小惑星探査機「はやぶさ2」による小惑星Ryugu (リュウグウ) の探査活動に基づく初期成果をまとめた3編の論文が、Science (サイエンス) 誌のウェブサイトに2019年3月19日 (日本時間3月20日) に掲載されました。

掲載論文概要

1. 「はやぶさ2」のリモート観測から小惑星リュウグウの形状形成過程に迫る
2. 「はやぶさ2」の近赤外分光計によって観測された小惑星リュウグウの表面組成
3. リュウグウの表面地形、多色画像、熱物性から探る母天体の進化


神戸大学大学院理学研究科 惑星学専攻からも、次の研究者が共著者として本成果に貢献しております (著者名掲載順)。


平田 直之 (ひらた なおゆき) 特命助教
田中 小百合 (たなか さゆり) 大学院生
西川 直輝 (にしかわ なおき) 大学院生

関連論文:1、2、3

私どものグループでは、はやぶさ2が撮影した画像データの解析を担当しました。具体的には、リュウグウの自転周期・自転軸傾斜・体積・半径の決定、形状モデル作成、はやぶさ2探査機の位置や姿勢の推定を行いました。これらは探査機の運用や科学調査において根幹をなす部分です。

関連リンク:大槻研究室 > 平田 直之


荒川 政彦 (あらかわ まさひこ) 教授

関連論文:1

私は、「はやぶさ2」の科学主任研究者の一人として (インパクターと分離カメラ担当) 、「はやぶさ2」が実施する科学探査の内容の検討と先鋭化に寄与しました。また、今回の論文の執筆にあたっては、共著者の一人として、主著者と論文内容の議論を行っています。


小川 和律 (おがわ かずのり) 技術専門職員

関連論文:1、2、3

私は、はやぶさ2に搭載されている各科学観測機器の全体的な観測計画の検討と実際の運用作業を取りまとめる組織の一員として作業を行ってきました。また光学航法カメラ (ONC) に開発メンバとして関与しました。はやぶさ2における私の主な立場は分離カメラ (DCAM3) の副開発責任者ですが、その立場から科学議論に参加しています。


1.「はやぶさ2」のリモート観測から小惑星リュウグウの形状形成過程に迫る

「はやぶさ2」に搭載された望遠の光学航法カメラ(ONC-T)の画像などから小惑星リュウグウの形状モデルを作成し、その解析と重力計測からリュウグウの形成過程や自転進化について考察した。リュウグウは顕著な赤道リッジを持つコマ (独楽) 型をしている。そのバルク密度 (質量を体積で割った値) は1.19±0.02gcm–3と低く、内部は空隙率が高い (>50%) と推定される。表面には大きな岩塊もあり、リュウグウがラブルパイル (瓦礫) 天体であることを強く示唆する。リュウグウは回転対称性の高い形状をもつため、遠心力によって変形した可能性が高い。リュウグウがかつて現在の2倍の速さで自転していたとすると、その表面傾斜の分布が説明できることがわかった。ONC-Tによる分光観測データから、赤道リッジには宇宙風化の影響の少ない新鮮な物質が露出している可能性が高い。そのため赤道リッジにあるL08サイトは試料採取場所として好適である。帰還試料による解析が行われれば、リュウグウがどのようにして現在の形状となったのか、リュウグウのような炭素質小惑星がどのくらいの強度を持っているのかなど、さらに詳しい知見が得られると期待される。

リュウグウの形状モデル

AからDは赤道上の4方向から、Eは北極、Fは南極から見た形状。ONC画像およびLIDARの距離計測からStructure from Motion (SfM) という手法で作成した。SPCという別の手法での形状モデルも作成し、両者が良く一致することを確認している。(画像クレジット 渡邊誠一郎ら)

