NEDOと神戸大学、島津製作所は多種類の細胞代謝物を一斉かつ高感度に分析できる「高精度メタボローム解析システム」を開発しました。これにより、従来は熟練者の手作業で行っていた前処理工程を自動化し、作業時間が半分以下となるハイスループット化を達成しました。

 代謝物の解析時間や網羅性を大幅に改善できることで、細胞内で高機能物質を大量生産し、産業分野に生かす「スマートセルインダストリー」の実現に貢献します。


写真1 高速液体クロマトグラフ質量分析計「LCMS-8060」

概要

 NEDOは、植物や微生物の細胞が持つ物質生産能力を人工的に最大限引き出した「スマートセル」を構築し、化学合成では生産が難しい有用物質の創製、または従来法の生産性を凌駕することを目的に、基盤技術および特定の生産物質における実用化技術の研究開発プロジェクト※1を推進しています。

 本プロジェクトにおいて、神戸大学と島津製作所は、研究テーマ「高生産性微生物創製に資する情報解析システムの開発※2」に参画し、高精度メタボローム解析技術の開発に取り組んでいます。高機能な物質の大量生産には、生産量や収率を高める代謝経路を設計し、意図した通りの遺伝子を宿主微生物細胞※3に導入することが必要です。適切な代謝経路の設計には、メタボローム解析※4によって得られる膨大なデータを高精度かつ高速に取得していくことが求められます。 そこで、NEDOと神戸大学、島津製作所は、細胞の代謝物を一斉分析※5できる「高精度メタボローム解析システム」を開発しました。前処理工程の自動化によるハイスループット化を達成するとともに、本プロジェクトの標的代謝物を一斉検出かつ既存の分析法との比較で10倍以上の感度を実現しました。

今回の成果

写真2 前処理装置(外観)

(1)前処理工程を自動化

 代謝を瞬時に停止させる「クエンチング手法」を開発し、微生物の菌株(酵母・大腸菌・放線菌)ごとの前処理条件に沿って、細胞内に蓄積されている代謝物を抽出するプロセスに必要な分注・撹拌・遠心分離・相分画といった工程を連続的に行えるよう自動化しました。これにより、従来は熟練者でも手作業では12サンプルについて2~3時間を要していた前処理工程を1時間に短縮しました。

(2)代謝物150種類を一斉分析

 既存のメソッドでは、1回に分析する代謝物は99種類が限界でした。本プロジェクトでターゲットとしている水溶性代謝物は約150種類と多種類であり、これらを一斉分析するために、トリプル四重極型液体クロマトグラフ質量分析計※6を用いて分析条件の検討・最適化を行いました。また、従来技術において正確性を損なう原因となっていたイオンペア剤添加を回避するメソッドの開発を行い、既存の分析法と比較して10倍以上の高感度化も実現しました。解糖系、ペントースリン酸経路、有機酸・アミノ酸・核酸生合成経路に加えて、シキミ酸経路、メバロン酸、MEP経路等の代謝物の測定ができるようになりました。

写真3 前処理装置(ロボットアーム機構)

(3)データ解析システムを構築

 前処理工程の自動化によって再現性の高いデータを取得可能となったことに加えて、新たにデータ解析システムを構築したことにより、作業時間の大幅な短縮に成功しました。

 メタボローム解析では試料ごとに多種の化合物を測定するためデータ処理量が膨大となりますが、既存技術をベースに高速ピークピッキングシステムの開発により、作業時間を1/4に短縮しました。

 さらに、マルチオミックス解析パッケージ※7を組み合せることで、標的代謝物を代謝経路上にマッピングしたうえで、100以上の代謝物の経時変化を短時間に表示できるようになります(例えば、従来法では4日間要していた作業が1時間以内に完了します)。これにより、従来の煩雑な作業を回避し、スマートセル設計に有用な情報を抽出しやすくなりました。本システムの開発は、高機能物質を生産する微生物株の開発期間短縮に貢献します。

【注釈】

※1 研究開発プロジェクト
  • 事業名:植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発
  • 期間:2016~2020年度
  • 概要:植物や微生物の細胞が持つ物質生産能力を人工的に最大限引き出した「スマートセル」を構築し、化学合成では生産が難しい有用物質の創製、または従来法の生産性を凌駕することを目的に、基盤技術および特定の生産物質における実用化技術の研究開発プロジェクト。将来的に持続可能な社会の構築に資するスマートセルによるものづくり「スマートセルインダストリー」の実現を目指している。

※2 研究テーマ「高生産性微生物創製に資する情報解析システムの開発」
  • 事業名:植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発/ 研究開発項目③高生産性微生物創製に資する情報解析システムの開発
  • 期間:2016~2020年度
  • 委託先:国立大学法人神戸大学、株式会社島津製作所他
  • 研究開発責任者:神戸大学 大学院 科学技術イノベーション研究科 教授 蓮沼誠久

※3 宿主微生物細胞
設計通りの遺伝子が導入される微生物細胞

※4 メタボローム解析
細胞に含まれる低分子化合物(代謝物)の蓄積量を網羅的に測定すること。

※5 一斉分析
一度に複数の対象分子を分析すること。

※6 トリプル四重極型液体クロマトグラフ質量分析計
四重極形アナライザーを持つ質量分析計と結合させた液体クロマトグラフ質量分析計。今回は世界最高感度と検出スピードを両立した高速液体クロマトグラフ質量分析計「LCMS-8060」を利用。

※7 マルチオミックス解析パッケージ
オープンプラットフォーム“GARUDA”(Ghosh, S., et al. Nature Rev. Genet. 2011)上に構築した、メタボロミクス、プロテオミクス、フラックス解析(代謝物の量を生産量と消費量の差として精密に追跡する手法)の膨大なデータを自動で代謝マップに表示できるソフトウェアパッケージ。島津製作所と特定非営利活動法人システム・バイオロジー研究機構、国立大学法人大阪大学が共同で開発。

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