北海道大学大学院理学研究院の鎌田俊一准教授、カリフォルニア大学サンタクルーズ校のフランシス・ニモ教授、東京工業大学地球生命研究所の関根康人教授らの研究グループは、冥王星に関する3つの謎を数値シミュレーションによって同時に解明しました。

 本研究成果は日本時間2019年5月21日公開のNature Geoscience誌の速報 (AOP) 電子版に掲載されました。

 神戸大学からは、人間発達環境学研究科の谷 篤史 准教授が本研究に参加しています。

ポイント

  • 地下に存在する海(内部海)がなぜ凍らないのかなど、冥王星にまつわる3つの謎を同時に解明。
  • メタンハイドレートが内部海を包むように存在することで、冥王星は特徴的な姿に進化。
  • 宇宙にはこれまで考えられてきたよりも多くの海が存在することを示唆。

概要

 冥王星は、太陽系の最果てに存在する地表温度がマイナス220℃の極寒の氷天体です。NASAの探査機が2015年に初めて冥王星を訪れ、分厚い氷の下に海(内部海)が存在すること、赤道域に窒素氷河で覆われた白い巨大盆地が存在すること、窒素の大気が存在することといった驚きの姿を明らかにしました。しかし、なぜこのような特徴的な姿をしているのか、特に、極寒の冥王星で内部海がなぜ凍結せず暖かいままなのかはNASAの探査でも解明されていない難問でした。

 今回、研究グループは冥王星の内部海とそれを覆う分厚い氷の間にメタンハイドレートが存在すると、メタンハイドレートが効率的な断熱材として機能して内部の熱を逃がさず、その結果、表面は極寒でも内部海は凍結しないことを明らかにしました。さらに、このメタンハイドレートの存在から、巨大な盆地が赤道に存在できることや、冥王星が窒素の大気を持つという、冥王星の特徴的な姿を同時に説明できることもわかりました。

 本研究成果は、宇宙における液体の水の存在を考える上で重要です。特に、内部海は地球外生命の存在可能性を考える上で重要ですが、これまで内部海に関する議論は巨大ガス惑星を周回する氷衛星に限られてきました。しかし、今回の発見は冥王星のような衛星ではない多くの氷天体であっても、実は内部海を持つものが広く存在できることを示すものであり、地球外生命の存在可能性をさらに広げるものです。

背景


図1.冥王星の「白いハート」の特徴。
(左) 色彩を強調したカラー画像を元に作成 (NASA/JHUAPL/SwRI)。白いハートは赤道付近に存在する。(右) 地形データを元に作成。ハートの左半分は巨大な盆地である。

 近年の惑星探査により、木星などの巨大ガス惑星を周回し、氷を主成分とする氷衛星のいくつかは海を持つことがわかってきました。このような海は「氷地殻」と呼ばれる厚い氷の下に存在するため、「内部海」と呼ばれています。内部海が凍結しない原因を解明することは、生命を育みうる海が宇宙のどこにどれだけあるかを理解する上で欠かせません。NASAの探査機ニュー・ホライズンズによる冥王星探査により、赤道付近に白いハートに見える地域が観測され、その左半分は巨大な盆地であることがわかりました (図1)。この事実から、冥王星の氷地殻の下にも内部海が存在すること、そして巨大盆地の地下では氷地殻が薄く、その分内部海が厚いことがわかりました (図2)。もし内部海が厚くないと、巨大盆地が極に向かうように冥王星は自然と回転してしまうからです。しかし、これまで冥王星は氷衛星よりも冷たく熱源にも乏しいため、内部海は既に完全に凍結したと考えられていたことや、長い時間をかければ氷も水飴のように振る舞うため、氷地殻の凸凹がならされたと考えられていたことから、今回判明した地下構造は全く予想できなかったものでした。

 さらに、この地下構造のほか、冥王星の物質についても謎がありました。それは、冥王星の表面や大気は窒素に富み一酸化炭素が少ないのに対し、冥王星と同じような場所で形成し、同じような物質で構成されていると考えられる彗星は反対の組成を持つということです。

