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環境に関する教育研究とトピックス

環境に関する教育

「環境学入門」開講

経営学研究科教授國部克彦

平成21年度から、全学向けの総合科目として「環境学入門」が開講される。この科目は、環境管理センターが中心になってカリキュラムを編成し、神戸大学全体の環境に関する研究をしている教員が講義するものである。本稿では、学生の皆さんへの情報提供という観点から、環境学を学ぶ意義を考えてみたい。

21年度の講義担当者と現時点でのテーマは下記のとおりである。

「環境学入門」 ( 平成21年度 後期開講 )

  1. イントロダクション   國部 克彦 ( 経営学研究科 )
  2. 環境と生態系 武田 義明 ( 人間発達環境学研究科 )
  3. 環境と人体  堀江 修 ( 保健学研究科 )
  4. 環境と生命 星 信彦 ( 農学研究科 )
  5. 環境と地域 林 美鶴 ( 内海域環境教育研究センター )
  6. 環境と資源・エネルギー 上田 裕清(工学研究科)
  7. 環境と化学 佐々木 満 ( 環境管理センター長 )
  8. 環境と倫理 松田 毅(文学研究科)
  9. 環境と経済 竹内 憲司 ( 経済学研究科 )
  10. 環境と法・行政 島村 健(法学研究科)
  11. 環境とコミュニケーション 米谷 淳 ( 大学教育推進機構 )
  12. 企業の環境対応 ( 企業担当者 )
  13. 神戸大学の環境対応 吉村 知里 ( 環境管理センター )
  14. グループディスカッション等  ( 環境管理センター )
  15. ラップアップ 梶並 昭彦 ( 環境管理センター副センター長 )

内容を見ればお分かりのように、環境学入門は、自然科学系と人文・社会科学系のテーマが融合する形で編成されている。また、環境を幅広く理解するために人体や生命から生態系やエネルギーまで講義すると同時に、法律、経済、経営などの社会科学分野や、倫理やコミュニケーションなどの人文科学にまで含めて広範囲に進める予定である。

もともと環境 ( environment ) とは私たちの身の回りのこと一般を指す大変身近なものであると同時に、地球環境や宇宙も含む大変広大なものでもある。倫理的に対応すべきこともあれば、法律で規制しなければならないこともある。企業の環境対応も急務である。環境学入門では、このような環境を取り巻く論点を幅広く提供することを目的としている。

環境学はこのように大変間口の広い学問分野であるが、同時にその全体像を捉えることが難しい分野でもある。この講義を多くの分野の専門家が行うことからも明らかなように、多くの学問分野にまたがっているだけでなく、大変多くの考え方や理論が存在する。「環境学入門」では、環境学の幅広さを学んでもらうと同時に、環境という非常に広大な領域に対して、自分自身がどのように対処していけばよいのかも学んでいただきたい。そのためにグループディスカッションのような時間も設けるようにしている。

環境学は、このように広大で多様な領域を取り扱う学問分野であり、非常に複雑である。しかし、世間の環境をめぐる主張はしばしばかなり単純化されている。「地球環境は悪化の一途を辿っている。だから大至急対策を打たないと大変なことになる」という主張から、「環境問題はうそばかり」という批判まで幅広く存在している。

また、環境問題では、ひとつの環境問題を解決すると、他の環境問題が引き起こされるというトレードオフの関係も見逃してはならない。たとえば、鉛が有毒だといって、他の素材に変更すると、その代替金属が希少であったり、機能が劣化することがある。さらに、環境破壊の原因が人間であったとすると、人間は自然界の生き物であり、その生き物が自然に行動した結果「環境」が破壊されたとしても、それは「自然」ではないかという、究極の問題も存在している。

このような問題の多くは環境学のさまざまな分野で研究や議論が継続中で、解答が出ているわけではない。重要なことは解答を学ぶことではなく、解答に至るプロセスつまり考え方を学ぶことである。環境問題は、これまで毒性や悪影響がないと思われていた物質が、たとえばフロンガスのように、実は大きな環境汚染を引き起こす原因であったことが判明することも珍しくないし、その逆もある。学問の進化によって、解答が変わりうる分野でもある。だからこそ、現時点での解答だけでなく、その解答にいたるプロセスを合わせて学ぶ必要がある。

この点は、環境保護が叫ばれている現在において、環境保護とは何を守ることなのかを考えることにも通じている。高校までであれば「環境を守ること=善」というように教えられるであろうが、そもそも「環境を守るとはどういうことか」は正面から論じられることが少ない。ある環境を守ることが、ある環境を破壊してしまうことは、しばしば発生する。これは大変難しい問題であるが、環境を守ることは単純なことではないと理解して、自分の頭で考えることが何よりも重要である。

そのためには幅広い知識が必要である。「環境学入門」は、そのための知識を提供するための科目である。知識は考えるための素材であり、手段である。今すぐに役に立たないように見える知識こそ、長期的には役に立つことが多い。このような知識を提供することこそ、大学の使命である。地球環境問題が今世紀最大の課題であるということは、世界的な共通理解のようであるから、環境に関する正しい知識は皆さんが社会で生きていくうえで、不可欠の基盤を与えてくれるはずである。

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