Kobe University

「兵庫国際交流会館における国際交流拠点推進事業 (G-Navi)」キックオフシンポジウムを開催しました

2017年03月06日

神戸大学国際教育総合センターは、2017年1月27日、兵庫国際交流会館において、シンポジウム「留学交流を通じた多文化共生」を開催しました。本シンポジウムは、センターが日本学生支援機構 (JASSO) 委託事業として2016年10月より受託した「平成28年度兵庫国際交流拠点における国際交流推進事業 (通称G-Navi, Global Nada Village)」の一環として、一般社団法人大学コンソーシアムひょうご神戸との共同事業体である「兵庫国際交流拠点推進協議会」との共催となりました。

兵庫国際交流館長の米川英樹日本学生支援機構理事の開会挨拶と朴鍾祐国際教育総合センター教授による趣旨説明に続き、第1部では、地域の日本語学習支援、年少者の言語教育、識字・日本語学習等に関連した実践・施策等に長年取り組まれている野山広氏 (国立国語研究所日本語教育研究領域准教授) による基調講演「多様性を意識した地域日本語教育の展開と留学生の存在の重要性:日本の人口減少と多言語・多文化化の現状を踏まえつつ」が行なわれました。

野山氏は、日本における人口減少と外国人定住者の増大、留学生政策の展開といった近年の社会背景を整理したうえで、異なる言語・文化背景や価値観を持った人々とのコミュニケーション (対話) の重要性や、地域社会・関連機関の責任と役割を述べ、それらを視野に入れた地域日本語教育において重要な存在となる「地域コーディネーター」について、高等教育機関における育成事例を紹介しました。また、地域やコミュニケーションの場面において重要な貢献を果たす留学生に対しての日本語教育や就職支援について、抜本的な充実が必要であることを、e-ラーニングによる遠隔教育や、大学卒業後のネットワークの整備、産学官連携による地域の外国人受け入れ態勢の総合的推進といった具体的観点から述べました。今後の課題を述べる中で、近年では日本語教育推進のための法制度化に向けた進展や、教育保障学会の設立といった新しい動きが見られることも紹介されました。

続く第2部個別講演では、留学生が主体となる取り組みについて、3つの異なる観点から事例報告がなされました。「外国人児童支援と留学生」では、地域社会を支援する主体としての留学生という観点で、まず国際教育総合センター齊藤美穂准教授が、外国人児童生徒に対する日本語指導について、兵庫県下における現状と、支援の重要性を第二言語習得理論の観点から紹介しました。そののち、地域での外国人児童生徒への支援ボランティア活動に取り組む国際文化学研究科修了生の呂欣氏 (中国出身) の報告がなされました。留学生が日本語指導に関わることの意義・効果について、支援を受ける児童生徒と支援に携わる留学生の立場から述べるとともに、日本語の学習のみならず、教科学習とアイデンティティ維持にとって不可欠な「母語の維持」が重要であることも確認されました。また齊藤准教授からは、神戸大学修了留学生が多数参加する「アインモンゴル語・文化教室」の取り組みが紹介され、外国人児童生徒支援の広がりと意義とともに、人材確保・育成とシステム作りが留学生をサポートする大学の側の課題であることが述べられました。

「異文化理解と留学生」では、日本人学生との共修の主体としての留学生という観点で、北海道大学国際教育研究センター青木麻衣子准教授が、「多文化交流科目」の実践報告を行いました。「多文化交流科目」は留学生と日本人学生がともに日本語で学ぶことを原則とした問題解決型・プロジェクト型の授業であり、留学生の日本語力の向上のみならず、大学への所属意識の高揚や、汎用的能力 (ジェネリック・スキル) の育成といった意義を持つものであることが述べられました。一方で、留学生数の確保や日本語力の問題や、日本人学部学生と研究生・大学院生が中心の留学生の間に「共通の土台」が少ないことなどの課題が、広報や他部局との連携といった解決方策とともに挙げられました。そのうえで、実際の多様な提供科目と地域性を活かしたユニークな授業例が紹介されました。

「地域外国人支援と留学生」では、地域から支援を受ける主体としての留学生という観点で、特定非営利活動法人国際社会貢献センター (ABIC) の田中武夫氏が、東京国際交流館を拠点とした留学生・外国人研究者支援の取り組みについて報告しました。東京国際交流館設立の2001年以来、海外でのビジネス・駐在経験のあるボランティアスタッフによって、「日本語広場」や日本文化教室での交流を中心とした活動がなされていることが述べられました。また、行政との連携による留学生とその家族の健康管理・相談といった生活支援、独自の日本語教師養成講座の開講といった、綿密で持続的な支援のあり方が提示されました。近年では兵庫国際交流会館においても在館留学生を主な対象とした日本語教室や文化教室が開講されており、活動の広がりを見せていることが紹介されました。

個別講演の後には、フロアを交えて活発な討論が行われ、本シンポジウムのテーマの重要性を伺えました。最後に国際教育総合センター留学生教育部門副部門長の高梨信乃教授より総括が行われシンポジウムが終了しました。
本シンポジウムでは、「留学生30万人計画」が大きな目標となっている中で、留学生との交流・共修、留学生への支援に関わる人々が「多文化共生社会」の実現にむけ、立場を越えて連携する必要があることが改めて確認されました。その一歩として、国際教育総合センターも地域社会の一員として、地域の様々な機関・団体との連携のもと、より開かれた交流・教育の機会を提供していきたいと考えています。そのうえで本シンポジウムが、留学生に対する交流・共修・支援の多様なあり方において、多大な示唆を与えるものとなりました。

(国際教育総合センター)