神戸大学大学院人間発達環境学研究科の佐賀達矢助教は、オーバーン大学生物科学部(アメリカ合衆国)のMichael L. Smith 助教らの国際研究チームに参加し、ミツバチと社会性カリバチは巣作り中に生じる建築上の問題に対して、互いに独立して、同じ幾何学的な解決策をとるように進化していることを明らかにしました。本研究は、複数の動物個体が協力しつつも、中央集権的な制御を受けずにいかに適応的な構造物を構築しているかについての理解を深めるものです。

この研究成果は、7月28日(日本時間)に PLOS BIOLOGY に掲載されました。

ポイント

  • ミツバチ属と社会性カリバチのクロスズメバチ属において、六角形の部屋で幼虫を育てるという手法は独立して進化したが、六角形が規則正しく並べられない時に、五角形と七角形の部屋のペアを作るという収束的な解決策を採用していることを明らかにした。
  • 数学的なモデルによって、大小の六角形の部屋の大きさの不一致から五角形と七角形の頻度の予測に成功し、このことからミツバチ属とクロスズメバチ属の蜂も幾何学的な規則に基づいて巣作りをしていると考えられる。

研究の背景

ミツバチ属と社会性カリバチの蜂は1億7900万年前に互いの祖先から分岐した後に進化したと考えられています。ミツバチは蜜蝋を、社会性カリバチは木材を巣の材料としつ、どちらも幼虫を育てる部屋(育房)の形として六角形の部屋(育房)を作ることがその起源が異なりながらも進化しています。六角形からなる構造はハニカム構造とも呼ばれ、強度と各部屋の面積を最大化し、また、建築に必要な材料が最小限に抑えられることが知られています。

ミツバチ属と、社会性カリバチのクロスズメバチ属の働き蜂は、繁殖虫(新女王とオス)が働き蜂よりも体が大きいために、繁殖虫(新女王とオス)になる幼虫を大きい育房で、働き蜂になる幼虫を小さい育房で育てます。一方で、このように2つの異なる大きさの六角形の育房を1枚の巣盤に並べようとすると、どこかで整合性がとれなくなり、六角形の育房を規則正しく並べることができなくなる建築上の問題が生じます。この問題に対して、ミツバチ属とクロスズメバチ属の蜂がどのように対処しているのかは明らかになっていませんでした。

研究の内容

ミツバチ属とクロスズメバチ属の蜂が異なる大きさの育房を巣盤に並べる際に生じる問題をどのように解決しているのかを調べるために、Michael L. Smith助教が、神戸大学の佐賀助教を含む、親交があるアメリカ合衆国、タイ、ニュージーランドの研究者と協力し、ミツバチ属とクロスズメバチ属のそれぞれ5種の巣の写真を集め、22745育房のデータを分析しました。

その結果、ミツバチ属とクロスズメバチ属の蜂は、小さな育房と大きな育房の間の移行部で同じ建築手法を採用していることを発見しました。小さな育房と大きな育房の大きさの差が大きくなるにつれて、働き蜂は六角形以外の育房を作っていることを発見しました。この非六角形の育房は、ほとんどが五角形と七角形の育房のペアで、2種類の大きさの育房をもつミツバチ属とクロスズメバチ属の全種に見られました (図1)。

図1. 移行部の五角形と七角形の育房のペア

図中のApis mellifera:セイヨウミツバチ、Vespula shidai:シダクロスズメバチ、Vespula vulgaris:キオビクロスズメバチは日本国内でも見られる。

図2. シダクロスズメバチの巣盤の一部

青色が小さい育房、赤色が大きい育房、緑や黄色は中間サイズの育房。

さらに、2種類の育房の大きさの差異が小さい場合には、それらの間に中間サイズの六角形の育房を作っていることも発見しました (図2)。六角形の育房からなる巣盤の構造を数学的にモデル化して予測したところ、大きさの異なる育房間の移行部において、実際の蜂の巣で見られる中間の大きさの育房と五角形/七角形の育房から巣盤が作られるパターンが生成されました。

ミツバチ属とクロスズメバチ属は1億7900万年に分岐し、異なる起源から六角形の育房を作る進化をしたにもかかわらず、本研究の解析結果は、どちらの蜂も、さまざまな大きさの子どもを収容できる巣を作るという建築上の課題に対して、同じ幾何学的な解決策に収束したことを示しています。

今後の展開

本研究は、複数の動物個体が協力しつつも、中央集権的な制御を受けずにいかに適応的な構造物を構築しているかについての理解を深めるものです。今後は、障害物などによって巣が規則正しく拡張できない場合にどのような対応をするのか、巣が壊れた時にどのように修復するのかなどの行動についても研究していきたいと考えています。進化は課題を最適に解決する傾向があり、生物の進化を研究することで人間が考えもつかなかった問題解決策を知ることができるかもしれません。

論文情報

タイトル
Honey bees and social wasps reach convergent architectural solutions to nest-building problems
DOI
10.1371/journal.pbio.3002211
著者
Michael L. Smith
Kevin J. Loope
Bajaree Chuttong
Jana Dobelmann
James C. Makinson
Tatsuya Saga(佐賀達矢、神戸大学大学院人間発達環境学研究科)
Kirstin H. Petersen
Nils Napp
掲載誌
PLOS BIOLOGY, 21(7): e3002211.