研究の背景

小惑星探査機「はやぶさ2」は、地球に接近する小惑星であるリュウグウを目的天体として、2014年12月に打ち上げられ、2018年6月に到着した。地上からの表面スペクトル観測によりリュウグウは炭素質小惑星 (広い意味でのC型小惑星) であることがわかっていた。炭素質小惑星は炭素質コンドライト隕石とスペクトルが類似しているため、同隕石に含まれる有機物や水をもつ可能性がある。「はやぶさ2」は世界で初めて炭素質小惑星にランデブーし、表面をリモートセンシング観測し、着陸機/ローバーによるその場計測を実施し、衝突装置による人工クレーター生成実験を行い、表面試料を採取して地球に持ち帰り分析する。リュウグウの母天体(*1)の特性を制約することで、氷が存在する外部太陽系と岩石主体の内部太陽系の境界付近での惑星形成過程と、地球への水や有機物などの物質供給過程について明らかにすることを目的としている。

研究内容と結果

「はやぶさ2」のリモートセンシング観測に基づいて、リュウグウの各種物理量を従来にない精度で決めるとともに、2つの異なる手法で信頼性の高い形状モデルを作成した。この形状モデルと光学航法カメラ (ONC-T) の画像・分光データ、重力計測などから、リュウグウの基本的な物理特性を解析した。

  • リュウグウはラブルパイル (瓦礫) 天体である
    精密な重力計測と形状モデルから、リュウグウのバルク密度 (質量を体積で割った値) は、1.19 ± 0.02 g cm–3と低いことが明らかになった。炭素質コンドライト隕石の粒子密度を使うと、空隙率 (粒子間にある空隙の体積割合) は50%以上となる。この空隙率は小惑星探査機「はやぶさ」が訪れたイトカワの44±4%よりも高い。イトカワはその高い空隙率などから、破壊された母天体の破片が再集積して形成されたラブルパイル (瓦礫) 天体とされている。リュウグウ表面にイトカワの2倍の密度で大きな岩塊が分布することと合わせて、リュウグウはラブルパイル天体である可能性がきわめて高い。

  • コマ (独楽) 型の形状は過去の高速自転により形成された
    リュウグウは顕著な円形の赤道リッジをもつコマ (独楽) 型 (spinning-top shape) をしていることがわかった。従来知られているコマ型小惑星は、高速自転天体 (自転周期が4時間程度以下) がほとんどであったが、リュウグウの自転周期は7.6時間とゆっくりである。形状モデルの解析から、赤道断面の円形度および中低緯度帯の軸対称性が高いことがわかり、遠心力による変形が生じた可能性が高い。リュウグウの現在の形状解析から、自転周期を3.5時間にした場合、重力 (引力+遠心力) に垂直な水平面に対して表面の傾斜が31°でほぼ一定となることが明らかになった。これは、リュウグウの形状が、かつてこのような周期で高速自転していた際に作られたことを示唆する。

  • 赤道リッジからの試料により形状形成過程が制約される
    ONC-Tによる分光観測から、赤道リッジは中緯度に比べて青く明るいスペクトルを示すことが明らかになった。宇宙風化 (*2) が表面物質をより赤くかつ暗くするとすれば、赤道リッジは新鮮な物質が露出していることになる。コマ型形状の形成は赤道リッジの試料から制約することができる。私たちは赤道リッジに試料採取に適したサイト (L08) を選んだ。

リュウグウの形状進化について

コマ型形状の形成時期については、(1) 破壊された母天体からの再集積時にそもそも高速自転するコマ型天体として形成されたか、(2) リュウグウ形成後に徐々にYORP効果(*3)によって自転が加速してコマ型が形成された可能性がある。(1) は、再集積時には自転が早いと形状が棒状に延びて、コマ型は作りにくいという問題点がある。(2) は、変形のモードが、表面の地滑りとなるのか、内部変形となるかはリュウグウの内部構造と物質強度に依存する。私たちは有限要素法を使った数値計算を行い、内部構造が一様で強度が弱ければ、内部変形モードとなることを示した。

