生物の設計図・ゲノム。すべての細胞の中にある染色体・遺伝子が生命の情報を記録している。その染色体・遺伝子を改変するゲノム編集技術が急速に発展し、創薬や遺伝子治療、作物・家畜の改良、石油資源を代替する有用微生物の創出など、社会に大きなインパクトを与え始めている。ゲノム編集の新技術を開発した科学技術イノベーション研究科の西田敬二教授は、研究成果を事業化するベンチャー企業も設立し、研究と起業の両面でゲノム編集の最前線を切り開いている。
主配置 大学院科学技術イノベーション研究科 科学技術イノベーション専攻
研究発表等
  • ゲノムを切らずに書き換える新たなゲノム編集技術の開発
  • 遺伝子特異的超進化の実現に向けて
  • 酵母で創って解析する第六感発現のメカニズム
関連キーワード 合成生物学、ゲノム編集技術、合成進化工学、ゲノム編集、Target-AID、脱アミノ化酵素、細胞毒性
詳細情報

西田教授:
 5年間米国で研究に取り組んだ後、帰国した日本ではゲノム編集の分野が遅れていることに気付きました。ゲノム編集の技術を使って研究する人は多いのですが、ゲノム編集技術そのものを研究している人が少ないのです。ゲノム編集のツールは生命現象を扱うどの分野にも波及するし、神戸大学の研究とも相乗効果が見込めるので、この分野の研究に取り組むことにしたのです。

神戸市出身。東京大学理学系研究科生物科学専攻で生物進化を分子レベルで解明する研究に取り組み、博士号を取得した。2008年から5年間は、米国ハーバードメディカルスクールで研究を進めた。

 進化の研究は、昔の生物の成り立ちを調べることですが、かなりの部分やり尽くされていて、細分化された分野の研究にならざるを得ません。この先は研究者として別の分野を考えた方が良いと思い、米国で発展していた「合成生物学」に研究をシフトしました。いわば進化を再現するプロセスです。磁石に応答する微生物のメカニズムを酵母細胞に入れる研究などに取り組みました。いかに効率よく遺伝子を改変するかが重要ですが、手間がかかり思い通りにならないことを実感していました。どうしてもゲノム編集の研究に行き着くのです。

2013年に帰国し、神戸大学に着任。

 ハーバードにそのまま残ることも、東京大学に戻ることも選択肢でしたが、バイオプロダクション次世代農工連携拠点などの研究プロジェクトをリードし、現在大学院科学技術研究科長の近藤昭彦教授の研究チームが、私の関心を追究するのに最も良い環境だと考えました。着任時点では具体的な研究テーマは決めていませんでしたが、近藤研のあらゆる研究分野に波及効果が期待されるゲノム編集の技術開発を研究することにしました。

帰国前年の2012年、ゲノム編集を効率化する画期的手法「CRISPR/Cas9」が開発された。

 「すごい研究が出た」という印象を受けました。しかし「CRISPR/Cas9」は標的とする部位においてDNAを切断し、DNAが修復する際に目的の遺伝子が改変することを期待するものですが、意図した改変が起こるとは限らない不確実性や、対象の細胞が死んでしまう「細胞毒性」が問題になります。そこで「DNAを切らずに書き換えるゲノム編集技術」を目指しました。在米中から興味を持っていた脱アミノ化酵素(デアミナーゼ)を使う新たなゲノム編集技術「Target-AID」を開発しました。

 研究開始から論文発表までは2年余かかりましたが、コンセプトを考えてから3~4か月の実験で技術は確立しました。手をつけられていない分野が多い方がブレイクスルーを起こすことが容易なので、研究者は新しい分野を選んで挑戦することが重要だと思いますね。

2016年8月5日に科学誌「Science」に論文がオンライン掲載され、国内の多くのメディアでも報道された。同年4月、神戸大学に新研究科・科学技術イノベーション研究科が発足した。理系、医系の研究者に加え、知財、ファイナンスなど経営学分野の研究者も所属し、研究成果の企業化を視野に入れた教育・研究を進めている。最初の成果として、西田教授の研究成果を活用するベンチャー企業「バイオパレット社」を2017年2月に設立した。

 研究を世に出す方法として、論文だけでなく、役に立つことを分かりやすい形で示す「起業」も大切だと考えています。米国滞在中から、「自分の研究成果を商業化出来れば…」と漠然と考えていましたが、科学技術イノベーション研究科の発足はちょうど良いタイミングでした。他大学ではこんなに短期間にベンチャー企業を興すことは出来なかったと思います。

米国ではゲノム編集のベンチャー企業が巨額の資金を集めると同時に、特許紛争も激化している。資金調達、知財戦略にスピード感を持って取り組む必用がある。17年5月には米国ボストンに本拠を置く大手ファンドから約4億円の出資を受けた。

 我々の技術は良くも悪くも国内にとどまることができません。海外を主戦場にやって行かざるを得ないのです。特許、知財戦略の世界の状況を把握し、海外の大学、ベンチャー企業とアライアンス(提携)も含めた交渉も必要になってきます。主戦場の米国ボストンに強いファンドと組むことで、世界に展開できる体制を構築したいと考えています。

 ゲノム編集技術は医療、農業、微生物など多くの分野に適用できるポテンシャルを持っています。現在、バイオパレット社では具体的なターゲットの選択など事業構築を始めたところです。大学教員はベンチャー企業に取り組むのにとても恵まれた立場にあると思いますので、今後も研究と起業の両面で世の中の役に立つことを目指していきます。

略歴

2006年3月 東京大学大学院理学系研究科博士課程生物科学専攻 修了
2006年4月 立教大学理学部博士研究員
2006年4月~2008年3月 日本学術振興会特別研究員(PD)
2008年4月 ハーバード大学医学部博士研究員
2009年4月~2011年4月 日本学術振興会海外特別研究員
2013年6月 神戸大学自然科学系先端融合研究環 特命准教授
2016年4月 神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科 特命准教授
2016年11月 神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科 教授

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