011年3月の東日本大震災から2カ月後には、新たに「東北ボランティアバスプロジェクト (東北ボラバス)」が設立されました。当初、岩手県遠野市に拠点を置き、津波被害が大きかった沿岸部の避難所での足湯サービスをはじめ、陸前高田市や釜石市、岩手県大槌町などの被災者に手芸会やお茶会などさまざまな支援を実践してきました。これまでに東北の被災地へ計57回、延べ1,700人以上の学生ボランティアを派遣しています。
「持続的災害支援プロジェクトKonti」は2016年4月の熊本地震の被災者支援のために設立されました。熊本への学生ボランティア派遣からスタートし、西日本豪雨災害の被災地岡山県倉敷市、台風被害を受けた宮城県丸森町などの被災地で活動を続けています。
コロナ禍での活動休止
しかし、2020年のコロナ禍で、神戸大学は対面での授業や部活動といった学生が集まる活動を禁止し、ボランティア活動も休止を余儀なくされました。そんな中、各団体はオンラインを活用して東北被災地の写真展を開いたり、現地の人たちと手紙をやりとりしたりするなど、関係を続ける工夫をしてきました。ただでさえ、学生たちのボランティア活動は在学中の4年間という制限があり、毎年、メンバーが入れ替わります。その中での2年間の休止という影響は大きく、ボランティアの相手先との関係や後輩へのノウハウの継承が難しいという課題を抱えることになりました。
2022年に入り、新型コロナウイルスの感染拡大がやや落ち着きを見せ、大学も対面での授業や部活動を解除し、ボランティア活動もようやく再開にこぎつけました。救援隊は2022年5月、宮城県丸森町でのサロン会、8月には宮城県山元町での夏祭りに参加しました。東北ボラバスも2022年5月、2年半ぶりに58回目となる東北への学生ボランティアを派遣。宮城県大槌町での風鈴とうちわづくりや陸前高田市での受け入れ団体との交流などを実施しました。
シンポジウムでボランティアの悩みを吐露
折しも、大学でボランティア活動が動き始めたタイミングの2022年10月22日から2日間、「ぼうさいこくたい2022」が阪神・淡路大震災の被災地・神戸市中央区のHAT神戸で開催されました。全国の防災に取り組む企業や団体、住民が参加する国内最大級のイベントで、東日本大震災後の2016年から毎年、開催されています。今回の大会には防災関連の320団体が出展しました。兵庫県は県内の防災関連団体が参加する「ALL HATひょうご防災フェスタ」を同時開催し、ぼうさいこくたいを盛り上げました。
神戸大学地域連携推進本部はこの機会をとらえ、学生たちのボランティア活動を広く紹介しようと、「つなぐ、地域と大学の27年 神戸大学災害・復興ボランティアの全国展開と地域連携のこれから」をテーマに10月23日にシンポジウムを実施しました。シンポジウムでは冒頭、地域連携推進本部の本部長を務める奥村弘理事・副学長が「コロナ禍で活動制限される中、学生のボランティア活動は試行錯誤しながら続ける工夫をしてきた。今後もいかに続けていくか、新たな道筋を考えたい」などとあいさつしました。続いて、山地久美子特命准教授をコーディネーターに、救援隊や総ボラなど4団体の学生5人と、地域やボランティア団体の代表、大学教授ら計10人が議論しました。
学生たちからは、「コロナ禍でノウハウを伝えたり、学んだりする機会が減った。コロナなど活動休止のときにも相手先との関係をつくる方法を考えたい」とか、「後輩の確保が難しく、存続にかかわる。神戸大学に限らず外部団体とのつながりも重要だ」「変化していく被災者のニーズにどう対応していくか難しい」などと、悩みや課題が打ち明けられました。
一方、地域住民やボランティア関係者は「被災地の神戸大学だからこそ、ボランティアを続けていってほしい」とか「高齢者は孤独な人が多く、学生が傾聴してくれることがありがたい」「学生が遠くから被災地にきてくれるだけで被災者のニーズは満たされている。学生が自分の居場所を見つけることができれば被災地の課題も見える」などと、学生にエールを送りました。最後に、災害復興を研究する神戸大学都市安全研究センターの近藤民代教授は「続けることが大事で、まずは一緒に行ってみようと誘ってほしい。何ができるかを考え続け、他大学や地域と一緒に学びあう場をつくっていけたらいいと思う」と、総括しました。
また、会場では「災害・復興と大学の未来―全国で神戸大学生が共に築いてきたもの」をテーマに、これまでのボランティア活動を写真や文章で紹介するポスター展示も行いました。
ボランティア活動の伝統を守るために
阪神・淡路大震災をきっかけに始まった学生による災害・復興支援のボランティア活動は27年間、脈々と受け継がれ、いわば神戸大学の伝統になっています。もともと自然発生的に学生たちが始めたボランティアですが、神戸大学は2008年に学生ボランティア支援室を設置し、講義やイベントを通じて支えてきました。2021年10月には、地域連携推進本部のボランティア支援部門として再編し、幅広い学生たちのボランティア活動を支援しています。2023年度からはボランティアや社会貢献活動を学ぶ講座も開講することにしています。
防災、減災が専門の室崎益輝神戸大学名誉教授は「ぼうさいこくたい2022」に寄せて、「被災地責任というのがある。犠牲者に報いる責任、支援者に恩を返す責任、さらには人類の歴史に希望をつなぐ責任が被災地にはある。その被災地責任を果たすためには、第一に災害で得た教訓を世界に向けて発信すること、第二に困難を乗り超えて復興した姿を見せること、第三に支えあい助けあう文化を広めることが要件となる」(2022年10月22日付神戸新聞朝刊) と指摘しています。
神戸大学も阪神・淡路大震災の被災地に軸足を置く大学として、今後もボランティア活動を通じ、災害復興の支援の在り方や防災、減災を伝えていくとこが求められています。