図1 絶滅が危惧されるニホンウナギ (Anguilla japonica)

 神戸大学大学院理学研究科の板倉光学振特別研究員、中央大学の脇谷量子郎機構助教、京都大学の山本哲史助教、中央大学の海部健三准教授、神戸大学の佐藤拓哉准教授と源利文准教授からなる研究グループは、1Lの河川水中の環境DNA(※1)量を分析することで、ニホンウナギの河川での生息状況を把握できることを世界で初めて明らかにしました。これにより、ニホンウナギの河川でのモニタリングを短期間で効率的に行うことが可能となり、絶滅が危惧される本種資源の保全に大きく貢献できるものと期待されます。

 この研究成果は、2月28日 (現地時間) に、英国科学誌「Aquatic Conservation: Marine and Freshwater Ecosystems」に掲載されました。


ポイント

  • ウナギ属魚類の河川内分布をモニタリングするための環境DNA分析手法の有用性を世界で初めて示した。
  • 国内10河川125地点における電気ショッカーを用いた定量採集調査と環境DNA分析手法から得られた結果を比較し、環境DNA分析の方がニホンウナギの河川内分布を高精度で検出できることを確認した。
  • 採集調査から得られたニホンウナギの個体数・生物量と環境DNA濃度との関係から、環境DNAを調べることで河川でのニホンウナギの個体数・生物量を推定できる可能性を示した。
  • 環境DNA分析手法により、広域に分布するウナギ属魚類の河川内分布調査が容易に行え、時空間的に大規模な資源動態のモニタリングが可能となる。これは、本属魚類の保全と持続的利用、本属外来種の人為的移入の早期発見に大きく貢献できるものと期待される。

研究の背景

図2 日中、河岸の植生の根の間に身を潜めるニホンウナギ

 ウナギ属魚類は外洋で産卵し、沿岸や河川で成長する降河回遊魚です。世界に16種が知られ、その分布は広く150か国にわたります。東アジアに広く分布するニホンウナギは、古来より我が国の重要な食資源として、和歌や絵画の題材として、時には信仰の対象として、多様な生態系サービスを供給してきました。しかし、その漁獲量は1970年代以降激減し、2014年には国際自然保護連合(IUCN)によって絶滅危惧種に指定され、資源の保全が急務となっています。

 生物を保全するためには、対象生物の分布域や資源量に関するデータの取得が欠かせません。一般に、ニホンウナギの河川調査では、電気ショッカーを用いて採集を行います。しかし、調査には人的・時間的に大きな労力がかかるため、ニホンウナギのように河川の下流から上流まで広く生息し、地理的にも分布域が広い生物の場合は十分なデータが得られていないという課題がありました。また、通常調査を行う日中、夜行性であるウナギは植生や泥の中に隠れているため、従来の採集調査ではしばしばウナギを見落としてしまうといった問題もありました。そこで私たちは、低労力でかつ正確なモニタリング調査手法を検討するため、近年急速に技術発展する環境DNA分析手法がニホンウナギの分布調査に有用であるかどうかを調べました。


研究の内容

 私たちは、国内の10河川の下流から上流にわたる全125地点において、河川水を1L汲み、そこに含まれるニホンウナギの環境DNA量をリアルタイムPCR法 (※1) によって測定しました。同時に、同地点において電気ショッカーを用いた定量的な採集調査を行い、ニホンウナギの採集個体数・生物量を求め、環境DNA分析の結果と比較しました。


図3 調査風景。電気ショッカーによる採集調査 (左)、環境DNA分析用の採水 (右)

 その結果、電気ショッカー調査によってニホンウナギが確認された地点の91.8%(61地点中56地点)でウナギの環境DNAが検出されただけでなく、低密度で生息しているためにウナギが採集されなかった35地点(主に上流域)においても環境DNAが検出されました。これにより、環境DNA分析手法はニホンウナギの河川内分布を従来の採集調査よりも高精度で検出できることが初めて明らかになりました。さらに、採集調査によって得られたニホンウナギの個体数・生物量は環境DNA濃度と正の相関があることから、環境DNAを調べることで河川におけるニホンウナギの個体数・生物量をある程度推定できる可能性も見出しました。


