神戸大学大学院保健学研究科の北村匡大研究員 (令和健康科学大学リハビリテーション学部理学療法学科講師)、井澤和大准教授らの研究グループは、要支援高齢者を対象に、加速度計を用いたセルフモニタリング介入が歩数、座位行動、軽強度活動といった身体活動を改善することを明らかにしました。
身体活動は、心臓病、糖尿病、骨折、脳卒中などの様々な疾患発症と関連することがよく知られています。特に身体機能が低下している要支援高齢者においては、身体活動が低下することで病気になるリスクが高くなるため、身体活動の維持・改善に向けた方策は急務な課題です。加速度計を用いたセルフモニタリング介入は身体活動を改善させる方策の一つですが、要支援高齢者への有効性を検証した研究はこれまでにありませんでした。そこで、研究グループは要支援高齢者を対象に検証を行い、その有効性を初めて示しました。今後セルフモニタリング介入が要支援高齢者の介護予防方略に組み込まれることで、要支援から要介護に移行する高齢者が減少することが期待されます。
この研究成果は、2月14日にEuropean Geriatric Medicineに掲載されました。
ポイント
- 加速度計を用いたセルフモニタリング介入の有効性について、要支援高齢者を対象とした初めての検証である。
- セルフモニタリング介入したグループは、介入しなかったグループに比べて身体活動の改善が見られ、要支援高齢者への有効性を示した。
研究の背景
高齢者の歩数や座位行動※1といった身体活動※2は疾病および死亡リスクと関連します。身体活動の促進は、心臓病、糖尿病、整形外科疾患、脳卒中などの疾患を予防するだけでなく、健康関連quality of life (QOL)※3や健康全般を改善するためにも推奨されています。特に、要支援高齢者は、健康な高齢者よりも身体活動が低下しています。セルフモニタリングは、目標設定、自己管理、フィードバックで構成される行動変容技法の一つであり、身体活動の促進や血糖値の調整に用いられています。加速度計を用いたセルフモニタリングの身体活動への効果は、健康高齢者、脳卒中や心臓病などの入院患者、慢性疾患患者を対象としたランダム化比較試験で有効性が報告されています。しかしながら、これまで要支援高齢者を対象に身体活動に焦点を当てた効果的な介入プログラムの検証はほとんど行われていませんでした。また、加速度計を用いたセルフモニタリング介入が要支援高齢者の身体活動および健康関連QOLに与える影響については明らかにされていませんでした。したがって、この研究の目的は、身体活動促進のためのセルフモニタリング介入が要支援高齢者の身体活動および健康関連QOLへ与える影響をランダム化比較試験で明らかにすることでした。
研究の内容
本研究では、被検者ブラインド※4のランダム化比較試験を行いました。2022年10月から2023年1月にデイサービスでリハビリテーションを受けた利用者106例を登録しました。65歳以上、要支援者、歩行可能な者を対象とし、研究の参加に同意の得られない者を除外した52例をランダム化により介入したグループ (介入群) 26例、介入なしのグループ (対照群) 26例に振り分けました。介入群へは5週間のフォローアップにて、(1) 加速度計、パンフレット、カレンダーを渡し、(2) 身体活動の教育を受けてもらい、(3) 歩数と座位行動の目標を設定し、(4) 歩数と座位行動時間をカレンダーに記載してもらい、(5) 週に1回のフィードバックを受けてもらいました。対照群へは (1) 加速度計、パンフレット、カレンダーを渡し、(2) 身体活動の教育を受けてもらいましたが、カレンダーの記録に基づくフィードバックは行いませんでした。
解析は、データの得られた介入群24例と対照群23例で実施し、介入群は対照群と比較して歩数、軽強度活動※5が増加し、座位行動が減少を示しました。しかし、健康関連QOLに有意差は認めませんでした。
本研究の新規性は、要支援高齢者において、歩数と座位行動といった身体活動のためのセルフモニタリングが、1日の歩数、軽強度活動、座位行動を改善するということを明らかにしたことです。移動能力や活動性が低下している要支援高齢者において、歩数促進は理解しやすく、座位行動減少のために少しでも立つことは、高い身体機能を必要としない行動です。要支援高齢者において、加速度計を用いたセルフモニタリング介入は歩数、座位行動、軽強度活動を改善する可能性が示唆されました。
今後の展開
今後は、要支援高齢者の身体活動と健康関連QOLに対するセルフモニタリングの効果について、結果の信頼性を向上させ、一般化可能性を拡大できるよう、多施設からの参加者を含めた検証をしたいと考えています。家事、集団スポーツ、ガーデニング、観光など、ウォーキング以外のさまざまな身体活動に焦点を当てて、健康関連QOLへの影響を調査することが重要です。さらに、介入後数か月および数年後に参加者を追跡し、身体活動と健康関連QOLの変化を評価し、セルフモニタリング介入の持続的な効果を検証したいと考えます。
用語解説
※1 座位行動
座っていたり横になっていたりする状態で、エネルギー消費量が1.5メッツ (1メット:安静座位時の酸素摂取量3.5ml/kg/分) 以下の活動のこと。座位行動時間が長すぎる場合、Ⅱ型糖尿病や心臓病の発症率、肥満度が高くなるなどの健康問題が発生することが知られている。
※2 身体活動
安静にしている状態より多くのエネルギーを消費するすべての動きのこと。歩数計や加速度計を用いて測定する。
※3 健康関連quality of life (QOL)
健康や疾病、障害に関連したQOLの概念であり、医療や介護現場における治療やケアの影響を捉える指標である。患者からの直接得られた、健康状態に関するあらゆる報告(患者報告アウトカム)を基本とし、幸福度や満足度の程度を包括的に評価・測定できる。
※4 被検者ブラインド
被検者が介入群または対照群に属することを知らないようにすることであり、研究結果に対するバイアスが軽減され、結果の信頼性が向上する。
※5 軽強度活動
エネルギー消費量が1.5メッツより高く、3メッツ未満の活動のこと。健常成人では立ち仕事やゆっくりとした歩行などが該当する。
論文情報
タイトル
DOI
10.1007/s41999-024-00935-w
著者
Masahiro Kitamura, PhD1,2, Kazuhiro P. Izawa, PhD2, Takayuki Nagasaki, PhD1, Takashi Yoshizawa, PhD1, Soichiro Okamura3, Koji Fujioka3, Wataru Yamaguchi3, Hiroaki Matsuda3
1 School of Physical Therapy, Faculty of Rehabilitation, Reiwa Health Sciences University
2 Department of Public Health, Graduate School of Health Sciences, Kobe University
3 Department of Rehabilitation, Rifuru Yukuhashi Daycare Center掲載誌
European Geriatric Medicine