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環境に関する教育研究とトピックス

環境に関する教育

自然共生型流域圏の構築を目指した水圏環境工学の教育

工学研究科市民工学専攻教授道奥康治

近世の工学技術の発展は人類に多大な利便・快適と安全を提供しました.図-1のように,昔は太陽がもたらす自然のエネルギーと大地が育む自然有機物によって私たちの生活は営まれ,生活圏の中で物質が循環していました.しかし,産業革命以後,地下に眠る化石燃料を不可逆的に消費して温室効果ガスを排出し続け,大気から無尽蔵に採取される窒素は栄養塩として甚大な有機汚染をもたらしました.かつての物質循環は閉鎖系から開放系に転じて気圏・水圏.地圏の環境に大きな負荷を与え,地域から地球規模に至るまでの環境障害をもたらしています.このような状況の中で持続可能な社会を再び取り戻すために私たちは市民工学の教育研究を進めています.

図1 産業革命前後における 資源・エネルギー収支の変化<
図1 産業革命前後における 資源・エネルギー収支の変化

明治以前の日本では,農林業を経済の主軸においた流域圏に依拠する地域ユニットで自然営力に平衡したグリーンな社会経済活動が営まれていました.人間は河川の造形による盆地・沖積平野の地形的・水資源的容量に応じて活動し,人と物は河道に沿う交通ルートを移動し,流域界で囲まれた地域内に固有の地方文化が展開しました.現在,私たちは都市圏の稠密化や地方の過疎化など社会構造のアンバランスに悩まされ,多くの「過剰人口」を抱えています.しかし,かつて水系ネットワーク上に実現していた「自然共生型流域圏」は,少子高齢化時代における持続的な国土形成の枠組みとなります.自然共生型流域圏は,往時の農業社会への復古や回帰を意味する概念ではなく,高度に整備された社会共通の資本ストックを自然環境容量との平衡状態に再構成して最適利用することです.

自然共生型流域圏の構築に関連するカリキュラム事例として市民工学科では,「市民工学概論」,「水圏環境工学」,「水文学」,「市民工学倫理」など,市民工学専攻では「陸水域環境」,「流域マネジメント」などを開講しています.図-2は,流域で展開される社会経済活動が流域システムにおける特異点としてのダム貯水池にどのように環境負荷を与え,水質障害をもたらすかを水質水理学に基づいて解説したものです.土木工学科時代の水工学は流体力学を基礎とする物理学体系だけに依拠していましたが,図-2の仕組みは流れの知識だけでは説明できません.市民工学科・専攻では水工学から水圏工学への昇華を目ざしています.流域圏の自然環境要素である水質・生態系を解析するための化学・生物学の知識,流域を総合管理するためのエンジニアリングデザイン能力,流域管理に資する社会科学的素養などを教育するためにカリキュラムを構成し,教育基盤となる研究体系を整備していきます.

図-2 湖沼・貯水池における水質現象
図2湖沼・貯水池における水質現象
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