将来展望:取得試料と比較研究への期待

赤道リッジの物質の新鮮さは、宇宙風化がどのように進むのかという問題と関連しており、さらなる地質学的解析と帰還試料による検証が必要である。この検証ができれば、高速自転小天体の変形モードが識別可能となる。変形モードの特定は小惑星内部の強度の推定につながる。また、米国のOSIRIS-Rexが探査している炭素質小惑星ベヌーとの詳細な比較をすることで、共通性と個別性をある程度弁別できると期待される。炭素質小惑星の強度は、それらが地球にどのくらいの量、どのような形態で (隕石なのか、より細かな惑星間塵なのか) もたらされてきたかを解明する上で鍵となる物理量である。4月に予定されている衝突装置 (SCI) による人工クレーター生成実験は、リュウグウ表層の強度を知る上でも重要なものとなると期待されている。

*1:母天体:より大きな小惑星の破壊によって生じた小型の小惑星に対して、もととなった小惑星を母天体という。
*2:宇宙風化:微隕石衝突や宇宙線照射により進む表面物質の化学変化。
*3:YORP効果 (Yarkovsky-O’Keefe-Radzievskii-Paddack effect):太陽光入射と天体の熱放射のアンバランスによって生じるトルクにより、太陽系小天体の自転速度や軸の向きがゆっくりと変化する現象。

助成

本研究は、科学研究費助成事業 (JP17H06459, JP17K05639, JP16H04059, JP17KK0097, JP26287108, JP16H04044, JP16H04044)、研究拠点形成事業 (International Network of Planetary Sciences)、並びに自然科学研究機構 (AB302006) の助成を受けて行われました。

論文情報

タイトル
Hayabusa2 arrives at the carbonaceous asteroid 162173 Ryugu — a spinning-top-shaped rubble pile
DOI
10.1126/science.aav8032
著者
S. Watanabe1,2,*, M. Hirabayashi3, N. Hirata4, N. Hirata5, R. Noguchi2, Y. Shimaki2, H. Ikeda6, E. Tatsumi7, M. Yoshikawa2,8, S. Kikuchi2, H. Yabuta9, T. Nakamura10, S. Tachibana7,2, Y. Ishihara2, T. Morota1, K. Kitazato4, N. Sakatani2, K. Matsumoto11,8, K. Wada12, H. Senshu12, C. Honda4, T. Michikami13, H. Takeuchi2,8, T. Kouyama14, R. Honda15, S. Kameda16, T. Fuse17, H. Miyamoto7, G. Komatsu18,12, S. Sugita7, T. Okada2,7, N. Namiki11,8, M. Arakawa5, M. Ishiguro19, M. Abe2,8, R. Gaskell20, E. Palmer20, O. S. Barnouin21, P. Michel22, A. S. French23, J. W. McMahon23, D. J. Scheeres23, P. A. Abell24, Y. Yamamoto2,8, S. Tanaka2,8, K. Shirai2, M. Matsuoka2, M. Yamada12, Y. Yokota2,15, H. Suzuki25, K. Yoshioka7, Y. Cho7, S. Tanaka5, N. Nishikawa5, T. Sugiyama4, H. Kikuchi7, R. Hemmi7, T. Yamaguchi2, N. Ogawa2, G. Ono6, Y. Mimasu2, K. Yoshikawa6, T. Takahashi2, Y. Takei2, A. Fujii2, C. Hirose6, T. Iwata2,8, M. Hayakawa2, S. Hosoda2, O. Mori2, H. Sawada2, T. Shimada2, S. Soldini2, H. Yano2,8, R. Tsukizaki2, M. Ozaki2,8, Y. Iijima2, K. Ogawa5, M. Fujimoto2, T.-M. Ho26, A. Moussi27, R. Jaumann28, J.-P. Bibring29, C. Krause30, F. Terui2, T. Saiki2, S. Nakazawa2, Y. Tsuda2,8