 このように、NASAの探査以来、冥王星が特徴的な姿をしている理由は全くの謎とされてきました。

研究手法


図2.本研究で提唱する冥王星の内部構造。氷地殻と内部海の間にガスハイドレート層が存在する。

 研究グループは、主にメタンを閉じ込めたガスハイドレートが内部海と氷地殻の間に存在する (図2) という新たなアイデアに基づき、2種類の数値計算を実行しました。ガスハイドレートは水分子でできた「かご」の中に気体分子を閉じ込めた氷のような物質です。特に、メタンを閉じ込めたメタンハイドレートは地球の海底にもあり、天然資源として近年注目されています。

 本研究では、メタンハイドレートが通常の氷と比べて熱伝導性が悪く高い粘性をもつことに着目しました。地球の海と異なり、冥王星の海の上には厚い氷地殻があるために海上でも低温・高圧であること、また元々存在するであろうメタンや一酸化炭素に加えて、有機物の熱分解などにより海底からメタンなどが持続的に供給されうることから、海上ガスハイドレート層の形成と維持に必要な条件が揃うこともわかりました。

 1つ目の数値計算は、太陽系が形成されてから現在までの約46億年間に及ぶ冥王星内部の熱・構造進化シミュレーションで、内部海の凍結に要する時間を算出しました。もう1つの数値計算は氷地殻の長期粘弾性変形※1シミュレーションで、氷地殻の厚さの均一化にかかる時間を算出しました。

研究成果

 1つ目のシミュレーションの結果、メタンハイドレートが存在しない場合は何億年も前に内部海は完全に凍結しますが、存在する場合には内部海はほとんど凍結しないことがわかりました (図3)。この結果は、メタンハイドレートが断熱材として効率的に機能し、その下にある内部海は長期間暖かいままとなる一方で、氷地殻はすぐに冷えて硬くなるため、天体内部がより一層冷えにくくなることを示しています。

 また、2つ目のシミュレーションの結果、メタンハイドレートが存在しない場合には氷地殻厚の均一化にかかる時間はたった100万年程度ですが、存在する場合には10億年以上かかることがわかりました。これは、メタンハイドレートの粘性が高いことに加えて、その上の氷地殻が冷えて硬くなるためです。メタンや一酸化炭素などはガスハイドレートに取り込まれやすいため、地下のガスハイドレート層に貯蔵されて地表にあまり出てこられない一方で、窒素分子は取り込まれにくいため表面に出てきます。このような理由で、地下のガスハイドレート層が特定の分子だけを吸着するフィルターのように機能するために、一見すると不思議な窒素に富む表層になることがわかりました。


図3.冥王星内部の熱・構造進化シミュレーションの例。
(左) メタンハイドレートが存在しない場合、内部海は完全に凍結してしまう。(右) メタンハイドレートが存在する場合、内部海は凍結しない。

今後への期待

 本研究は、内部海の長期維持メカニズムを新たに提唱するものです。比較的大きな氷天体であればガスハイドレートの形成・維持条件が満たされるため、その存在を想定した内部海研究の進展が期待されます。また、内部海がなく生命とは無縁と予想されてきた氷天体であっても、地下にガスハイドレートがあれば内部海が維持されている可能性があり、それは一見不思議な元素組成という観測できる形で推察できることも分かりました。この結果は、今後の惑星探査に有用であることに加え、宇宙における海や生命の研究において基本的な考え方になると期待されます。

 なお、本研究の一部は日本学術振興会科学研究費補助金 (JP16K17787、JP17H06456、JP17H06457) と自然科学研究機構アストロバイオロジーセンター・サテライト研究の助成を受け、実施しました。

用語解説

  • ※1 長期粘弾性変形 … 固体物質の地質学的時間スケールにおけるゆっくりとした変形のこと。

論文情報

・タイトル
Pluto’s ocean is capped and insulated by gas hydrates” (冥王星の海はガスハイドレートに包まれ断熱されている)
DOI:10.1038/s41561-019-0369-8

・著者
鎌田俊一1、フランシス・ニモ2、関根康人3、倉本 圭1、野口直樹4、木村 淳5、谷 篤史6
  • 1 北海道大学大学院理学研究院
  • 2 カリフォルニア大学サンタクルーズ校
  • 3 東京工業大学地球生命研究所
  • 4 徳島大学大学院社会産業理工学研究部
  • 5 大阪大学大学院理学研究科
  • 6 神戸大学大学院人間発達環境学研究科

・掲載誌
Nature Geoscience

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