神戸大学

神戸大学と沢の鶴 (株) が新しい日本酒を開発しました

2010年11月10日

日本酒「茜彩」

神戸大学は沢の鶴株式会社との共同研究により、新しいタイプの日本酒を開発しました。「茜彩 (あかねいろ)」と名づけ、同社が11月15日に発売します。

大学にとっては、富久錦と共同開発した「神戸の香」に次いで、2番目の日本酒です。開発の鍵になった酵母は、外国人留学生が両者の所在地である神戸市灘区一帯を探し回った末、「神戸市民の木」であるサザンカから分離に成功しました。

神戸大学生協の一部売店 (電話 078-882-3132) でも販売します。

日本酒「茜彩」の共同開発と発売について

▽沢の鶴 (株)
▽国立大学法人神戸大学
(2010年11月5日)

沢の鶴 (株) と神戸大学は、共同研究により新しいタイプの日本酒「茜彩 (あかねいろ)」を開発し、11月15日、沢の鶴から新発売します。両者の所在地である神戸市灘区と大学との連携協定が、共同研究のきっかけになっており、産学官の協力が実りました。

「茜彩」は名の通り薄いあかね色で、「神戸市民の木」であるサザンカから分離に成功した有用酵母と、赤米を使っています。甘酸っぱいおいしさなのに、すっきりしたのどごしに仕上がりました。

茜彩 (あかねいろ)

  • アルコール分: 14.5度
  • 日本酒度: -60
  • 原材料: 米、米麹 (こうじ)、醸造アルコール。米は赤米 (紫黒米)。サザンカから分離した酵母を使用。赤米特有の香りを酵母のエステルがマスキングしている。
  • 容量: 300ml
  • 参考小売価格: 379円 (税別)
  • 発売日: 2010年11月15日

開発の経緯

  • 灘区と神戸大学 (灘区六甲台町) は2004年12月、連携して地域社会の発展に尽くす「連携協力に関する協定書」を結びました。
  • これに基づき、神戸大学と沢の鶴 (灘区新在家南町) は2006年10月、「灘区発、灘の酒物語創出プロジェクト」と名づけた共同研究を始める「連携協力に関する覚書」を締結。さらに、具体的な協力を取り決めた「共同型協力研究契約」も結びました。
  • ガクアジサイ、シロタエギク、ハルシャギク、ヒマワリ、コスモスなど、様々な植物の花から1250菌株の酵母を採取し、選抜した結果、サザンカからアルコール発酵能力のある有用酵母を分離しました。
  • サザンカの花は白から赤まで多彩ですが、酒造りには薄い赤色のサザンカを使用しました。サザンカは、1971年に制定された「神戸市民の木」でもあります。

以上

野生酵母から茜彩へ

▽神戸大学農学研究科教授 土佐幸雄
(植物病理学研究室)

プロジェクトの目標は、灘区の花から野生酵母を分離してこれまでにない新しい酒をつくることであった。我々は、酒酵母に関する経験があるわけではなかったが、植物病理学研究室という分野の性格上、病害診断のために野外を歩き、さまざまな微生物(主に菌類)を植物から分離するというトレーニングを常日頃から学生に課しており、そのような少し変わった視点を持つ者が加われば常識にとらわれないユニークな貢献ができるかも知れないと考え、参画することにした。

2006年10月から酵母の採集を開始した。本プロジェクトの主担当として、我々の研究室で博士号を取得したばかりのベトナム人留学生Dr.Vu Thi Bich Hau※を採用した。彼女は精力的に灘区内を歩き、花を採集し、研究室に持ち帰って分離作業を行った。六甲山等歩いて行くのが困難なところは、車を運転できる者が案内した。日本語を流暢に話せない外国人であるが故の苦労もあったようで、公園で花びらを摘もうとしたら近くにいた人に何をしているのか尋ねられたこと、慣れない日本語で目的等を真摯に説明したら自宅の垣根の花を採集させてくれるなど、とても親切な協力を得たことなどを話してくれた。彼女は花の和名がわからないので、採集した花はすべて番号をつけて写真にとり、それを持ち帰ってコンピュータに保存し、適宜我々がその和名を同定することとした。

一方、採集・分離した酵母系統は逐次沢の鶴担当者に持ち帰ってもらい、スクリーニングにかけた。2年間があっという間にすぎ、その間に分離・検討した酵母菌株は、1250菌株に達した。

2009年12月にはいくつかの有望菌株を用いて作られた試作品を、学生とともに試飲した。私は酒に弱くこの試作品評価においてはほとんど役に立たなかったが、幸い研究室の学生には酒の味に一家言あるつわものが揃っており、沢の鶴の担当者にも、彼らの意見は大いに参考になったのではないかと思う。その後の沢の鶴の方々の努力と工夫の結果、我々の分離した酵母が「茜彩」という形に結実した。

いま、美しいボトルに収まった茜彩を手にすると、野外から拾ってきた「野生児酵母」が沢の鶴という名伯楽の手によって立派に育った様子を見るようで感無量である。Dr.Hauはすでにベトナムに帰国して母国で植物病理学研究を開始しているが、いつかベトナムを訪れる機会があったら茜彩で乾杯したいものだと思っている。

以上

※留学フェアでベトナムを訪れる教職員に託し、本学は11月19日、Dr.Hauに「茜彩」を届けました。(広報室)