1. Nagoya University
2. Institute of Space and Astronautical Science (ISAS), JAXA
3. Auburn University
4. University of Aizu
5. Kobe University
6. Research and Development Directorate, JAXA
7. University of Tokyo
8. SOKENDAI (The Graduate University for Advanced Studies)
9. Hiroshima University
10. Tohoku University
11. National Astronomical Observatory of Japan
12. Chiba Institute of Technology
13. Kindai University
14. National Institute of Advanced Industrial Science anTechnology
15. Kochi University
16. Rikkyo University
17. National Institute of Information and Communications Technology
18. Università d’Annunzio
19. Seoul National University
20. Planetary Science Institute
21. Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory
22. Université Côte d’Azur, Observatoire de la Côte d’Azur, Centr national de la recherche cientifique (CNRS), Laboratoire Lagrange
23. University of Colorado
24. NASA Johnson Space Center
25. Meiji University
26. DLR (German Aerospace Center), Institute of Space Systems
27. CNES (Centre National d'Etudes Spatiales)
28. DLR, Institute of Planetary Research
29. Institute d’Astrophysique Spatiale
30. DLR, Microgravity User Support Center
*Corresponding author
掲載誌
Science

2.「はやぶさ2」の近赤外分光計によって観測された小惑星リュウグウの表面組成

「はやぶさ2」に搭載した近赤外分光計 (NIRS3) の観測により、小惑星リュウグウについて次の三点が判明した。 (1) リュウグウ表面の近赤外反射スペクトルには、水酸基に起因する波長2.72㎛の吸収が見られた。これはリュウグウ表面に含水鉱物として水が存在することを示している。 (2) 実験室で測定された隕石との比較から、リュウグウの表面物質は加熱や衝撃を受けた炭素質隕石と似たスペクトル特徴を示すことがわかった。 (3) 水酸基の吸収における中心波長に地域差が見られないことから、リュウグウは全体的に均質な組成である。それはリュウグウの母天体で起きた水質変成作用の特徴を反映していると考えられる。リュウグウが母天体の衝突破片でできたラブルパイル天体であることを考えると、母天体の内部物質も均質な組成であったと推測される。

リュウグウと炭素質隕石の反射スペクトルの比較

右図は左図をNIRS3の波長範囲で拡大したもの。(画像クレジット 北里宏平ら)

研究の背景

「はやぶさ2」は、地球に接近する小惑星であるリュウグウの表面から試料を採取して、地球に持ち帰るサンプルリターンミッションを目指している。その試料の分析から得られる物質科学的情報は、試料を採取した場所の地質学的情報と組み合わせることによって、天体の歴史を紐解く重要な手掛かりとなる。

リュウグウは、「はやぶさ2」の到着前に行われた望遠鏡観測から、C型と呼ばれるスペクトルタイプに分類され、水や有機物を含む炭素質隕石に似た組成を持つと考えられてきた。しかしながら、水酸基や水分子の顕著な赤外吸収が現れる3µm波長帯のデータがなかったことから、その組成や水の存在は確定的ではなかった。

研究内容と結果

近赤外分光計 (NIRS3) の観測から得られた3µm波長帯のスペクトルを解析し、リュウグウ表面の組成と水の存在を明らかにした。

  • リュウグウの表面には含水鉱物の形で水が存在する
    NIRS3が取得したリュウグウの反射スペクトルには、水酸基に起因する微弱な2.72µmの吸収 (OH吸収) が見られることを明らかにした。これは、僅かながら水分を含む鉱物 (含水鉱物) がリュウグウ表面に存在することを示す直接的な証拠と言える。

  • 加熱や衝撃を受けた炭素質隕石に類似
    リュウグウの反射スペクトルには、上記の微弱なOH吸収に加えて、極端に低い反射率 (2%) や緩やかな正のスペクトル勾配などの特徴も見られた。実験室で測定された様々な隕石のスペクトルと比較をした結果、それらの特徴と合致する隕石は、500℃程度の加熱か10GPa以下の衝撃を受けた特殊な炭素質隕石に限られることがわかった。これは、リュウグウを構成する物質が加熱や衝撃による二次的な変成作用を経験したことを示唆している。

