理化学研究所(理研)生命機能科学研究センター呼吸器形成研究チームの森本充チームリーダー、岸本圭史研究員、バイオリソース研究センターの田村勝チームリーダー、神戸大学大学院医学研究科の南康博教授、西田満准教授らの共同研究チームは、気管[1]など管状の臓器(管腔臓器)が正しい形へと発生する仕組みをマウスで明らかにしました。

 本研究成果は臓器形成の基本原理を説明するとともに、再生臓器の成形技術への応用や、先天性気管狭窄症[2]などの病態の理解にもつながると期待できます。

 気管、食道、腸などの“管”の長さ、太さ(径)、配置は、精密に制御されており、何らかの理由で変形してしまうと正常な機能が果たせなくなります。しかし、これらの太く長い管が作られるメカニズムは分かっていませんでした。

 今回、共同研究チームは、発生過程のマウスを用いて、気管の長さと太さを決める仕組みを調べました。その結果、気管は初めに長さ方向に伸長し、続いて径が拡大することが分かりました。また、遺伝子の機能解析から、① Wnt5a[3]-Ror2[4]シグナルにより、細胞極性[5]が同調した気管平滑筋[6]のもとになる細胞が円周方向に整列して連結され、気管上皮[7]の長軸方向の伸長を促していること、② Sox9[8]遺伝子が気管軟骨組織の分化・成長を促して径の調節をしていることが分かりました。平滑筋や軟骨は間充織[9]に由来する組織であり、間充織細胞の極性、分化が管構造の形成に重要な役割を担うことが明らかになりました。

 本研究成果は英国のオンライン科学雑誌『Nature Communications』(7月19日付)に掲載されました。


図 マウス気管の管腔構造(周縁をパターン化された平滑筋(マゼンタ)と軟骨(緑)が覆う)

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※共同研究チーム

理化学研究所
生命機能科学研究センター 呼吸器形成研究チーム
 チームリーダー 森本 充(もりもと みつる)(旧 多細胞システム形成研究センター 呼吸器形成研究チーム チームリーダー)
 研究員 岸本 圭史(きしもと けいし)
 テクニカルスタッフII 山岡 玲 (やまおか あきら)
生命機能科学研究センター 生体モデル開発ユニット・生体ゲノム工学研究チーム
 研究員 阿部 高也(あべ たかや)(旧 ライフサイエンス技術基盤研究センター 生命機能動的イメージング部門 生命動態情報研究グループ 生体モデル開発ユニット・生体ゲノム工学研究チーム 研究員)
 テクニカルスタッフII 繁田 麻葉(しげた まよ)
バイオリソース研究センター マウス表現型解析開発チーム
 チームリーダー 田村 勝(たむら まさる)

神戸大学大学院
医学研究科 生理学・細胞生物学講座 細胞生理学分野
 教授 南 康博(みなみ やすひろ)
 准教授 西田 満(にした みちる)

補足説明

  • [1] 気管
    脊椎動物では食道の腹側に位置し、空気の通り道となる1本の管状の呼吸器官を指す。上部は喉頭に接続し、下部は分岐して左右の肺に接続する。
  • [2] 先天性気管狭窄症
    生まれつき気管が細くなる疾患。新生児期に症状が現れることが多く、主な症状は呼吸困難。気管軟骨の形成異常が原因の一つと考えられている。
  • [3] Wnt5a
    分泌型の糖タンパク質であるWnt familyの一つ。一般的(古典的)なWntはβ-カテニンを介してシグナルを制御するが、Wnt5aはβ-カテニンを介さず、PCP経路やCa経路などの非古典的な経路を介して、細胞の移動、極性といった多様な細胞の機能を調節する。
  • [4] Ror2
    膜貫通受容体型のチロシンリン酸化酵素。Wnt5aの受容体の一つとして知られている。Ror2は、Receptor tyrosine kinase-like orphan receptor2の略。
  • [5] 細胞極性
    細胞に対して、相対的な方向性や同調性を与える初めのプロセス。極性が破綻すると、神経管閉鎖や左右非対称性といった秩序だった細胞の挙動が要求される発生のイベントに重篤な異常が生じることが知られている。
  • [6] 気管平滑筋
    気管の内腔を取り囲み、弛緩・収縮することにより、気管径を変化させる筋組織。
  • [7] 上皮
    隙間なく敷き詰められた細胞が作るシート状の構造。体表や管腔の表面を覆って、さまざまな生理的機能を果たす。
  • [8] Sox9
    軟骨細胞分化のマスターレギュレーター遺伝子。軟骨細胞への分化に必須な遺伝子群の発現を上昇させる転写因子をコードする。Sox9は、SRY-box 9の略。
  • [9] 間充織
    中胚葉に由来する未熟な結合組織。器官形成では上皮組織と接していることが多い。

研究支援

 本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金若手研究A「気道上皮の多分化能細胞と組織構造の解析(研究代表者:森本充)」等の支援を受けて行われました。

論文情報

・タイトル
Synchronized mesenchymal cell polarization and differentiation shape the formation of the murine trachea and esophagus
doi:10.1038/s41467-018-05189-2

・著者
Keishi Kishimoto, Masaru Tamura, Michiru Nishita, Yasuhiro Minami, Akira Yamaoka, Takaya Abe, Mayo Shigeta and Mitsuru Morimoto

・掲載誌
Nature Communications

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