大腸上皮細胞の微絨毛部に存在するSAP-1。
赤:SAP-1 緑:β-catenin 青:核

 クローン病や潰瘍性大腸炎といった炎症性腸疾患は、腹痛や下痢、血便、発熱、体重減少を伴う原因不明の疾患。患者は日常的な活動に長期間支障をきたし、大腸がんのリスクが高まり重症な例では死に至ることもあります。日本での患者数は約20万人近く、指定難病のひとつとなっています。これまで、炎症を抑える効果のある薬剤が一定の治療効果をもたらしていましたが、より根本的な治療薬の開発が望まれています。

 最近では、腸内部の腸上皮細胞が腸の炎症の制御に重要な役割を果たすことが報告されていましたが、そのメカニズムについては十分に分かっていませんでした。的崎教授と村田准教授らは、腸上皮細胞の中でも一番内腔側にある微絨毛と呼ばれる構造に集まっているSAP-1という分子を発見していました。SAP-1は、細胞膜に存在して、その頭の部分を腸の内腔に出しており、細胞の中の部分にはチロシンホスファターゼという酵素の活性を持っています。今回、SAP-1の機能を知るために、SAP-1をなくしたマウスを作ったところ、このマウスは、腸炎が起こり易い条件下では腸炎の発症率と重症度が著しく高まることが確認されました。すなわち、SAP-1は腸炎の発症を防ぐ機能をもつことが考えられます。

 さらに、SAP-1は同じく腸上皮細胞の微絨毛に存在するCEACAM20という分子の機能をチロシン脱リン酸化を介して抑制することで、腸炎の発症を防いでいる可能性が高いことがわかりました。この研究成果によって、これまで不明であった腸上皮細胞による腸炎制御のメカニズムの一端が明らかになりました。また、SAP-1やCEACAM20の機能を制御する薬剤が、難病である炎症性腸疾患の克服に繋がることが期待されます。

 的崎教授は、「1994年に神戸大学でSAP-1を発見して以来、多くの共同研究者の努力によって漸くその機能を明らかにすることが出来ました。今後は、SAP-1やCEACAM20の機能をより研究することにより、炎症性腸疾患の新たな治療薬の開発をしたい」と話しています。



腸上皮細胞の微絨毛に存在するSAP-1。SAP-1はその一部を腸の内腔に出し、細胞内にはチロシンホスファターゼドメインという
酵素活性部位を持つ。SAP-1は同じ微絨毛に存在する分子「CEACAM20」の機能を抑制し、腸炎の発症を防ぐと考えられる。

関連リンク

(医学研究科、広報課)