  • リュウグウの表面組成は均質
    NIRS3による全球観測の結果、OH吸収の吸収強度と中心波長に場所による有意な差は見られないことがわかった。このことは、リュウグウが全体的に均質な組成であることを示している。また、リュウグウが母天体の衝突破片でできたラブルパイル天体であることと合わせて考えると、母天体の内部物質も均質な組成であったと推測される。

リュウグウの形成過程

リュウグウは、そのスペクトル特徴から加熱や衝撃による変成を受けたことが示唆されるが、その変成の原因については、 (1) 母天体内部での放射性加熱、 (2) 母天体が衝突破壊された際の衝撃加熱、 (3) リュウグウが太陽に接近した際の太陽光加熱、などが考えられる。

また、もしリュウグウが隕石カタログにない物質だとすると、加熱や衝撃ではなく、母天体上での水質変成作用が効果的に働かなかったという可能性も残る。これらの答えは、「はやぶさ2」が地球に持ち帰る試料の分析によって明らかになるだろう。

地球の水の起源

リュウグウのようなC型小惑星は、地球に水をもたらした有力な候補の一つと考えられている。実際、地球に存在する水のどのくらいの割合がC型小惑星によってもたらされたかを知るには、地球が誕生した後に衝突した小惑星の数量と合わせて、それらの内部に保持されていた水の量に関する情報が必要であり、そのためには、C型小惑星上で水質変成作用が起きた際の水の行方 (天体の外に放出されたのか、それとも内部に閉じ込められたのか) を理解することが重要である。本研究で得られたリュウグウの地質学的情報と、将来の試料分析から得られる物質科学的情報とを組み合わせることによって、母天体で起きた水質変成作用に関する理解を深めることができ、最終的に地球の水の起源に迫れるだろうと期待される。

助成

本研究は、科学研究費助成事業 (16H04044, 17H0659, 17K05639)、研究拠点形成事業 (International Network of Planetary Sciences) 、並びにアメリカ航空宇宙局 (NASA) Hayabusa2 Participating Scientist Program(NNX17AL02G, NNX16AL34G), NASA’s Emerging Worlds Program (NNX17AK46G), European Union’s H2020 programme(664931)の助成を受けて行われました。

論文情報

タイトル
The surface composition of asteroid 162173 Ryugu from Hayabusa2 near-infrared spectroscopy
DOI
10.1126/science.aav7432
著者
K. Kitazato1,*, R. E. Milliken2, T. Iwata3,4, M. Abe3,4, M. Ohtake3,4, S. Matsuura5, T. Arai6, Y. Nakauchi3, T. Nakamura7, M. Matsuoka3, H. Senshu8, N. Hirata1, T. Hiroi2, C. Pilorget9, R. Brunetto9, F. Poulet9, L. Riu3, J.-P. Bibring9, D. Takir10, D. L. Domingue11, F. Vilas11, M. A. Barucci12, D. Perna13,12, E. Palomba14, A. Galiano14, K. Tsumura7,15, T. Osawa16, M. Komatsu4, A. Nakato3, T. Arai8, N. Takato17,4, T. Matsunaga18, Y. Takagi19, K. Matsumoto17,4, T. Kouyama20, Y. Yokota3,21, E. Tatsumi22, N. Sakatani3, Y. Yamamoto3,4, T. Okada3,22, S. Sugita22, R. Honda21, T. Morota23, S. Kameda24, H. Sawada3, C. Honda1, M. Yamada8, H. Suzuki25, K. Yoshioka22, M. Hayakawa3, K. Ogawa26, Y. Cho22, K. Shirai3, Y. Shimaki3, N. Hirata26, A. Yamaguchi27,4, N. Ogawa3, F. Terui3, T. Yamaguchi28, Y. Takei3, T. Saiki3, S. Nakazawa3, S. Tanaka3,4, M. Yoshikawa3,4, S. Watanabe23,3, Y. Tsuda3,4

