都市安全研究センター 吉岡祥一教授

1月1日に発生した能登半島地震は、地震大国・日本の課題をあらためて示した。1995年の兵庫県南部地震 (阪神・淡路大震災) を超えるマグニチュード(M)7.6を記録し、地形を変えるほどの大規模な地盤の隆起も起きた。余震の多さも際立っている。能登半島の地下では何が起きたのか。都市安全研究センターの吉岡祥一教授 (地震発生メカニズム) に、今回の地震の特徴や今後の対策について聞いた。

阪神・淡路の8倍のエネルギー

能登半島地震の一報を聞いて、まずどう感じましたか。

吉岡教授

発生時は神戸市の自宅にいました。スマートフォンで緊急地震速報を聞いたのですが、揺れを感じず、誤報かと思いました。その後、テレビをつけると大きな地震だったことが分かり、知り合いの海外の研究者からも情報が入りました。

世界のどこかで大地震が起こると、アメリカ地質調査所 (USGS) が解析し、情報を発信します。そうした科学的情報を見ながら、今回の地震について分析し始めました。

能登半島地震で断層が動いた範囲は約150キロにもなります。兵庫県南部地震が約50キロですから、かなり大きいことが分かります。地震のエネルギーでいうと、兵庫県南部地震の約8倍にもなります。

(図1) 1月1日午後4時10分ごろに発生した地震の震度 (気象庁発表資料から)
(図2) 能登半島周辺の地震の震央分布図 (気象庁発表資料から)

能登半島の地下では何が起きたのでしょうか。

吉岡教授

能登半島北部直下の活断層が上下方向に動いた逆断層型の地震です。地震波の解析から、半島の北端直下で大きくずれ動き、半島と佐渡島 (新潟県) の間の海底活断層でも大きな動きがあったことが分かっています。上下方向の動きによって陸側がせり上がり、輪島市の沿岸では最大約4メートルも隆起したといわれています。

こうした隆起は能登半島で5000年に1回程度起きているとされ、それを示す階段状の地形がみられます。この地形の変化は、元に戻らない永久的な変位です。日本の地図が変わってしまうということです。

今回、道路や水道管などのインフラが甚大な被害を受けたのは、こうした永久的な変位と強い揺れが影響していると考えられます。揺れの強さの目安になる最大加速度は、志賀町で2828ガルを記録しました (兵庫県南部地震は神戸海洋気象台で891ガル)。1000ガルを超えると地表近くに埋まっていた石が地上へ飛び出すといわれているので、大変な揺れです。

能登半島では、2020年末から群発地震が続いていました。2023年5月には、M6.5 (珠洲市で震度6強) の地震も発生しました。今回の地震との関連は?

吉岡教授

能登半島の群発地震は収束していく可能性もありましたが、一方で、大規模な地震のきっかけになるという説を唱える研究者もいました。一般的に、群発地震は大きな地震につながるというより、小さな地震が継続して起こるものです。しかし、今回は悪いほうの結果になってしまいました。

地震調査委員会 (政府の地震調査研究推進本部に設置されている研究者組織) も指摘していますが、能登半島の一連の地震は地下の流体、つまり水の移動が関与していると考えられます。これは、太平洋プレートから上がってきた水です。岩石の中に含まれる水は、ある温度・圧力の条件になると溶け出します。それが上昇して能登半島の直下のあたりに溜まり、約3年にわたる群発地震を誘発してきたと推測されます。流体は潤滑油のような働きをするので、断層面がずれ動きやすくなるのです。今回の地震は、少しずつ場所を移動していた流体が主断層を刺激した可能性が高いでしょう。

(図3) 能登半島における群発地震の仮説イメージ

過去の群発地震でも、水が関与した例があります。1965年に始まった長野県の松代群発地震 (最大震度5) は約5年半続き、地下から大量の水が噴出した後、収束していきました。今回の地震が起きる前、能登半島でも同じような現象が起こるのではないか、と推測する研究者もいました。

(図4) 能登半島地震の余震の状況 (気象庁発表資料から)

