雄と雌は交配して子を作りますが、雌雄の関係は常に協力的であるとは限りません。利己的にふるまう雌雄の間の利害の対立は、個体群全体に不利益をもたらす可能性が、これまでも指摘されてきました。

 神戸大学大学院人間発達環境学研究科の高見泰興准教授、山形大学学術研究院の横山潤教授、東北大学大学院生命科学研究科の河田雅圭教授らの研究グループは、雄同士の競争によって生じる雌への負担(ハラスメント)が、雌の繁殖力の低下と個体群の縮小をもたらすことを、甲虫のアオオサムシを用いて明らかにしました。

 この研究成果は、10月5日(日本時間)に、国際学術雑誌「Evolution」に掲載されました。

ポイント

  • 雌雄の間には、雄の繁殖競争が雌の繁殖を妨げる「性的対立」が生じうる。
  • アオオサムシでは、雄との交尾を通じて雌がハラスメントを受けやすいほど、雌の繁殖力が低下し、個体群が縮小する。
  • 性的対立をもたらすような雄の利己的な行動は、個体群の存続に悪影響をおよぼす可能性がある。

研究の背景

 繁殖をめぐる雄間の競争に強い雄が、雌の繁殖をさまたげる不適な配偶者であることを、性的対立と呼びます。性的対立は、雌雄がそれぞれ自らの繁殖成功を最大化しようとする「最適化できない関係」であり、生物の進化をもたらす原因として注目されてきましたが、個体数変動のような生態学的に重要な過程におよぼす影響はあまり注目されてきませんでした。

研究の内容

 研究対象のアオオサムシは、雄の交尾器に釣り針状の突起を持ち、雌の交尾器にはそれを受け入れる袋があります。

 様々な長さの交尾器を持つ雌雄を交配させた結果、長い突起を持つ雄は、交尾相手の雌に未受精卵を無駄に産ませることがわかりました。未受精卵は雌の産卵数のおおよそ20%〜40%程度に達します。これは、後から交尾する他の雄が受精させるはずの卵を失わせ、ライバル雄に対して自らの相対的な繁殖成功を得ようとする、雄の利己的な行動といえます。一方、このような雄間の競争のために、限りある卵は浪費され、雌の繁殖が犠牲にされる(ハラスメントを受ける)ことになります。

 一方、長い袋を持つ雌は、そのような雄による交尾を介したハラスメントを受けにくく、卵の受精率を高く維持できることがわかりました。

 複数の野外個体群で、雌雄の交尾器の長さと個体数との関係を調べたところ、雌がハラスメントを受けやすい「長い雄の突起−短い雌の袋」をもつ個体群ほど、個体数が少ないことがわかりました。

 これらの結果は、雌雄間の最適化できない対立関係が、野外の個体群に負の影響をもたらしうることを実証した先駆的な研究成果です。


今後の展開

 今回の研究成果は、個体の利己的な行動が資源の枯渇を通じて社会全体の持続性を損なうという「共有地の悲劇」が、性的対立を介して野生生物個体群において生じうることを示したものです。

 今後は、性的対立という視点を導入することで、生物個体群の存続可能性の評価法を、更に高度化することにつながると期待されます。

用語解説

※ 共有地の悲劇: 社会の共有資源を個人が利己的に搾取すると、社会全体の存続が危うくなるという考え方。村人達が共有する放牧地に、個人の収入を上げるために過剰な数の牛を放牧すると、草を食べ尽くしてしまい、結局は村全体の放牧が立ち行かなくなるという例が有名。

謝辞

本研究は、文部科学省科学研究費補助金による部分的な援助を受けて行われました。

論文情報

・タイトル
“Impact of sexually antagonistic genital morphologies on female reproduction and wild population demography”

・著者
Yasuoki Takami, Tomohiko Fukuhara, Jun Yokoyama and Masakado Kawata

・掲載誌
Evolution

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