1. The University of Aizu
2. Brown University
3. Institute of Space and Astronautical Science (ISAS), Japan Aerospace Exploration Agency (JAXA)
4. The Graduate University for Advanced Studies (SOKENDAI)
5. Kwansei Gakuin University
6. Ashikaga University
7. Tohoku University
8. Chiba Institute of Technology
9. Institut d’Astrophysique Spatial, Université Paris-Sud
10. Jacobs, Astromaterials Research and Exploration Science, NASA Johnson Space Center
11. Planetary Science Institute
12. Laboratoire d’Etudes Spatiales et d’Instrumentation en Astrophysique (LESIA), Observatoire de Paris
13. Osservatorio Astronomico di Roma, Istituto Nazionale di Astrofisica (INAF)
14. Istituto di Astrofisica e Planetologia Spaziali, INAF
15. Tokyo City University
16. Japan Atomic Energy Agency
17. National Astronomical Observatory of Japan
18. National Institute for Environmental Studies
19. Aichi Toho University
20. National Institute of Advanced Industrial Science and Technology
21. Kochi University
22. The University of Tokyo
23. Nagoya University
24. Rikkyo University
25. Meiji University
26. Kobe University
27. National Institute of Polar Research
28. Mitsubishi Electric Corporation
*Corresponding author
掲載誌
Science

3.リュウグウの表面地形、多色画像、熱物性から探る母天体の進化

リュウグウのような1km程度の小惑星は、太陽系初期に形成した大きな母天体の衝突破壊で産まれたと考えられている。本研究は、母天体からリュウグウへの進化の全体像を提唱した。

リュウグウの母天体が小惑星ポラナかオイラリアである可能性が高い。また、地球で得られていない未知の物質の可能性を別にすれば、リュウグウの表面物質の色は、部分的な加熱脱水を経た炭素質コンドライトと最もよく合う。さらに、リュウグウ表面の岩塊の色の分布は、母天体内の異なる加熱脱水条件で形成した物質の混合で説明できる。ポラナとオイラリアは、C型小惑星 (含水鉱物や炭素を含む) の破片を地球に最も多く供給している天体である。小惑星帯から地球が受け取ってきた水や炭素の量は、母天体内での加熱脱水反応の軽重で決まっているのかもしれない。

研究の背景

リュウグウのように直径1km程度の小さな小惑星は、太陽系の歴史では比較的最近 (数億年以内) に母天体の衝突破壊で産まれたと考えられている。リュウグウからの回収試料と太陽系の起源を結びつけるには、リュウグウ自身の進化と共にリュウグウの母天体の素性にまで踏み込んで調べることが重要である。

小惑星の親子関係を調べるには、軌道の整合性と反射スペクトルの類似性が使われる。事前の軌道情報と広義のスペクトル型 (C型) から、リュウグウの母天体には複数候補 (エリゴネ (直径69km)、ポラナ (直径約55km)、オイラリア (直径37km)) が挙がっていた。しかし、エリゴネが含水鉱物を多量に含むCh型なのに対し、ポラーナとオイラリアは含水鉱物の明確な特徴を持たないBないしCb型という重要な差があった。

研究内容と結果

光学航法カメラ(ONC)、熱赤外カメラ(TIR)、レーザー高度計 (LIDAR) から得られる全球観測データ用いて、リュウグウの地質史を明らかにし、母天体の素性解明に迫った。

  • 母天体はポラナかオイラリア
    リュウグウは、ポラナないしオイラリアから産まれた可能性が高いことが分かった。スペクトル型はCbで確定し (顕著な0.7µmの吸収帯が存在せず、可視光全波長域でほぼ一定の反射率を持っている (可視カメラのデータ))、両小惑星と合致する。対抗馬エリゴネはスペクトルの特徴が合わないために候補から外れた。ポラナとオイラリアのどちらが本当の親かはまだ分からないが、両者は非常に良く似ているので母天体進化を考える上では、この不確定性の影響は少ない。