断層の破壊領域の大きさが余震の多さに影響

今回の地震は、余震の多さも特徴のようにみえます。

吉岡教授

大きな地震は断層の破壊領域が大きいため、断層面上のいろいろなところで余震が起こります。それを積算すると、時間あたりの余震の数は多くなります。今回、約150キロという非常に大きな領域が破壊されたので、数が多くなっていると考えられます。

また、断層が地表から10数キロの浅いところで動いていることも、余震の多さにつながっているかもしれません。深さ15キロくらいのところまでは、岩石が「バキッ」という感じで割れるのですが、その深さの範囲で、本震のとき断層が滑らなかったところが残っていると、割れが生じて余震が発生しやすくなります。一方、それよりも深いところでは、温度が高く、流動的で、断層は「ズルズル」と動くので、余震は起こりません。

今回は、津波が早く到達したのも特徴でした。

吉岡教授

海岸に近い活断層が大きく動いたため、津波が早く到達したと考えられます。地震発生から1~2分以内で到達した地域もあったようです。活断層の動きだけでなく、海底での地すべりも津波発生の一因と指摘する研究者もいます。

兵庫県南部地震の後、地震調査委員会は国内の活断層を調べ始め、100以上の主要活断層の調査を終えています。しかし、ほとんどは陸域の活断層で、海域の活断層は西日本の一部を除いてまだ着手されていません。調査によって過去の活動履歴などが分かるのですが、海域の調査は非常に難しく、時間もかかります。能登半島地震が発生した地域周辺の海域の活断層も、まだ調査は行われていませんでした。

今回の地震がほかの地域での地震発生に影響することは考えられますか。

吉岡教授

ほかの地域の地震に影響するかは分かりませんが、南海トラフ巨大地震の発生が近づくにつれ、内陸部で地震活動が活発化することが分かっています。今後も、内陸部で大地震が発生する可能性があります。

南海トラフ巨大地震は、90~150年周期で発生しています。前回の地震は1944年の昭和東南海地震と46年の南海地震だったので、すでに80年が経過しています。授業では学生たちに「南海トラフ巨大地震は、少なくとも皆さんの子ども世代までには起こる」と伝えており、備えは必ず必要です。

能登半島地震では、揺れによる家屋倒壊、火災、津波、液状化と、地震で起こりうる被害がすべて同時に起こりました。南海トラフ巨大地震では、そうした被害が西日本の広範囲で発生することを理解しておかねばなりません。

津波対応と倒壊家屋での救助、情報の一元化を

わたしたちはどのように備えればよいでしょうか。

吉岡教授

能登半島地震の被害を見て感じたのは、津波避難を呼びかけるだけでなく、津波への対応と家屋の下敷きになっている人々の救助について、情報を一元化して考える必要があるということです。南海トラフ巨大地震の対策として、情報を一元化できるシステムを作り、自衛隊や救助隊の派遣、海外からの支援受け入れなどを迅速に行うことが求められます。

個人や地域でできる対策として最も重要なのは、やはり建物の耐震化です。建築基準法が改正された1981年以前の建物で耐震化をしていない場合は、特に対応が急がれます。また、1日の約3分の1は寝ている時間ですから、寝室に家具を置かない、山などの傾斜地から離れたほうに寝る、2階建て住宅の場合は2階で寝る、といった対策も大切です。

住んでいる地域の地震の危険性について、情報を収集することも重要でしょう。防災科学技術研究所がネット上で公開している全国地震動予測地図などは、地図上で自宅がある場所の揺れやすさや危険度を知ることができるのでぜひ活用してほしいと思います。

吉岡祥一教授 略歴

1985年3月神戸大学理学部 卒業
1990年11月京都大学大学院理学研究科 地球物理学専攻 博士号取得
1990年12月日本学術振興会 特別研究員
1994年4月愛媛大学理学部地球科学科 助手
1997年8月九州大学大学院理学研究院 地球惑星科学部門 准教授
2009年10月神戸大学都市安全研究センター 兼 大学院理学研究科 教授
(2020年4月~2022年3月 都市安全研究センター長)

研究者

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