図4 ニホンウナギの個体数と河川中の環境DNA濃度との関係

 ウナギ属魚類の生息数が下流から上流に向かって減少することは広く知られていますが、本研究における環境DNA濃度も同様の傾向が見られたことから、環境DNA分析の結果は、ウナギ属魚類の河川での基本的な生態特性を良く表していると考えられます。

 今回の研究では、電気ショッカーを用いた採集調査は1河川につき3人以上で少なくとも3日間を要しましたが、環境DNA分析のための採水は2人で長くとも半日間、その後の処理は1人で1.5日間で終了しました。つまり、河川全域や複数河川など大規模な分布調査を行う上で、環境DNA分析手法の方が人的・時間的資源の面でも優れていると考えられます。

今後の展開

 本研究成果にも示されているように、環境DNA分析手法は、従来の方法よりも時間や労力的に低コストであるため、広域分布するニホンウナギのモニタリングが容易となります。今後、より大規模な資源動態のモニタリングが可能になることと期待されます。また、非致死的な手法である点も、絶滅危惧種であるニホンウナギのモニタリングにおいて有益です。現在では、環境DNA分析手法を用いたウナギ属魚類のモニタリング調査を国内外のフィールドで実施しています。環境DNA分析手法を導入することで、国を跨いで分布する本属魚類に対して国際的に統一された手法でのモニタングの実施が容易となり、全球規模で資源減少が懸念されるウナギ属魚類の保全と持続的利用に対して大きく貢献できるものと考えています。

 また、河川における外来ウナギの移入の実態を調査する際にも有効です。過去20年間に国内の多くの水系で放流された外来のウナギ属魚類(ヨーロッパウナギやアメリカウナギなど)の生息が報告されています。これらの種とニホンウナギは外見では見分けることができず、生息していても発見することは困難であることに加えて、長寿命(数十年)なために長期にわたって生態系に影響を及ぼすことが懸念されます。環境DNA分析による広域調査を行うことで、国内における外来ウナギの分布状況や早期発見などが期待されます。

 河川における環境DNA濃度は、生物の個体数や生物量に加えて、流速や水深などの物理特性によっても、DNAの分解や分散距離を通して影響を受けることが分かっています。そのため今後は、物理特性が環境DNA濃度に与える影響を明らかにすることで、環境DNA分析によるニホンウナギの個体数や生物量の予測精度を高めていく必要があります。

用語解説

  • ※1 環境DNA
    水や空気、土壌などのサンプル中に含まれるDNAのこと。水の場合には魚類をはじめとした水生生物の排泄物や粘液、表皮などの細胞が水中に剥がれ落ちたものに由来するDNAが含まれている。
  • ※2 リアルタイムPCR法
    特定のDNA断片のみを増幅するPCR法の一種である。増幅する過程をリアルタイムにモニターすることによって、特定のDNAの量を測定することができる。

謝辞

 本研究は、JST戦略的創造研究推進事業、公益財団法人河川財団の河川基金助成事業、JSPS科研費JP16J01523の助成を受けて実施しました。

論文情報

・タイトル
“Environmental DNA analysis reveals the spatial distribution, abundance and biomass of Japanese eels at the river basin scale”

・著者
  • 板倉光(神戸大学大学院理学研究科・日本学術振興会特別研究員)
  • 脇谷量子郎(中央大学研究開発機構・機構助教)
  • 山本哲史(京都大学大学院理学研究科・助教)
  • 海部健三(中央大学法学部・准教授)
  • 佐藤拓哉(神戸大学大学院理学研究科・准教授)
  • 源利文(神戸大学大学院人間発達環境学研究科・准教授)

・掲載誌
Aquatic Conservation: Marine and Freshwater Ecosystems

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