  • 表面年代は若い
    多数の衝突クレーターが見つかったが、小さいクレーターは極めて少なかった。小クレーターは表面の地震動 (主因は恐らく天体衝突) などで地形が崩されて消えたと推測される。崖崩れの証拠も多く見つかった (レーザー高度計のデータ)。こうした地質活動による表面更新のスピードはかなり速い。表層1m程度は、100万年程度以下で物質が入れ替わっている可能性が高い。これは、リュウグウ表面に新鮮な物質が存在する可能性を示唆する。

  • 岩塊の性質
    リュウグウ表面の岩塊の圧倒的多数は、リュウグウの平均値と同じ可視スペクトルを持つ。これは、母天体内部がかなり均一だったことを窺わせる。その一方、少数ながら、平均値と異なるスペクトルを持つ岩塊もある。これらは形態的特徴も平均的な岩塊と異なるため、母天体で経験した温度圧力が異なっている可能性が高い (宇宙風化のような表面的な原因ではない) 。これらのスペクトルの詳細分析からは、2つの傾向が見つかった。1つは、炭素質コンドライトの加熱脱水線と一致する。もう1つは、加熱脱水度の低い炭素質コンドライトと加熱脱水度の高い炭素質コンドライトの混合で説明できる。さらに熱赤外カメラから、岩塊の熱伝導率は非常に低く、小石を寄せ集めた塊と同等であることが判明した。さらに、高解像度画像から、衝突角礫岩の特徴を持つ岩塊が幾つも見つかった。こうした証拠から、リュウグウの岩塊は内部に空隙を多く含む角礫岩状の構造を持つと推定される。

母天体からリュウグウへの進化

上記の結論から、母天体における水質変成、加熱脱水変成、衝突破壊と再集積を経た進化の概略が浮かび上がってくる (下図) 。進化のシナリオには複数候補が残っているが、現在までのデータに基づくと内部加熱 (シナリオ1) の可能性が高い。

母天体からリュウグウ形成までの進化概略図

(画像クレジット 杉田精司ら)

将来展望:取得試料への期待

ポラナとオイラリアは、地球に最も多くの破片を供給してきたC型小惑星である。C型小惑星は含水鉱物や炭素を含むため、地球の表層環境の進化にも大きな影響を与えてきた可能性がある。これは、リュウグウという小惑星が地球や生命の歴史を考える上でも大変に重要な情報を届けてくれる可能性を示唆するものである。

また、ポラナとオイラリアは、衝突分裂の推定年代が大きく異なるので、回収試料分析からどちらが本当の親か確定できる可能性が残っている。

これらの可能性は、リュウグウ試料分析の重要性をいっそう強く示すものである。文献によっては、ポラナやオイラリアのスペクトル型をF型とするものもあるが、これは以前よく使われていた分類法による型である。本質的にはBやCbと同じである。

助成

本研究は、科学研究費助成事業 (JP25120006, 17H01175, JP17H06459, JP17K05639, HP16H04059, JP17KK0097, JP26287108, JP16H4044)、研究拠点形成事業 (International Network of Planetary Sciences)、並びにフランス宇宙機関CNES, Academies of Excellence:Complex systems and Space, environment, risk, and resilience, European Union’s Horizon 2020 Research and Innovation Programme (687378), NASA Hayabusa2 Participating Scientist Programの助成を受けて行われました。

論文情報

タイトル
The geomorphology, color, and thermal properties of Ryugu: Implications for parent-body processes
DOI
10.1126/science.aaw0422
著者
S. Sugita1,2,*, R. Honda3, T. Morota4, S. Kameda5, H. Sawada6, E. Tatsumi1, M. Yamada2, C. Honda7, Y. Yokota6,3, T. Kouyama8, N. Sakatani6, K. Ogawa9, H. Suzuki10, T. Okada6,1, N. Namiki11,12, S. Tanaka6,12, Y. Iijima6, K. Yoshioka1, M. Hayakawa6, Y. Cho1, M. Matsuoka6, N. Hirata7, N. Hirata9, H. Miyamoto1, D. Domingue13, M. Hirabayashi14, T. Nakamura15, T. Hiroi16, T. Michikami17, P. Michel18, R. -L. Ballouz6,19, O. S. Barnouin20, C. M. Ernst20, S. E. Schröder21, H. Kikuchi1, R. Hemmi1, G. Komatsu22,2, T. Fukuhara5, M. Taguchi5, T. Arai23, H. Senshu2, H. Demura7, Y. Ogawa7, Y. Shimaki6, T. Sekiguchi24, T. G. Müller25, A. Hagermann26, T. Mizuno6, H. Noda11, K. Matsumoto11,12, R. Yamada7, Y. Ishihara6, H. Ikeda27, H. Araki11, K. Yamamoto11, S. Abe28, F. Yoshida2, A. Higuchi11, S. Sasaki29, S. Oshigami11, S. Tsuruta11, K. Asari11, S. Tazawa11, M. Shizugami11, J. Kimura29, T. Otsubo30, H. Yabuta31, S. Hasegawa6, M. Ishiguro32, S. Tachibana1, E. Palmer13, R. Gaskell13, L. Le Corre13, R. Jaumann21, K. Otto21, N. Schmitz21, P. A. Abell33, M. A. Barucci34, M. E. Zolensky33, F. Vilas13, F. Thuillet18, C. Sugimoto1, N. Takaki1, Y. Suzuki1, H. Kamiyoshihara1, M. Okada1, K. Nagata8, M. Fujimoto6, M. Yoshikawa6,12, Y. Yamamoto6,12, K. Shirai6, R. Noguchi6, N. Ogawa6, F. Terui6, S. Kikuchi6, T. Yamaguchi6, Y. Oki1, Y. Takao1, H. Takeuchi6, G. Ono27, Y. Mimasu6, K. Yoshikawa27, T. Takahashi6, Y. Takei6,27, A. Fujii6, C. Hirose27, S. Nakazawa6, S. Hosoda6, O. Mori6, T. Shimada6, S. Soldini6, T. Iwata6,12, M. Abe6,12, H. Yano6,12, R. Tsukizaki6, M. Ozaki6,12, K. Nishiyama6, T. Saiki6, S. Watanabe4,6, Y. Tsuda6,12

1. The University of Tokyo
2. Planetary Exploration Research Center, Chiba Institute Technology
3. Kochi University
4. Nagoya University
5. Rikkyo University
6. Institute of Space and Astronautical Science (ISAS), Jap Aerospace Exploration Agency (JAXA)
7. University of Aizu
8. National Institute of Advanced Industrial Science and Technology
9. Kobe University
10. Meiji University
11. National Astronomical Observatory of Japan
12. SOKENDAI (The Graduate University for Advanced Studies)
13. Planetary Science Institute
14. Auburn University
15. Tohoku University
16. Brown University
17. Kindai University
18. Université Côte d’Azur, Observatoire de la Côte d’Azur, Cent National de le Recherche Scientifique (CNRS), Laboratoire Lagrange
19. University of Arizona
20. Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory
21. German Aerospace Center (DLR), Inst. of Planetary Research
22. International Research School of Planetary Sciences, Universi d’Annunzio
23. Ashikaga University
24. Hokkaido University of Education
25. Max-Planck-Institut für extraterrestrische Physik
26. University of Stirling
27. Research and Development Directorate, JAXA
28. Nihon University
29. Osaka University
30. Hitotsubashi University
31. Hiroshima University
32. Seoul National University
33. NASA Johnson Space Center
34. Laboratoire d’Etudes Spatiales et d’Instrumentation en Astrophysique (LESIA)-Observatoire de Paris, Paris Sciences et Lettres (PSL), Centre National de le Recherche Scientifique (CNRS), Sorbonne Univ., Univ. Paris-Diderot
*Corresponding author
掲載誌
Science

研究者